仮面夫婦5年目、今年のクリスマスは今までと違う
今日はクリスマス。夕食はチキン……には違いないが、大半の人が想像する骨付きのアレではなく、まあ唐揚げ。旦那が大好きな山盛り唐揚げに、サラダにポトフ。
私達は結婚して五年目になる。ご近所さんでは理想の夫婦との評価を得ているが、実際のところ私達は仮面夫婦だ。要は形だけの結婚生活。私も、目の前で夕食を食べている旦那も、家族や会社の同僚から縁談を迫られ、それが煩わしいために仮面夫婦となった。
「やっぱり茜さんの唐揚げは美味しいですね」
「ありがとうございます……」
ちなみにだが旦那は大企業に勤める超有望な人物。私は私で実家に恵まれており、まるで貴族の娘かのように大事に大事に育てられてきた。こんな私達だからこそ、自分達で恋愛することは許されないという雰囲気がどこかにあって、私の場合は政略結婚させられそうになったのは事実だったりする。
それなら、いっそのこと……愛がなくとも、ある程度自由がきく今の形に落ち着いた方がマシだと思うのは、決して私だけではないはず。
しかし何だろう、この心のどこかにある喪失感というか、隙間風が吹いているかのような気分は。愛のない、今の生活を望んだのは自分じゃないか。今更、不満だからと自分を愛してくれる人と結婚したい、なんて言い出したら完全に犯罪者だ。法には引っかからないとは思うけども。
「茜さん、少しいいですか」
「はい?」
箸を置き、改まる旦那。私も同じように箸を置き、姿勢を正す。なんだなんだ、重大発表ですか?
「茜さんは怒るかもしれませんが……」
そういいながら小さな箱をポケットから出す旦那。
それは……指輪のケースだ。
「元々は仮面夫婦という約束で一緒に住んでいたのに……今更こんな事を言い出すのはお角違いだと分かっていますが……改めて言います、僕と……」
「け、結婚してください!」
時が止まった。
旦那のセリフを奪った。
というか違ってたらどうしよう。いや、もう間違いないよな? 指輪を出してきて、この雰囲気でそれ以外ないよな?
恐る恐る旦那の顔色を伺う。ハトが豆鉄砲とはこのことか、という顔をしている。
「僕も言いたいです……リテイクいいですか」
「駄目です……」
それまで被っていた仮面を外し、初めて私達は自分達の素顔を晒した……ような気がした。