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「おい、あんた、本当に覚えてねえのか? 自分が誰をどんな方法で呪ったのかを?」
俺の漫画「本家・祟り屋」へのアドバイスをやってくれてる自称・霊能者の府川貢は真っ青な顔色でそう言った。
「やった覚え……ないよ……マジで……」
仕事場に居る残り2人……府川と編集者の松田明敏の顔を交互に見る。
「何? お前ら、本当に俺が誰かにヤバい呪いをかけてて……ウチのアシスタント達が、それに巻き込まれたと思ってんの? おい、俺が誰かに呪われたんなら……ほら、SNSで俺に粘着してる@#$%どもとかにさ……まだ、話は判るけど……」
「何か……手掛かりが有る筈だ……何か……」
「さっきの電話の春日とか云う女の人に心当りは……?」
松田が、そんな事を言い出したが……。
「知らねえよ」
「知ってても……忘れてる。あの女が言ってた『縁を切る』ってのは、そう云う事だ」
「何言ってる?」
「あの女は……多分、呪術的にあんたとの縁を切った。それで、あんたが巻き込まれてる呪いが自分の身に及ぶのを防ごうとしたんだ。でも……代りに、あんたは、あの女の事を忘れる。あの女からかかってきた電話には無意識の内に出なくなる。あの女から来たメールは無意識の内に即ゴミ箱行き。電話番号やメアドは、これたま無意識の内に削除する。SNSやメッセンジャーだと、無意識の内にブロックする」
「へっ?」
「あんたにとって、あの女は居ないも同じになる……そう云う状態を作り出す事で、あんたが巻き込まれてる呪いに、自分も巻き込まれるのを防ごうとした。でも、あの女が、その『縁切り』をやっちまった時、既に、あの女も呪いに巻き込まれてた。『縁切り』の修法は暴走して……あんた以外の人間も、あの女の事を忘れ去り……あの女の存在を認識出来なくなってる。おそらくは、そのせいで、あの女は……日常生活にまで支障が出てる。ま、あの女からの電話で推測出来るのは、そんな所かな? だが、これは……俺達にとってもマズい」
「具体的には、どうマズいんだよ?」
「だから……あんたが巻き込まれてる呪いについて、何か重要な情報を握ってる女と……連絡を取るのが、かなり難しくなってんだぞ……でも……手掛かりが……有る筈……。人間の心はおかしくなっても……形が有るモノは……」
その時、府川は、ある事に気付いたような表情になった。
「おい、あんたの作品の単行本、この仕事場に有るか?」
「ああ、資料なんかを置いてある部屋に一緒にな……」