番外・生き返った皇子、大罪を負う(7)
フェローは帝国へ戻らず、皇族への監視は続けながら、設立したばかりの神殿の枢機卿となった。
予想通り、皇帝と皇妃の子は一人しか生まれなかったようだ。夢で会った方のフィーネが呪いを強めたのかもしれない。
皇妃はもう一人子供を生んでいたのだが、どちらにも全く似ていなかった。調べたところ、皇妃は金髪で金眼の男と不倫している事が分かり、姦通罪で男共々処刑された。
赤子は不倫相手にも似ていなかったが、その祖父と瓜二つだった。赤子に罪はないので上手く手を回し、その祖父の養子として、本当の親の事を知らずに仲睦まじく暮らしてもらった。
皇妃は完全に自業自得だが、「あの」フィーネが彼女を呪わないのも不自然だ。
こうなる事が分かっていたから呪わなかったのか、それとも呪ったからこそ似ていない子供が生まれたのか。真相は彼女のみぞ知る。
それから五百年。
天使と配偶者の仲人役は骨が折れた。
どの天使もフィーネに負けず劣らず癖者揃いで、配偶者候補もこれまたひねくれ者ばかり。くっつくまでに一悶着あるわりに、くっついたらバカップルになるのも変わらない。
幸せそうなのはなによりだが、フィーネが恋しくなるので控えてほしい。
そして最後の天使アリアが配偶者と結ばれた日の早朝。
かつて学園から運びこんだモクレンの子孫達に水を与えていると、白鳩が肩に留まった。九代目の天使の結婚式以来なので百年ぶりの再会となる。
『お久しぶりです。アリア様に会いに来られたのですか?』
《ああ。……君のお陰で全ての天使が無事に巣立った。ありがとう》
『大したことはしていません。幾多の困難を乗り越えたのは彼女達自身です』
《──フィーネは既に生まれ変わっているよ》
水を与える手が、一瞬止まる。
しかしフェローはそのまま水やりを続けた。
『……やはり、そうですか』
《気付いていたのか?》
『おや、貴方が言っていたんですよ。”この先フィーネが何度眠りについても、君はそれを見届けなければならない”と』
そもそも、義父は彼女達を人間にするために大地へ下ろしているのだ。天使として復活するのではなく、人間に転生する可能性の方が高い。
なにより仲の良かった姉妹だ。この親馬鹿な義父が再会させないはずがない。
《…………失言だった》
『ははは。しかし、フィーネと会えるのはもう百年後だと思っていたので、嬉しい誤算です』
今思えば、あっという間の五百年だったが、それでも彼女を忘れぬ日はなかった。
一人で寝る事が耐えきれず、一時期は眠ることを止めたこともあった。不死でも無敵な身体ではないらしく、倒れて子孫達に怒られた。
それから眠れない日はモクレンの木の下で寝転ぶようになった。そうしているとフィーネとの思い出が甦って、不思議とよく眠れるのだ。
神殿を離れる時はモクレンの香水を作った。出来ることなら彼女の匂いに似せたかったが、上手くいかなかった。
しかしそれで良かったのだろう。同じものが出来ていたら、どうしようもない虚しさを抱えていたはずだ。
《フィーネの今世の両親からまもなく手紙が届くだろう。その……相変わらず、謎の行動力を発揮して大変なことになっているが》
『ははは、大丈夫ですよ。彼女は必ず守ります。──もうこの大地で私に逆らえる者などいませんから』
彼女との約束を破ってまで五百年も生き続けてきたのは、罪を償うためだけではない。
今度こそ彼女を守るためだ。この大地のどこで生まれようとも、必ず見つけ出して迎えに行く。
どこの王族が邪魔をしようと羽虫のように潰すだけだ。今度はもう、迷いはしない。
《…………年々、私より神に近付いてないか?》
『はは、何をおっしゃいます。流石に私も月は吹き飛ばせません』
《なぜ私の子達はその話ばかりするんだ!? 配偶者に会う時に気まずいんだぞ!!》
『まあ、面白かったからでしょうね』
《……来年の結婚式は、十年も遅れて式を挙げた夫婦の話をしてやろうか?》
『…………それは、ちょっと』




