表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/57

6・許された令嬢、恋をしたい(前)

 久しぶりに前世の夢を見た。

 しかも初めて見た記憶。やはり「彼」に会えたからかと、フィーネは顔を赤らめる。


『例え義父君が──大地に住まう者全てが許さなくとも、私が許す。君は何も間違っていない、フィーネ』


 フェローは許してくれた。軽率な事をして別の相手と婚約してしまった事も、「彼」だと気付かずに恋をしてしまった事も。

 きっと本当はまだ正体を明かすつもりはなかっただろうに、フィーネが勝手に恋をして泣き出してしまったから、慌てて抱き締めに来てくれた。直接的な言葉などなくとも、彼がフィーネを愛してくれている事は明らかだった。


 彼の腕の中で散々泣いていたと思ったら、気付けば教会の奥にある一室のベッドの上だった。

 部屋を出ると神官のハルモニが居て、なぜかフィーネがテラスに置いてきたはずの荷物を持っていた。


『積もる話もあるでしょうが、明日にしましょう。もう遅いので送ります』

『フェ──神父様は?』


 せめて一言だけでもと思ったが、フィーネの問いに神官は首を横に振った。


『今日はもう会わない方がいい。お互いが辛くなるだけです』


 そう言われると何も答えられなかった。あのままフェローに抱き締められていたら、帰れと言われてもフィーネは泣いて拒んだだろう。自分にはまだ婚約者がいることも忘れて。

 きっと一番辛いのはフェローだ。フィーネではない。ハルモニに促され、大人しく寮へと戻った。


 それが昨日。今日は幸い休日だ。身支度を整えて教会へ行こう。

 ベッドから降りて着替えていると、窓を叩く音が聞こえた。振り返れば見慣れた白鳩が窓枠に留まっている。


「お父様とお母様からね、ありがとう。……あら、昨日から待っていてくれたのね。ごめんなさい」


 窓を開けて白鳩を部屋に招き、手紙を受けとってお礼の餌を渡す。鳩は食べ終えると部屋から出て行った。

 天使の一族の連絡は伝書鳩を使っている。不思議な事に夜でも飛ぶらしいので、姉妹の誰かの能力なのかもしれない。


 ベッドに腰かけ、両親の手紙を読む。どうやらフェローは先にフィーネの両親へ会いに行ったようだ。

 フィーネより先というのが少し釈然としないが、婚約の事は両親の方が気に揉んでいたし、今後の事について話し合いもあるだろうから、当然と言えば当然かもしれない。


「”あの方が来てくれたならもう大丈夫だ。お前は結婚式に着るドレスのデザインでも考えていなさい”……流石に気が早すぎるわ」


 でも確かに不安はない。

 フェローなら必ず助けてくれると、信じているから。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おはよう、フィーネ」

「お……おはよう」


 再び訪れた教会。礼拝堂にいたハルモニに挨拶をして、懺悔室へ足を踏み入れた。

 格子の向こう側から響く声に、フィーネは顔を赤らめる。分かってはいるが、やはり昨日の事は夢ではなかった。

 椅子に腰かけると、再びフェローの声が届く。


「さて……何から説明しようか。知りたい事はあるかい?」

「……モクレンの木はどこへ行ったの?」

「ああ……。どうしてもここに置いておきたくなくて、別の場所に移したんだよ。寿命でもう枯れてしまったけど種は残っていてね、一昨日あの場所に苗木を植えてみたんだ。あの木ほど大きくならないかもしれないが、君が卒業する頃には花も咲くだろう」

「まあ! 楽しみだわ」


 フェローとの思い出の木だが、前世のフィーネにとって大地で初めて出来た友達でもある。何百年の時を越えて同じ場所に集まるなんて夢のようだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ