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会場に入ってきたのは、噂通りの華美な宝飾と正装に身を包んだお二方だった。


この国では見たこともないような大ぶりの宝石の指輪をいくつもしていたり、首飾りや耳飾りもしている。


この国の男性は首飾りや耳飾りをしている方は見たことがないし、女性でもあそこまで複数の指輪を身に付けている方は見かけないので、お二方の格好には新鮮さを感じる。


お二方の元へお父様やお母様がご挨拶に向かわれるのが見えて、私も慌ててその場へと向かった。


お二方の前まで行き、お父様方に紹介していただいた後、挨拶の言葉を口にする。


「アニビア大帝国の皇太子殿下、第二皇子殿下、初めましてご機嫌よう。この度は姉フランの婚約パーティーにようこそおいでくださいました。私はフランの妹の第五王女のローゼと申します」


緊張しながらも挨拶の言葉を伝えて、カーテシーをする。


「貴方が第五王女のローゼ殿下か」


「兄上、噂通りですね」


皇太子殿下が私の全身を上から下まで見て呟くように言う。

その視線が居心地悪く感じ、少し俯きがちになってしまう。

そんな皇太子殿下に何かを囁くように話をしている第二皇子殿下。


正直、あまり良い印象は持てないかもしれない。


「俺がアニビア大帝国の皇太子のアンディーテだ。こちらが弟で第二皇子のルデゼルータ」


「よろしく、ローゼ王女殿下」


第二皇子殿下もといルデゼルータ様から手を差し出され、困惑しながらも握手を交わした。握り返された時に少し力を込められたようで、力の強さについ目を細めてしまった。


こんな風に殿方から握手を求められることが無かったから緊張してしまったわ……。


お父様やお母様が私の様子を見かねてか、さりげなく間に入ってくださり、

お父様が声をかけてくれて、

「それでは私達からのご挨拶も済みましたし、よろしければ他の貴族の方々にも挨拶回りをしていただきたいのですが、ご案内させていただいても?」と聞いてくださった。


皇太子もといアンディーテ様とルデゼルータ様は一瞬顔を見合わせた後、にこやかに微笑み、「それではお願いします」と言う。


それに私が安堵すると、アンディーテ様が「あ、でも一つだけ良いですか」と言葉を続けた。


「後でローゼ王女殿下には俺達とダンスを踊っていただきたい」

「えっ?」


その言葉に私もお父様もお母様も驚いて、お父様が困った顔をしながらも何とか断ろうとしてくれる。


「…生憎ですが、ローゼはダンスが苦手ですので……」

「構いませんよ。俺達が上手くリードしますから」

「し、しかし……」

「さぁ、サンカリュア国王陛下、挨拶回りへ行きましょう。ダンスまでも時間が迫っているでしょうし」


にこやかにそう言いながら、お父様の肩に腕を回し、ほとんど強引に挨拶回りへと向かわれてしまった。


「ど、どうしよう……」


何故、私となのかしら。

唯一婚約者の居ない立場だから?


でも、ルデゼルータ様とだけならともかく、アンディーテ様は確か正妃様や側妃様が居たはず。


一夫一妻制のこの国に対し、アニビア大帝国は皇族に限り、一夫多妻制も認められているらしく。

愛人に関しては、貴族以上の身分なら男性も女性も持てるのだと聞いたこともある。


そんな帝国の御方が何故私なんかと……。


そこまで考えて、自分にとって最も嫌な想像をしてしまった。


まさか、私を側妃や妾として迎えようと……?


いいえ、いくら何でもこんなふくよかな体型の女を愛人とはいえ、迎える気にはならないはず。


とりあえず一曲はそれぞれ踊らなければいけなくなってしまったけれど、踊ったらすぐにその場を離れよう。


今夜はフランお姉様のご婚約のお祝いの場だから、お開きまでは居たかった。

それでも、あの御方達とは必要以上にかかわり合いになりたくはない。


残念だけれど、お父様達にも説明して、早めに自室に戻らせてもらおう。


その後、挨拶回りを済ませたお二方は宣言通りに私の元へとやって来て、演奏が始まると共にまずアンディーテ様と一曲踊った。

二曲目はそのままルデゼルータ様と。


公式の場で二曲続けて踊ったのは、ゾイス様とのダンスの時以来だったけれど。

お二方の少し強引なリードの仕方に振り回されてしまって。

ゾイス様の時とは比べ物にもならないぐらい疲れ果ててしまった。


二曲目が終わった瞬間、すぐに弾かれたようにその場を離れた。お二方には何かを言いかけられたけれど、お辞儀だけして小走りで立ち去ってしまった。


お父様達にはダンスを踊る前に予め踊り終わった後自室に戻ることを伝えてあったし、了承ももらえている。


お二方には少し失礼な態度だったかもしれないけれど、これ以上は私の精神的にも厳しいし、今後はもう関わらないだろうとも思って。


会場を出て、王宮の誰かに声をかけようと思ったところで、

「ローゼ様?」

……この場には居ないはずの御方の声が聞こえた。


「……!!ゾイス様……どうして…」


恐る恐るその声の聞こえた方を振り向くと……そこには確かにゾイス様の姿があった。


「良かった。また会えましたね」


嬉しそうに微笑むゾイス様に、何だか泣きたくなった。


「仕事を何とか早めに切り上げて急いで来てみたんですが……ローゼ様?どうかしましたか?」


来てくださった理由をせっかく説明してくださっているのに、私は何も答えられなかった。

……口を開けば色々と言ってしまいそうで。


「…ローゼ様、何があったのか、私に教えていただけませんか」


ゾイス様は、私の前に跪いて、私の手を取ってそう言う。


ゾイス様を跪かせてしまったことに驚きと困惑から、ようやく口を開いて、「ゾイス様…!跪くのはお止めください……!」と伝えるが。


ゾイス様は微笑みながら、「では、教えてください。でなければ私もずっとこのままの姿勢で貴方の言葉を待ちますから」…と、強引なことを言っているのに、その言葉には何故だか圧を感じず、むしろ優しさすら感じられた。


優しさを感じられたからか、私は気づけばぽつりぽつりと話してしまっていた。


「……特にどうということはないんです。……ただ、今回のパーティーには隣国のアニビア大帝国から第一皇子様と第二皇子様が参加していらっしゃっていて、挨拶をした時にお二方にお声をかけていただいて、ダンスをご一緒に踊っただけですから……」

「……そうだったんですか」

「……はい」


事のあらましを伝えると、ゾイス様は一瞬顔をしかめて返事をし、次の瞬間にはまたすぐにいつものような穏やかな微笑みを携えた。


「教えてくださってありがとうございます。……それで、ローゼ様は今どちらへと向かわれていたのですか?」

「あ……自室に戻ろうと……」

「そうだったんですね。ではそちらまでお送りします」

「えっ?でも…これから会場に向かわれるのでは……?」

「いえ、今夜はもう帰ろうと思います。やるべきことを思い出しましたので。それにローゼ様にもまた会えましたしね」

「え、」


思わぬことを言われ、赤面してしまう。

……つい先程まではとても憂鬱な気分だったのに。

今はすっかりゾイス様のペースに呑まれてしまっている。


「それでは行きましょうか」


ゾイス様は立ち上がり、私の手を取ったまま、歩き出した。


歩く歩幅は明らかに違うはずなのに私に合わせてくれているのか、とても歩きやすいペースだった。


あっという間に自室の前まで着いて、アンが出迎えてくれた。


「それでは私はこれで」

「…あ、ありがとうございました、ゾイス様」

「いえ。では、またお会いしましょう。お休みなさい、ローゼ様」

「はい。お休みなさいませ、ゾイス様」


自室に入り、すぐに湯浴み等を済ませて、ベッドに横になった。


ゾイス様とまた会えてやっぱり嬉しかった。

もう会わない方が良いかもしれないだなんて考えていたくらいだったのに。


いざ会えたら嬉しくて、ゾイス様のお言葉一つ一つが優しくて、身体にすっと馴染む感覚があった。


他の殿方ではそんな感覚は無かったし、特にアンディーテ様やルデゼルータ様と会話した時は、ゾイス様のように微笑んではいるのに何故かゾイス様とは違って見えて。


言葉や視線も、私の体型を見下したような馬鹿にしたようなものとも違っていたのに、良い印象が抱けなかった。


それにどこか、値踏みをされるような、何かを判断されているような気分にさせられた。


お二方のことを思い出すと、また不安な気持ちになってくる。

それでも、ゾイス様と少しの間会えたことで大分気持ちも和らいだように思える。


『またお会いしましょう』と言っていただけた。

前回もそう言っていただいて、実際に今回また会うことができた。


次もまた少し期待してしまっても良いかしら……。


そんなことを考える自分に驚きながらも、良い夢が見れそうだなと、そのまま目を閉じた。



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