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2・転生した令嬢、間違える

 フィーネは時折、夢を見る。

 夢といっても、かつて自分が「天使」だった頃の記憶だ。


 十六歳の誕生日を境に見るようになり、今まで見た記憶は四つ。

 大地に降りたもののすぐに天使だとバレて捕まえられそうになった事、隠れ家にしていたモクレンの木から落ちて「彼」に恋をしたこと、それからずっと彼に会えても冷たくされていたこと、半年経ってようやく心を開いてくれたこと。その断片的な記憶を、何度も何度も繰り返して見ている。


 彼に会わなければ。

 会って再び恋をし、愛し合うのだ。

 

 そう決意したものの、すぐに手詰まりになった。

 前世の彼はずっと仮面をつけていたため顔が分からないし、フィーネはもう空を飛べない。そもそもフィーネだって前世と顔と名前は同じだが、髪の色と瞳が白から金へ変わっているし、今は人間な上に男爵令嬢だ。見つけてもらうのもそう簡単な事ではない。


 ──会いたい。貴方はどこにいるの?


 悩みに悩んで、とうとう倒れてしまったフィーネは、両親に打ち明けることにした。

 彼女の話を聞いて予想通り両親は驚いていたが、その返答はフィーネの予想を大きく裏切った。


『まさか夢で見てしまうなんて……時期も早すぎるし、本来なら配偶者に起こるはずでしょう?』

『いや、フィーネの相手は”あの方”だからな。他の天使達のようにはいかないのかもしれん』


 両親は彼女が天使フィーネの生まれ変わりだと知っていたのだ。正確には、今世のフィーネが生まれた際、神である父が「フィーネの生まれ変わりだから同じ名前にしてほしい」と頼んだらしい。

 父も母も「天使の一族」──フィーネとフェローの子の子孫だったからか、すんなりと受け入れて今まで大事に育ててきてくれたようだ。


 しかもフェローの事も何か知っているらしい。フィーネはベッドから飛び起きてフェローの居場所を尋ねたが、両親は決して答えてはくれなかった。神である父との約束があったからだ。

 最後の子の恋が叶うまで記憶を封じるので、それまでは居場所を決して明かさぬように、と。


 最後の子──末の天使は今年の天臨祭で降りてきている。この時代には神殿という天使を支える機関があるようなので、そう遠くない内に相手も見つかるだろう。

 フェローに会いたい。けれど、いくら一足先に記憶を取り戻したからといって、妹より先に幸せになりたいとは思わない。彼女達のことはまだ思い出せていないが、それでもフィーネは姉なのだから。

 フィーネは末の妹の恋が叶うことを祈りながら、フェローと再会出来る日を大人しく待つ──つもりだった。


 それからおよそ一年後、自国の皇太子が他国の令嬢と結婚したという号外を拾ってしまうまでは。


 皇太子が隣国のモデラートで冷遇されていた令嬢に求婚し、連れて帰ってきたという話は聞いていた。皇都から離れた男爵領でも盛り上がっていた。身内や友人ならともかく、他人の色恋などフィーネは全く興味はなかったが。

 結婚式は今まで類を見ないほど盛大で、男爵領でも撒き散らされた号外をふと拾ってしまった。その皇太子の絵姿を見て──なぜか目が離せなくなった。


 ──もしかして、「彼」なの?


 見つけた喜びよりも、困惑の方が強かった。彼は結婚してしまったのだ、フィーネとは別の女性と。

 居ても立っても居られず、せめて一目だけでも見れないものかと皇太子の周りをウロチョロした結果、皇太子は「彼」ではなかった上に、皇族から男爵家へ警告と共に辺境伯次男との婚約を押し付けられてしまった。

 ただ顔を見たかっただけなのだが、皇族はフィーネを危険視し、早々に結婚させてしまった方がいいと判断したのだろう。軽率な行動がとんでもないことになってしまった。神である父の言いつけを守るべきだったと、後悔してももう遅い。


『ごめんなさい……お父様、お母様』

『貴方が謝る必要はないわ、フィーネ。配偶者を教えてあげられない私達にも責任はあるの』

『いや、私が悪い。後継者がいないからと遠縁に泣きつかれて男爵位を継いだが……やはりフィーネが生まれた時にこの国を出るべきだったんだ。帝国は今だ政略結婚が根強いし、高位貴族に天使の一族はいない。だからデビュタントも欠席させたし、学園にも行かせなかったのに……っ』

『……私、婚約するわ』

『フィーネ!?』

『今更他国へ逃げても、彼とどうにか結ばれても、私以外の人が不幸になる。私だって幸せになれないもの』


 フェロー。かつてのフィーネにとって、なによりも大事な人。

 今のフィーネには愛すべき両親と故郷がある。それを犠牲にしたところで、果たしてそれは幸せと呼べるのだろうか。


 断片的な記憶の中でも、フェローは優しい人だった。

 帝国の利益を優先し、フィーネを騙して捕らえる事だって出来たはずなのに、半年も見逃していてくれた。それでも離れないフィーネのために、大地で生きる術を教えようとしてくれていた。

 このまま再会したところで、きっと彼を困らせるだけだ。


 前世の自分はフェローと結ばれた。

 だから今世は、ただのフィーネとして生きよう。


 そう決意しても、涙が溢れて止まらない。

 そんなフィーネを、両親は強く強く抱きしめた。


『ああ……! ごめんなさい、ごめんなさい、フィーネ! 父よ! どうかこの子をお救い下さい!』

『必ずどうにかしてみせる! 希望を捨てないでくれ、フィーネ!』


 三人で抱き合って泣いたその日から、フィーネが前世の夢を見ることはなくなった。


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