県教委は踊る。されど進まず①
翌週。
県庁内の一室では、課長が頭を抱えていた。
先週の鼓滝大学で行われた大学生アンケートの結果表が彼のパソコンのモニターに映し出されている。
いうまでもなく、教員としての就職希望者はゼロだった。
コメントには、彼にとって辛辣な意見が並んでいる。
ここは天国に一番近い場所か。いや、地獄に一番近い場所か。
労働力の搾取を公が行っていることに疑問を感じます。
誰がなるか、こんな奴隷に!
こんなプレゼンで教員志望者が増えると思い込んでいる県教委はどうかしている。
こんなコメントが彼の目の前に映し出されていた。
「おのれ学生どもめ……こうなれば、拉致……いや洗脳してでも彼奴等を教員に……」
既に思考がサイコになっている課長だが、平木谷は冷ややかな目でそれを眺めている。この課長がおかしくなるのはいつものことだ。
「平木谷君! これはどういうことだ?」
平木谷を呼びつけると、課長はパソコンのモニターを叩いた。
「どう、と言われましても……これが学生たちの価値観です。一昔前とは違い、今は売り手市場ですから、学生たちにとってもメリットがある職場、職業にしなければ学生たちは応募してくれませんよ」
至極当たり前のことを言ったつもりなのだが、課長はキレた。
「こンの愚民めがッ! 子どもたちのために命を削り働くことができる、これこそが人類唯一の名誉だと思わんのかッ! 平木谷ッ! 貴様も貴様だ! 命を懸けてでも、次の教員採用試験の倍率を五千倍以上にするんだ! さもなくば」
「課長、それはパワハラを通り越して脅迫です。ついでにその次の言葉次第では傷害未遂になりますよ」
「黙れッ! 私が間違えているというのか!」
「少なくとも日本国の法律には反しているかと」
「だから貴様は飼い犬なのだッ! 法律を持ち出すなど愚物のすること。今は緊急事態なのだ! どんな手を使ってでも教員人気を復活させねばならんのだッ! 分かるか!」
「分かりますけど、手段は選びましょう。クスリ使ったり、拉致洗脳したりは警察に逮捕されます、明らかに」
「それは貴様がやったことにすればいいッ!」
「どこのヤクザ組織ですか。トカゲのしっぽ切りしたって、逮捕者が増えるだけですよ」
「唯一の超越した司令塔たる私が無事ならそれで構わん」
「今までの会話、録音したんで、そこのところご承知おきください」
「貴様ッ! 上司を売るつもりか!」
「自衛手段です」
「この※〇×÷■▽▲!」
どこの言語か分からない音を叫んで、口から泡を吹いている課長を見て
「これはダメだ」
と確信した。
狂ったようにフロア内を暴れまくった課長はガラスを割って、庁舎から飛び降りる姿が見えたが放っておいた。いつもの発作だ。骨折くらいはするだろうが、いずれ戻ってくるだろう。それまでに何か手を打っておいた方がいい。
平木谷は寂田高校に電話した。
こんばんは、星見です。
もう春ですね……と思いきや、温度差がすごいことに……
パワハラ管理職が出世するというシステムが今の惨状のすべてを物語っているような気がします。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……