教員魅力化プロジェクト!①
教員魅力発信プロジェクトと名付けられた企画に平木谷は参加することになった。何のひねりもなく、ただ単に現役教員にやりがいや一日の流れを大学生に話してもらうだけの企画である。これまで他県で数えきれないほどやりつくされている手法であった。
しかしながら、上層部はこれに拘り、このプロジェクトに協力する学校および教員を選定し始めた。もちろん、協力を持ちかけられた学校と教員に拒否権はない。左遷人事をちらつかせて協力“してもらう”のである。やり口がヤクザにそっくりだとか言ってはいけない。これが公教育の裏側だ。
「平木谷くん、協力者は寂田高校の今野育夫先生になった。彼とコンタクトをとって、日程調整をしてくれ。同年代の先生だから、やりやすいだろう」
四十代半ばの課長は、やりやすいだろうと恩着せがましく強調して指示を出す。
がははとだみ声を残して、彼は平木谷のデスクの前から去っていった。その後ろ姿を見て、平木谷はため息を吐き出してから、件の高校に電話をかけた。
「もしもし、教員魅力発信課主事の平木谷です。今野先生はいらっしゃいますか?」
電話口に出たのは教頭だった。妙にペコペコしている。すぐに今野に電話がつながれた。
「お疲れ様です。寂田高校の今野です。管理職から大まかな話は聞いていますが、具体的な説明をいただけるそうで」
よく通る低い声が平木谷の耳に届く。
「今野先生、お忙しいところすみません。お聞きの通り、本県の教員人気は低下しています。そこで、若手の先生のお力をお借りすることができればと……」
「あー……そんなことだと思っていました」
呆れたような、バカにしたような反応が返ってくる。
「私のような若輩者が学生さんたちの前でサービストークしたところで、どうにもならないと思いますよ。通り一遍のことしか言えませんし、経験がそこまであるわけでもない。要するに、売り込みをかけるわけですから、こっちのマイナスな……というより、ダークな事情は伏せねばならない。しかし、その事情をセールス相手の大学生は知っている」
「……お考えはよく分かります」
「分かっていてなお、私にそれをしろ、と?」
「私も微力ながら協力させていただきます」
「主事、あなたもご存知の通り、私ごときが……失礼を承知で申し上げれば、我々若手二人ごときがどう頑張ったところで事態は解決しません。それでも良いのでしたら、引き受けます」
平木谷は承諾した。
もとより、こんな企画一つで問題が解決するとは思っていない。
「それから、条件を一つ」
「なんでしょう?」
訝る平木谷に今野は容赦なく突きつけた。
「私は詐欺の片棒を担ぐつもりはありません。学生からの質問にはウソ偽りなく答えますし、私の業務内容を聞かれた場合は正直に答えます」
それは現状のブラックぶりを現職教員が暴露する、証明するということを意味する。しかし、これらはネットで既に明らかになっていることであり、今更だ。学生たちもある程度の情報収集はしているだろう。
「もちろんです。我々は正直に、学生たちの誠実さに応えましょう」
こんばんは、星見です。
この作品はすらすらと筆が進みます。
書きたいものを書くっていいですね!
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……