7・許された令嬢、恋をしたい(中)
少しだけ抱いていた緊張が解れたところで、今度は彼から質問を受ける。
「ご両親から話を聞いたが、昔の事はいくつか思い出しているんだろう?」
「ええ、貴方と出会って半年くらいの事しか……。でも、今日は久しぶりに夢を見たの」
「半年……どんな夢だい?」
「貴方が金貨にやきもちを焼いていたわ」
「ブフッ!」
なぜか正面からではなく背後の方から聞こえてきた。振り向くと、ごく僅かに扉が開いている。どうやらハルモニが聞いていたようだ。
フェローからの反応もない。フィーネは居たたまれなくなって俯いた。
「あ、あの、今思い返すと、そうだったら嬉しいって思っただけで……その、」
「クックッ……いや失礼しました。貴方に対して笑った訳ではないですよ」
「ハルモニ」
彼が一段と低い声で名を呼ぶと、神官は扉から出していた顔を引っ込めた。扉はやはり少し開いている。昨日の二の舞を防ぐためだろうか。
こちらの事情を全て知っているようだし、別に聞かれて困るものもない。なぜか笑われてしまったが、フィーネの発言に対してではないようだし。神官の笑いのツボが分からない。
フィーネが首を傾げていると、フェローが軽く咳をした。
「……フィーネ、君の言う通りだ。あの頃は必死に否定していたが、既に君に惹かれていたんだろうね」
「よかった…! やっぱり胸の効果は効いていたのね!」
「ブハッ!」
「一度黙ろうか二人とも」
フィーネまで怒られてしまった。でも男爵令嬢として生まれ変わった身としては、かつての自分の行動があまりにも非常識すぎて、どうしてフェローが好きになってくれたのか不思議で仕方ない。
やはり胸なんだろう。今世も胸が大きくてよかった。喜ぶフィーネとは裏腹に、聞こえるフェローの声は硬い。
「誤解しないでくれ。君にあれだけ無邪気に慕われて惹かれない訳ないだろう?」
「ふふ、大丈夫よ。きっかけが胸だろうと貴方の愛を疑ったりしないわ」
「だから違う。私の話を聞いてくれ、フィーネ」
照れているんだろう。本当に可愛い人だ。
フィーネは気をきかせて話題を変える事にする。男爵令嬢なのでこういう事も出来るようになったのだ。
「そういえば、あの金貨はどこへ行ったの?」
「…………私と君が結ばれた後、必要なくなったからと返されたよ。今は神殿で保管している」
「神殿……貴方がここに来たってことは、末の妹の恋は叶ったのよね?」
「ああ。来年の天臨祭に結婚式を行う予定だ。君の義父君や姉妹も全員集まる。だからそれまでにはこの問題を解決させないとね」
「解決……できるの?」
フェローを疑っている訳ではないが、相手に非がないのだ。しかも相手は辺境伯で背後には皇族もいる。
きっと神殿や天使の一族が手を貸してくれるだろうが、表立つとフィーネの前世が天使だとバレかねない。
フィーネの不安を払拭するように、フェローが力強い声で答える。
「知っているだろう? 私が誰だったのか」
「私の一番大好きな人」
「…………そうだけど、そうじゃなくて。これでも一応この国の皇子だったんだが」
「ああ……そういえば、そう言っていたような?」
「本当に君は……まあいい」
彼がコホンとまた咳をする。風邪の引き始めではないといいのだが。