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学校の先生の魅力はこれだ!③

 課長からマイクが平木谷に手渡された。

 もう平木谷はこのイベントの失敗を確信している。何しろ、目の前の学生たちの態度がそれを如実に示しているからだ。

 しかし、仕事は仕事。

 この場を投げ出したいが、投げ出すわけにもいかない。

「えー、それでは学生の皆さんから現職教員の方への質問タイムとしたいと思います。質問したいと思われる方は挙手してください」

 場内が少しざわつく。

 それから数十秒した後に、一人の男子学生が手を挙げた。

「はい、ではそちらの男性の方」

 係員からマイクを渡された男子学生は朗々たる美声で、三人に質問を投げかけた。

「土日……休日は確保されていますか? どうも先生方のお話を伺っていると、休日がないように思えてしまったのですが」

 誰に答えさせても多分結果は同じだろう、と平木谷は諦め顔だ。

 もちろん今野ならば、彼の性格だ、正直にありのままを答えるだろう。

「では、後夷先生。いかがですか?」

 マイクを渡された後夷は

「はい。休日はありません。生徒のために、です。生徒のために存在するのが我々です。生徒のために、というモットーで土日は家庭訪問か講習を学校で行っています。本校は県内有数の進学校を掲げていますので、保護者は難関大学進学を求めています。それを実現するために、日々交代で業務にあたっています」

 と苦々しそうに答えた。

「ありがとうございます。では、軍馬先生」

 次にマイクが渡ったのは軍馬だ。

「休日はあります」

 との一言に学生たちに反応があった。予想外だったからだ。

「休日は部活動の日です。部活動そのものが休日です。ですから、毎週土日は一日中休日です。部活動をしていれば、熱さとエネルギーをもらえます。学生の皆さん、青春を再びバーニングしてみませんか?」

 学生たちの間で失笑が飛び交う。

「生徒のために、が合言葉です。生徒たちが休日の部活動がしたいと言えば、我々はそれに全力で応える義務があります! 一日中部活動がしたいと言えば、朝から日付変更まで部活動です! たとえその競技の素人であったとしても勉強し、プロを目指せるだけの力量を備えるのが教員の責務。生徒のために人生を捧げるのはとても良いものですよ」

 軍馬の次にマイクが渡ったのは今野だ。

「残念ながら」

 と前置きしてから

「今、教員に休日などありません」

 とはっきりと答えを述べた。

「生徒のため、保護者のため、学校は日夜動いている……いわば、不夜城となっているのが現状です。学生の皆さんはこの現状をよく調べてから、教職に就くことをお勧めします。また、最近は理不尽な要求も多く、たくさんの教員が精神疾患で休職あるいは退職することもよくあります。つまりはストレス耐性と長時間労働に耐え抜く体力が必要になります。結婚は諦めてください。労働基準法で守られていると思わないでください。我々教職員は諸々の法律を超えた、きわめて特殊な職業です」

 この答えに、質問をした学生からは礼の言葉が述べられた。

「ここまで事実を明確に仰った教職員は今野先生が初めてです。ありがとうございます。私は教育学部ですが、この発言で考えさせられることが多々ありました」

 今野は軽く会釈した。

「参考までに今日の予定を教えていただけますか?」

 質問をした学生から再び問われると、今野はすぐにそれに応える。

「この質問会が終わると、家庭訪問を行い、夜の十八時から二十三時まで部活動があります。その後、午前四時まで生徒を預かり、夕食を食べさせ、仮眠を取らせます」

「なるほど、過酷を極める勤務ぶりですね。ご自宅へは帰られているのですか?」

「いいえ。一週間に何度かは帰宅することができますが、今週のように日曜日に召集がかかりますと、帰宅できないことがあります。これはどこの県立高校でもありうることです」

 一連の今野の発言に課長は慌てふためいていた。

 教員の魅力を発信するはずが、これではブラックな状況を暴露しただけだ。むしろ、大学生が教員を目指してくれなくなる。

 課長は平木谷からマイクをひったくると

「えー、それでは! 先生方はこれから仕事がありますので、ここまでで質問会は終わりとさせていただきたいと思います! 大学生の皆さん、教員という仕事の魅力がお分かりになったでしょうか? ぜひ、わが県の教員になってください! お願いです!」

 と無理矢理締めくくった。

 この会の終了後、グーグルフォームを使ってのアンケートで教員を目指すかどうかを調査したが、教員を目指すという大学生の数はゼロだったことは想像に難くない。

こんばんは、星見です。

筆がのりますね……!

というわけで、5回目です。


ではまた次回お会いできることを祈りつつ……

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