表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/57

14・花が咲く令嬢、婚約者を思い出す(前)

 ついに。

 ついに、この時が来てしまった。

 フィーネはベッドから起き上がった状態のまま、ぼんやりと前を見つめていた。 


 フェローの悲しすぎる過去と、想いを通わせた二人。

 そして。


「キス……」


 自分の唇に触れる。

 体温が少し上がった気がした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 放課後。フィーネは二階のカフェテラスに居た。

 フェローが毎日世話をし、フィーネも会いにいっているモクレンは、既に二人の背丈を越えて成長を続けている。

 

「聞いているのか? フィーネ」


 いつもなら直ぐに教会へ向かっているフィーネだが、昨日の夢が夢だけにフェローに会うのを躊躇っていたら、婚約者に捕まってしまった。

 隣国モデラートと接した広大な領地をもつクルツ辺境伯の次男、ユーベルト・クルツ。


「あら、すみません。何かお話になりました?」

「……フェルマータ侯爵と知り合いだったのか、と聞いたんだ」

「フェルマータ侯爵?」


 知り合い以前に名前すら聞いたことがない。

 首を傾げるフィーネに、婚約者は苛立つようにテーブルを指でコツコツと叩いている。普段は温厚な彼にしては珍しい。


「君のような田舎貴族じゃ知らないだろうが、高位貴族では有名な話だ。初代のフェルマータ侯爵は帝国が皇子の不祥事で荒れた際、皇族の代わりに建て直しただけではなく、その手腕で他国を説き伏せて神殿を設立した。領地も屋敷も持っておらず、銀行に預けてある莫大な資金も手付かずのままだというのに、時代の節目には必ず皇帝の前に姿を現す”亡霊侯爵”」

「まあ……そんな方が」


 神殿を建てたという事は、誰かの配偶者だろうか。少なくともフィーネが降りた時代にはなかったので、それ以降に建てられたはず。

 昔の事を考えれば、神殿のお陰で随分と便利になり、フェローともすぐに再会できた。天使の一人として是非ともお礼を伝えたい。ハルモニかフェローなら何か知っているだろうか。

 ついまたぼんやりしていると、再び婚約者に名前を呼ばれてしまった。


「その”亡霊”が君との婚約に横やりを入れてきたんだ。父と兄が慄いていたから一喝してやったよ。”君との婚約は皇族によって結ばれたもの。白紙にすれば皇太子の護衛騎士になる俺の忠誠心を疑われる”とね」

「皇太子……? ユーベルト様は第二皇子の護衛騎士じゃありませんでした?」

「っそんな事も知らないのか!? 君の愛しのグラード元皇太子は廃嫡され、妃共々離宮に幽閉された! それによってレガート様が皇太子になったんだ!」

「すみません、もう関わりたくなかったので……」


 元々、周囲に対しての関心もない。元皇太子の結婚も、領地中に新聞を振り撒かれてようやく知ったくらいなのだ。

 そういえば城に大きな雷が落ちた頃、周囲がそんな話をしていた気もするが、関わりたくなかったので聞き流していた。


「それに、その件は誤解だと何度もお伝えしたはずです」

「初恋の人に似ていたとか言う話か? 信じるわけがないだろう。元皇太子の弟のレガート様でさえ似ていないのに」


 そう言われても、素顔のフェローと本当に似ていたのだから仕方ない。今なら新聞に見入ってしまった理由がよく分かる。

 しかし瓜二つなのは容姿だけで、纏う雰囲気も姿勢も人と話す態度も全く違った。一目見てすぐに帰ったのに、まさか婚約させられることになるとは、本当にフェローに申し訳ない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ