5・学び始める天使、知り始める皇子
ハラハラと、白モクレンの花びらが舞う。
木の下に並んで座っているのはフィーネとフェローだ。二人の間には色や形の違うコインが並べられている。
『フィーネ、右から順に言ってみろ』
『銅貨、銀貨、金貨ね』
『金貨1枚を銀貨へ両替すると何枚になる?』
『100枚よ。銀貨1枚を銅貨に変える時も100枚だわ』
『ああ。よく覚えたな』
フェローが腕をのばして頭を撫でてくれる。幸福で胸がいっぱいになった。
前まではフェローが息抜きに立ち寄った所を構ってもらっていたが、今はフィーネのためにほぼ毎日会いに来てくれる。
諦めるつもりはないので冷たくされても辛くはなかったが、好きな人に気をかけてもらえる事がこんなにも嬉しい事だなんて。本当に、彼はフィーネが知らない事をたくさん教えてくれる。
彼の手が離れる前に捕まえて頬擦りをする。
フィーネよりずっと大きい、男の人の手だ。
『貴方が教えてくれるもの。それに、知らない事を知るのは楽しいわ』
『……それは、なりより』
『あっ、私の手……』
『私の手だ』
満喫していたのに本人に奪われてしまった。最初に手をのばしたのは彼なのに。
彼は無意識のようだが、時折こうして触れてきてくれるようになった。こちらから触れようとすると逃げてしまうけれど、距離はずっと近付いてきている気がする。
フィーネはフェローに微笑んでから、芝生に並べられたコインの中から金貨を拾った。
『ねぇフェロー。これ、借りてもいい?』
『……何に使うんだ?』
『使ったりしないわ。──貴方がいない時に眺めていたら、寂しくならない気がするの』
フェローと同じ金色。フィーネの大好きな色。
こうして陽に当ててキラキラ光るところも、夕陽の時は少し赤く染まるところも、よく似ている。
うっとりと眺めていたらフェローに奪われてしまった。とっても高価なものだし、そもそも彼の物なので仕方ないのだが。
それでも少し恨めしげな目で見れば、なぜかフェローは金貨を握ったまま硬直していた。
『フェロー?』
『──違う』
『違う?』
『…………頼むから今は放っておいてくれ』
なぜか彼は赤面して頭を抱えてしまった。とはいえ、放っておけと言われて大人しく従うフィーネではない。
この隙に抱きついてしまおうと距離を縮めた途端、勘付いたフェローに金貨を突きつけられる。
『返さなくていいから、俺がいいと言うまで、大人しくしていろ』
『ありがとう。ふふ、貴方から初めてもらった物だもの、大事するわ』
『いやそんなものをカウントするんじゃない。君にはもっとちゃんとした──じゃない! 何を言っているんだ俺は!?』
フェローの様子がおかしいが、金貨をもらってしまった以上、大人しく見守るしかない。
再び陽に当てて金貨を眺める。初めて彼からもらった、彼の色。
嬉しくて金貨にキスをしたら、なぜかまたフェローに奪われてしまった。