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翌朝。

アンや侍女のメアリーに起こされ、目が覚めた。


朝の身支度で、メアリーに髪を結い上げてもらっていると、アンやメアリーがにこにことしながら昨夜のことを聞いてきた。


昨夜もたくさん話したのに…と思いつつも、あまりに嬉しそうにしてくれるからついついまた話をしてしまう。


「まあ!ラーリッシュ公爵家のゾイス様は本当に素晴らしい御方ですわね!」

「ええ、本当に。ローゼ様を見初めてくださるなんて、本当に見る目のある方ですし」


アンの発言にぎょっとし、「見初められてない!見初められてはないから…!!」と慌てて訂正する。


「あら、おほほ。そうでしたか?」

「アンったらもう……」

「それも時間の問題なのでは?」

「メアリーも何を言ってるのよ!昨夜が本当に運が良かっただけで、今後もゾイス様とは関わることなんて到底無いわ」


恋の話をする乙女達のように楽しそうなアンとメアリー。

楽しそうなのは良いけれど、私とゾイス様が恋仲になるなんて、そんなこと、ファンタジーでも有り得ないことだわ……。


「ローゼ様だってこんな素敵で立派なレディですのに。どうしてここまで謙遜なさるんです」

「そうですわ!ローゼ様はとても可愛らしく、お美しく、お優しい御方ですのに!」

「そんなことはないから……」


アンとメアリーは必死に私に訴えかけてくるけれど、私は首を横に振った。


こんなふくよか体型で、お世辞でもとんでもないくらいなのに、彼女達は本気で言っているのだから質が悪いと思ってしまう。


彼女達に限らず、家族や他の王宮の人々もだ。


これでもかと甘やかしてくれる環境に居るので、自分が本気で可愛いんじゃないかと勘違いしそうになった時期もあった。


まぁ、さすがに今はデビュタントや数々のパーティー、お茶会等に参加させてもらって、本当に可愛らしくて綺麗でスタイルの良い方々ばかり見てきてるから、勘違いをする気も起きないけれどね。



「もうっ、私のことはいいのよ…!それよりも、昨夜、フランお姉様が辺境伯様といよいよご婚約されるというお話はどうなったの?」

「ああ、そうでしたそうでした!この後の王様と王妃様との朝食のお時間の際に、詳しいお話があるかと思われますが、今度フラン様と辺境伯様の婚約パーティーを王宮にて開かれる予定だそうですよ」

「まあ!そうなの…!ついにフランお姉様もご婚約なされるのね!」


パーティーには苦手意識があっても、こういう祝福の場はやはり是非参加したいと思う。ましてや、私のお姉様のお祝いなら尚更のこと。


「フラン様のご婚約のパーティーとなると、大きな規模になるでしょうから、"アレ"に気を付けないといけないのかしら…?」

「まぁ…!今、巷を騒がせている"アレ"ですわね…!!」


心配そうなアンとは対照的に少し楽しそうなメアリー。

"アレ"って一体何のことかしら…?


「ねぇ、"アレ"とは一体何のことなの?」


私が二人に尋ねると、二人とも揃って不思議そうな顔をした後、すぐにハッとしたような表情になった。


「あぁ…!ローゼ様はまだ知らなかったのですね!」

「てっきり博識なローゼ様のことですから、いち早く知っているものだとばかり……!」

「?? …もう!勿体振らずに教えてよ」


私が少し拗ねながら二人に早く話すよう促すと、アンは笑いながらも答えてくれた。


「ふふふ、ローゼ様、申し訳ございません。"アレ"というのはですね……"怪盗ナイト"のことですよ」

「怪盗……!?」



怪盗って、普段私が読んでいる本の物語に出てくるような……"あの怪盗"

のこと……?


「ええ、そうなんです。……最近、貴族の方々のお屋敷で大きなパーティーが開かれると、怪盗が現れるんだそうです」


半信半疑な私の様子を見て、メアリーがさらに続けて説明してくれる。


「怪盗だなんて…そんな存在は本の物語だけの存在だと思ってたわ」

「ええ。私もです、ローゼ様。でも、最近騒がれている怪盗は決して幻の存在や創られたものではなく、実際に存在するようなのですよ」

「つい先日はタルボルテ子爵家で盛大に開かれたご子息のご婚約パーティーでも現れたそうです!」


アンがそう話すと、それに続けてメアリーも少し興奮気味に話し出す。


アンはそんなメアリーを嗜めながらも、話を続けた。


「パーティーを開かれる際に、予告状が届いたようなのです。その予告状には『今夜のパーティーで、タルボルテ子爵家に眠る宝石、"鮮やかな新緑の涙"を頂戴しに参ります。怪盗ナイト』というような内容のものが書かれていたとか」

「そして…!!それを信じなかったタルボルテ子爵家の方々はそのままパーティーを開いたようなのです。……ところが、その夜、本当に怪盗が現れて"鮮やかな新緑の涙"もといタルボルテ子爵夫人が身に付けていたエメラルドの指輪を盗まれてしまったのです……!!」


爛々と目を輝かせながら話すメアリーは先程よりも声が大きくなり、さらに興奮がおさえられない様子。


……メアリーはきっと、その怪盗のことを気に入ってしまっているのね。


「もう、大きな声で話すんじゃありませんよ、メアリー」

「あ、申し訳ございません……つい熱が入ってしまって」

「……でも、それならばタルボルテ子爵夫人様も大変ね。大切な指輪を盗まれてしまったんだもの」


アンとメアリーのやり取りに苦笑いしながらも、盗まれてしまったという指輪の行方が気になった。


「それが……」


メアリーが何かを言いかけたところで、部屋の外からノックされる音が響く。


「ローゼ様、お支度の方はそろそろお済みでしょうか。国王様方も、もうお待ちでございます」

「あら…!ごめんなさい!すぐに行くわ!」


執事が迎えに来てくれたようで、慌ててアンとメアリーを連れて、家族の待つ食卓へと向かった。


「遅くなってしまい申し訳ありません」

「良いんだよ、ローゼ。さぁ、座りなさい。冷めてしまう前に頂こう」

「はい、ありがとうございます」


お父様方に遅れてしまったこと謝罪し、席に着いた。


今朝も、王宮のシェフ達が腕によりをかけて、とても美味しそうな食事を用意してくれている。


「食べながら聞いてほしい。昨日も少し話してあったが、この度めでたくフランが正式に婚約することとなった。そこで、近々王宮でフラン達の婚約パーティーを開こうと思う」

「フランもようやく婚約か…本当にめでたいな」

「私もフランお姉様方の婚約パーティー楽しみです」

「お父様、ジェイクお兄様、ローゼ、ありがとう。今回の婚約パーティーはお父様達の提案で王宮で開かせていただくことになったの。それで、結婚式は私達の希望でパジェッタ辺境伯領地で開こうと思っているわ」


心から嬉しそうなフランお姉様の様子に私も嬉しくなる。

きっと今回の婚約パーティーも、今後開かれる予定の結婚式も素晴らしいものになるにちがいないわね。


そのまま私達は食事をしながら、婚約パーティーの話を進め、どういったものにしようか、意見を出し合った。




それから一ヶ月後。

あっという間にフランお姉様と辺境伯爵様の婚約パーティー当日となった。

ちなみに、噂の怪盗からの予告状は届かなかったので、アンも私も一安心している。メアリーは何だか少し落胆していたけれど。


婚約パーティーも結婚式も貴族は盛大にやることが多いけれど、フランお姉様方は結婚式は辺境伯領地で、領民達も招いて穏やかな式を開きたいとのこと。


それもあって、婚約パーティーは夜会形式で王宮で盛大にやろうと、お父様もお母様も王宮の人々も張り切ってしまっている。


そして、ここ一ヶ月程はパーティーやお茶会等に参加していなかった私も、今夜は一ヶ月ぶりにパーティー用の華やかなドレスに身を包んで出席していた。


始まるまでは楽しみにしていたし、フランお姉様方のことも心から祝福する気持ちでいるけれど。


やはり視線が気になってしまい、大体の挨拶回りを済ませた後は早々に、また一人で人々が集まる場所から離れたところに避難してしまっている。


今夜の婚約パーティーでは多くの貴族の方々が出席していて、その多さはデビュタントの時以上だ。


ましてや、この後少し遅れて隣国のアニビア大帝国からも皇太子殿下、第二皇子殿下が出席なされるとのこと。


普段、貿易や外交で最低限の関わりはあったものの、わざわざこの国のパーティーに参加したことはなかったはずなのに。


というのも、この国とは違って、アニビア大帝国はとても大きな帝国で、皇族の方々や貴族の方々も華やかなものを好む方が多いと聞いたことがある。国の豊かさの象徴にもなるからだと。また、娯楽も多いのだとか。


その点、この国の皇族…つまり私達のことだけれど、華美なものをあまり好まず、最低限の宝飾を身に付ける程度。


貴族の方々は人にもよるけれど、あまり華美なものを身に付けている人は多くない。


娯楽も無いわけではないけれど、アニビア大帝国に比べれば断然少ない方だといえる。


そういった違いもあり、あまり良くない言い方で言うと、華やかなもの好きな国からするとこの国は地味で特に面白味がないのだと思う。


それがどうして、今回王族とはいえ、第四王女と辺境伯爵の婚約パーティーに参加する気になったのか。


お父様やお母様曰く、こちらから招待したわけではないとのこと。


皇太子であり王太子のジェイクお兄様の時には招待しようとしたそうだけれど、興味がなかったのか、祝いの手紙や贈り物のみで、参加はしていなかった。


それ以降はスタンお兄様の時も、アリアお姉様の時も、結婚の報告のみで招待状は出さなかったと聞いた。


だからこそ、今回の参加する旨を聞いた時は心底皆驚いていた。

私やフランお姉様も驚いたし、お父様やお母様でさえ、とても驚いていたぐらい。


招待状は今回ももちろん出してはいなくて、結婚後に報告するつもりだったらしいけれど、一応婚約パーティーは開くということは伝えておこうとなって伝えてみたらしい。


そうしたら、何故だか、"是非とも皇太子殿下と第二皇子殿下を参加させたい"というような内容の手紙が送られてきて、そこからは慌ててパーティーの内容を見直し、お二方のこともしっかりと歓迎・おもてなしできるように準備することになった。


お二方は本日この国の観光をしてから夜会に参加すると聞いている。


遅れて来るというのも、観光地を巡った後、身支度に時間がかかっているからだとか。


どんな御方達なのか、噂には聞いているけれど見たことはない。


その噂というのも、あまり良くないものばかりで、正直会うのが怖いとも思う。


けれど、まだ会ったことどころか、見たこともない御方達を決めつけるのも良くないことだし、最低限挨拶はしないといけない。


挨拶の言葉を考えながら、今から少し憂鬱な気分である。


はぁ……。

この婚約パーティーにゾイス様も来てくださっていたらもう少し気分も晴れたかもしれないのに……。


そこまで考えて、ハッと我に返る。


……私、何を考えているのかしら。


一ヶ月前のパーティーでの出来事が頭を過って、ゾイス様のことを考えてしまった。


ゾイス様のことは今回のパーティーにはお父様が招待していて、元々参加予定だったけれど、本日になって急遽魔術師団の仕事が入ってしまい、参加できなくなったと聞いている。


ゾイス様以外のラーリッシュ公爵家の皆様は参加してくださっていて。


ゾイス様が今回のパーティーに参加することができず、非常に残念そうにしていたと教えてくださった。


それを聞いた私もとても残念に思ったし。

お父様やお母様、アンやメアリー達まで落胆していて、皆それぞれゾイス様とお会いできることを楽しみにしていたんだと思う。


でも、本来は手の届かないような存在の方だし、今回は逆に会わなくて良かったかもしれないとも考えている。


会ってしまったらまたどきどきして緊張して赤面してしまうだろうし。


それよりも、アニビア大帝国の皇太子殿下、第二皇子殿下への挨拶のことを考えなければ。


気を取り直してそう考えたところ、会場が一際騒がしくなった。


……きっとあの方々が皇太子殿下、第二皇子殿下ね。





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