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「おい、大丈夫か! 」


 そう叫びながら、男たちが駆けつけてきた。

 昨日、私が雇った傭兵たちである。


「ロムソン村に用があってな。ちょうどここを通っていたら、あんたらが魔物と戦っている姿を発見したわけだ」


 と、リーダーが言う。

 他人のふりをしているのは、ユミたちの前では他人のふりをするように、予め指示をしていたからだ。


「私らもロムソン村へ行こうとしてたら、毒タヌキに遭遇してしまってな……。1人が胃液にやられて気絶してしまったよ」


 と、私は3人に説明した。

 

「そうか。なら後は俺たちに任せて、あんたらは急いで離れた場所まで逃げろ」


「すまない……そうさせてもらうよ」


 ユミとマリーアも頷き、俺はダヴィドを担いで速やかにこの場を後にする。


 それから10分ほど歩き続けて、一休みを兼ねてダヴィドの治療をすることにした。私はダヴィドの体に手を当てて解毒魔法を発動する。


「これで、何とかなったはずだが……。なんだか、急に眠く……」


 先程から私は、時間が経つにつれて眠くなってきたのである。疲れのせいだろうか? 

 それもあるかもしれないが、一番の原因は恐らくダヴィドの服に付着した毒タヌキの胃液であろう。うっかりしていた。


 だが、直ぐに眠くならなかったのは、不完全ながら解毒魔法が効いていたからだろう。

 

「カルロさん。大丈夫ですか! 」


 私が地面に座り込んでから、下を向いて俯いているとマリーアが心配したのか声をかけてきた。


「眩暈が酷くてね、たぶん胃液にやられたのだと思う」


 私はそう言ってから、まだギリギリ意識が保てている内に、自分に体に手を当てて解毒魔法を発動した。


「具合は、大丈夫ですか? 」


「解毒はしたから、その内、眠気も覚めるだろう」


 とはいえ、私は疲れているので眠気が覚めないかもしれないが。


「ところでユミの奴は……」


 私とマリーアがユミの方を見ると、何とユミは倒れていたのである。


「まさか、ユミさんも!? 」


 と、マリーアが驚き言った。


 恐らくユミも、毒タヌキの胃液が原因で倒れたのだろう。

 仕方がないので、私はユミにも手を当てて解毒魔法を発動させた。

 

 そして、ユミの治療も済ませた後、念のためにマリーアにも解毒魔法による治療を行うことにしたのである。


「念のため、マリーアにも解毒魔法をかけておこう。マリーアもいつ症状に襲われるかわからないしな」


「はい。お願いいたしますね」


 私は、マリーアに手を向けて解毒魔法を発動した。

 解毒魔法というのは、一瞬で終わるようなものではない。接種した毒が多ければ多いほど、そして毒性が強ければ強いほど、解毒魔法を発動し続けなければならないのだ。


「まあ、ダヴィドは直接胃液をかけられたから直ぐに毒が回って一番早くに倒れたのかもしれないからなが」


「カルロさんは本当に、攻撃系と回復系の魔法の両方が使いこなせるんですね。すごいですよ」


「別に凄くはないと思うがな。魔法が使える者が少ないからそう感じるだけだろう」


「そう……なのですかね? 」


 私の聞いた話では、魔王領出身者を除けば、魔法を使える者は決して多くないと言う。

 そのため、攻撃系又は回復系のいずれかを一定以上使えるのであれば、仮に魔法士の資格を有していなくても、それだけで評価されるらしいのだ。


 また、その両方を一定以上使えるのであれば王宮でそれなりの地位に就くこともできると言われている。そのため、私もどこかの王宮に仕官しようかと考えた時期もあったが、諸事情により諦めている。


 身辺調査で不合格になるだろうからな。


「それにしても、どうしてカルロさんは魔法士の資格を取得しなかったのですか? 」


「特に興味はないからだよ。別に魔法士じゃなくても、稼ぐ手段は色々ある」


 現に、戦争で金儲けをしようと企んでるしな。

 批判する奴もいるかもしれないが、綺麗ごとに救われたことなど一度もない。


「パレテナ王国に住んでいたと言えば、判るか? 深くは言いたくないからな」


 パレテナ王国なる国は、深刻な貧困状態で有名な国である。そして、国もカネがないためろくに軍備が整えられておらず、山賊たちあちこちに蔓延っているのだ。


 貧困国なため稼ぎにならないのは判っているためか、冒険者や傭兵たちもあまり寄り付かないことが、この問題をさらに深刻化させている。


 結果、一部のパレテナの市民たちは、我流で魔法を覚えるなどして、山賊に抵抗しているらしい。


「なるほど……」


 マリーアも察してくれたのだろう。

 まあ、私はパレテナ王国に住んだことはないで、嘘をついているわけだが……。

 

「治療は終わったぞ」


 私はマリーアの治療も済ませる。


 それから、しばらくしてユミが目を覚ました。

 ユミは咄嗟に周囲を見渡す。まだ毒タヌキを警戒しているのだろうか。


「大丈夫か? 」


 と、私はユミに声をかけた。


「うん」



 また少し経ち、今度はダヴィドが目を覚ました。


「……ここは? まさか毒タヌキの胃液にやられたのか……」


「当りだ」


 と、俺は答える。


「そうか……迂闊だったか。みんな、申し訳ない」


 ダヴィドは落ち込んでいる様子だ。

 恐らく、ダヴィドが自身の体で毒タヌキを潰したことは記憶に残っているのだろう。だから責任を感じているのかもしれない。


「ともかく、体調のほうはどうだ? もし体調がまだ優れないのであれば、もう少し休んでいこうと思うが」


「いや、自分はいつでも移動できる」


 ダヴィドはそう言って立ち上がって、付近を歩いて見せた。

 ふらつく様子はないので、体調もある程度は回復したのであろう。ユミもダヴィドに倣って、立ち上がって歩き出す。

 

「この調子ならロムソン村まで行けそうだな」


 そして私たち4人は、ロムソン村へ向けての移動を再開したのであった。


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