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学校の先生の魅力はこれだ!①

 二〇三〇年度、春季教員仕事丸わかり懇談会。

 そう銘打って、県教委の教員魅力発信課は県内の有名大学の一つである鼓滝つづみがたき大学で、大学生を集めて懇談会という名のアピールを行った。そこに動員されたのは今野の他、県内のアラサー若手教員たちである。日曜日という大事な休日なのにと今野はしかめっ面をしながらスーツに袖を通して、会場に向かった。

 懇談会の内容は若手教員のぶっちゃけトークと学生からの質問に教員が答える時間で構成されている。

 平木谷と今野たちは軽く打ち合わせをして、鼓滝大学の講堂にある演台に上がった。そこに準備されている椅子に座る。既に、どの教員の顔にも疲労の色がにじんでいる。それを見て、学生たちからは失笑が漏れた。

「それでは、時間となりました。今日は鼓滝大学の皆さんに、教員という仕事の魅力を再発見していただこうと思い、ざっくばらんに現職教員と話す時間を設けさせていただきました。皆さんの目の前には三十前後の若手教員たちがおります。まずは彼らの日常生活とトークをお聞きください!」

 元気よく笑顔で平木谷は司会をしたが、ターゲットの大学生たちはほとんど真剣な表情をしていない。服装もスーツではなく、Tシャツにだぼだぼのパンツの男子大学生が目立った。さすがに女子大学生は男子ほどラフではないにせよ、スーツ姿の学生は一人もいない。

 集められた教員の一人、ひばりが丘高校の男性教員から自己紹介が始まり、最後は今野だった。そこからトークが始まる。

「今日もお疲れ様です、先生方。ひばりが丘高校の後夷うしろいです。地歴公民科で、進路指導部です。バレーボール部顧問をしています」

 その声音には疲労感がこれでもかと表れている。元々細身の教員なのだろうが、その姿はスマートというよりかはげっそりしているといった方が正しいかった。

「お疲れ様です、後夷先生。私は戦が原高校の軍馬です。保健体育科、生徒指導部。部活動は野球部です」

 大柄で筋肉質の教員の自己紹介が終わった。スポーツ青年なのだろうが、目が死んでいることを大学生たちは見逃さない。

「おはようございます。寂田高校の今野です。教務部、一年生担任、教科は数学です。部活動は……」

 この後、夜から部活動があったなと思って言葉が途切れた。

「バスケットボール部です。よろしくお願いします」

 そして、平木谷の司会進行でトークが始まる。最初は三人のプライベートに関する話題を振られた。

「やはり、野球部顧問なので野球の指導がしたいですから、プライベートはあまり考えないですね。まあ、仕事がプライベートみたいなものですから」

 ダメだこれは、と今野は聞きながら大学生の反応を見る。

「休みの日は何をしているんですか?」

 平木谷からの質問が飛ぶが

「部活動です。土日祝日の部活動こそ、生徒との人間関係を築く絶好の機会ですから。それに授業では輝けない子も部活動なら輝ける。そう信じて、私はできる限り、土日祝日は生徒と過ごすようにしています」

 と当たり前のように返した。

「今野先生は休日は何をしているんですか?」

 と軍馬から聞かれた。

「ひたすら寝ています」

 即答だった。

「平日は大体二十三時くらいまで勤務しています。平日の平均睡眠時間は四時間程度なので、休日に寝だめしておかないと体力がもちません。バスケ部も土日祝は毎日活動していますが、今年度は担任ということもあり、土日はできるだけ体力温存につとめています」

 大学生からは笑い声が上がった。

 ウケたと思ったのは教育委員会の幹部くらいしかいない。平木谷はもう半分以上諦めかけていた。何しろ、今野は嘘は言わない、と条件をはっきり出したのだ。

「後夷先生はどうですか? ひばりが丘高校は県内有数の進学校……部活動よりも進学指導で忙しいと思いますが」

 今野は話を後夷に振った。

「はい、お察しの通りです。本校は闘狂とうきょう大学をはじめ、凶斗きょうと大学や王逆おおさか大学の医学部を目指して入学する生徒が一定数いますので、毎日八時間授業を行っています」

 この話に会場からはどよめきが起こった。そもそも県立である鼓滝大学は有名とはいえ、名前を挙げられた国立大学よりは幾分か偏差値的に劣る。

「今年度から保護者からの要望がありまして、十五時間授業も行っているところです。基本的に学校に泊まり込みの日が週に何日かあります。幸い学校には宿泊施設や風呂等が整っていますので、そこまで苦にはなりません。お二人の勤務校は何時間授業ですか?」

「戦が原高校は部活動で名を上げたいと考えておりますので、四時間授業です。五時間目と六時間目は部活動です。部活動は大体毎日八時間の時間をとっています」

「寂田高校は六時間ですね。教務的に七時間にしなければならないこともありますが、まあごくまれです」

 二人の返事に後夷は心底羨ましそうな表情になった。

「先ほど保護者からの要望とありましたが、皆さんの勤務校ではどのように保護者の要望に対応しておられますか?」

 地雷級の話題を振るんじゃねえ!

 平木谷は急に演台に出てきた課長に視線を送ったが、課長は鈍感なのか気付いてすらいない。

 ダメだ。

 どう考えても失敗だ。

 地雷を踏みぬいた上、トマホークを投下した課長は嬉しそうに三人を見た。

おはようございます、星見です。

土曜日に一気に3000文字書き上げてしまいました。

多分今週末も一気に書き上げることかと思います。


ではまた次回お会いできることを祈りつつ……

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