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「死ねぇぇぇ! 」
下級天使の1人が憎悪むき出しの表情を浮かべて、武器を振り回しながら私に向かってきた。
「やはり下級だと碌に魔法も使えないようだな。そんな雑魚のくせに、我々人類よりも偉いってか? 」
私がそれを言い終えた時、1人の天使は炎に包まれて悶え苦しんでいた。
奴に向けて、≪中級火炎系魔法≫を発動したからである。複数の火の玉が、彼を襲ったのだ。
他の下級天使たちは何もできずに、ただその場で突っ立っていた。その中には、恐怖のためか震えている者もいる。
仮に中級天使以上になれば、魔法攻撃から身を守る魔法を使うことができるであろうから、このように楽には倒せない。
「どうした。かかって来ないのか? 」
私は残りの連中に、そう声をかける。
「だ、だまれっ! 絶対にお前だけは許さない。お前が全ての元凶だ」
挑発に耐えられず、また1人向かってきた。
今度は、≪中級風系魔法≫を放った。突風がその天使を襲い、付近に生えていた細い木なども折れている。
突風を受けた天使は、吹き飛ばされて運悪く木に頭をぶつけた。首がありえない角度で曲がっているため、絶命したはずだ。
「それで、誰の指示だ? まさかお前らだけで動いているわけではないだろう」
残りの、ぶるぶると震え続けている連中にそう問いただした。
今ここにいる下級天使たちだけでは、私を襲おうとは思わなかったはずだ。背後には必ず黒幕がいるに違いないからな。
「うるさい! お前を殺したいだけだ。俺たちは、その同志である」
「そもそも魔法すら使えない下級天使だけて、ここまでやって来ることは出来ないはずだ。背後に一体誰がいるんだ? 」
私たち人類や魔族が住む世界と天使ども住む世界は、それぞれ物理的に別空間にあるのだ。2つの世界間を行き来するには、特殊な魔法を使わなければならないのだ。
つまり、魔法を一切使えない下級天使たちだけで徒党を組んでも、ここへ来ることは出来ないわけである。
「黙れ! 」
「お前らな。仮に私を殺したとして、どうやって帰るんだ? 」
私がそう訊ねると、天使たちに動揺が走った。ようやく連中も、事の重大さに気が付いたようだ。
「畜生! 俺たちは使い捨てにされたのか! 」
「あの野郎、騙しやがったんだ」
「自分だけは安全なところで、指示を出すだけか。汚い奴だ」
などと、急に天使たちが叫び始めたのだった。
連中の背後にいる何者かに対しての怒りであることは、明白である。
「でも、こいつを殺せばきっとエレドス様が迎えに来てくださるはずだ」
しかし1人の天使がそう言ったため、残りの連中も我に返ったかのように、再び私に対して敵意を向けてきた。
「あくまでも、私を殺したいわけか。なら貴様らこそ、ここで死ね」
私はそう言って≪中級火炎魔法≫を連発した。
天使たちはろくな抵抗も出来ずに、次から次へと燃えていくのである。炎に焼かれ死にゆく者の断末魔は気分を害するものだが、やむを得ない。
しかしながら、あえて1人は生かした。
生かした1人は尻もちをつきながらも、尚逃げようとする。
「く、くそぉぉぉぉぉ! み、みんな殺しやがって! お前ぇぇぇ」
必死の形相を浮かべて、そう叫ぶ。
生かした理由は、むろん指示を出した者が誰なのかを聞き出すためである。私は問答無用で、その天使を地面に抑えつけた。
「誰の指示なのか答えろ。返答が早ければ早いほど、お前がこれから失うものは少なく済む」
「黙れ! 」
「答えなければ、毎分ごとに手足を一本ずつ切断してやる。手足がなくなれば、今度はお前の、その綺麗な白い翼をもぎ取ってやろうではないか」
拷問だ。
しかし、こちらも命がかかっているので仕方がない。
今回は下級天使であったから良かったものの、これが上級天使以上となると本当に厄介だからな。特に大天使と呼ばれるレベルが襲いかかって来ようものなら、呆気なく瞬殺されてしまう可能性がある。
「わ……わかった。答える、答えるよ。俺たちに指示を出したのは、エレドスと言う上級天使だ。彼が俺たちを集めてお前を殺せと命じたんだ。もちろん、俺はお前を心の底から憎んでいるからな! だから快く応じたんだよ! 」
エレドス…………。
先程、誰かが口にした名前だ。
「他には? そのエレドスとやら以外に、もっと上の奴とかは居ないのか? 大天使とか」
「いや、これ以上は俺は知らない。少なくとも俺たちはエレドスに指示されて動いたまでだ」
なるほど。
とりあえず、まずはエレドスという名前は覚えておくことにしよう。
そして私は彼を解放した。殺しても良かったのだが、下級天使1人くらい脅威にはならないし、泳がせておくのもありだと判断したからだ。
「さて、宿屋へ戻るとするかね」
事件の全貌が全く判らないが、この一件で次にやるべき事は決まった。
それは当然、上級天使エレドスとやらについての調査である。しかし私は直ぐに調査を行える状況にはないので、誰かに頼むとしよう。