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13・天使と皇子は愛を知る(後)

『恐ろしかったよ。両親すら与えてくれなかったものを、君は無条件で与えようとするから。愛なんて存在しないと必死に思い込もうとしていた自分が惨めで、悲しかった』


 モクレンの木の上で、フェローの過去を彼に抱き締められながら聞いた。

 人間には色んな人がいると知っている。けれど、愛のない家族が存在するなど考えもしなかった。


『お互いのためにも会うべきではないと思った。だが──君のあの瞳が忘れられなくて、時折会いに行った。どれだけ冷たくしても慕ってくれる君に甘えていたんだ』


 何も知らないままフィーネは彼に恋をした。それがフェローの救いになったのは嬉しい。

 けれどそれ以上に──それまで彼を愛してくれる人がいなかったことが、悲しい。


『君に恋をすることが怖かった。でも、君を失う方がもっと怖い。そんな事にようやく気付くなんて』


 フェローの両手に頬を包まれ、目元にキスを落とされる。その優しい感触に、また涙が溢れた。

 困ったように彼が笑っているのが、潤んだ視界越しに見える。


『もう泣かないでくれ、フィーネ。君の可愛い瞳が溶けて──』

『……?』

『瞳の色が……いや、髪の色も変わっている?』


 見れば、確かに髪が淡い金色に変わっている。純白のモクレンの中でなければ、僅かな変化に気付かなかっただろう。

 クスクスと笑い出すフィーネと違って、フェローはどこか焦っているように見える。


『想いが通じたから人間になってしまったのか? ──分かった。銀行を破産させて帝国が混乱している内に国外へ出よう』

『きっと大丈夫よ。お父様は言っていたもの、人間になる時は天臨祭に結婚式を挙げて子供を作りなさいって』

『子──』

『あら? 子供を作ってから結婚式だったかしら? でも確か私は子供が出来やすいから後にした方が──』

『分かった! まだ猶予がある事は分かったから、それ以上言わなくていい!』


 いつもみたいに顔を真っ赤にするフェローは可愛い。今日は仮面がないからよく見えるし、腕に迷いはあるもののフィーネを離そうとはしない。それが嬉しい。

 フィーネも彼の背に回して抱きつこうとしたら「いやそれはまだ早い」とやんわり窘められた。


『照れなくていいのに』

『そうじゃなくて……まあいい。とにかく髪と瞳の色が変わっただけで、天使の力は残っているんだな? 私が告白した時は、まだ変わっていなかった気もするが』

『……きっと、私の心が変わったからだわ』

『心が?』


 一瞬不安そうな目をするフェローに、安心させるように笑みを向ける。

 今度は自分の両手で彼の頬を包みながら。


『貴方への恋が、愛へ変わったの。──愛しているわ、フェロー。貴方に私の永遠の愛をあげる』


 フィーネの一方的な恋は終わった。これからは愛を知らぬフェローのためにも、ずっと彼を愛し続けていくのだ。

 空を飛ぶくらいしか能のない、いずれ人間になってしまうフィーネだが、それだけは決して誰にも譲るつもりはない。


 下を見ればすぐ分かったのに、足に当たっても石だと決めつけて蹴飛ばされ続けた、フェローの心。

 拾ったのはフィーネだ。それを咎める権利など誰にもない。


 唖然としたフェローの黄金の瞳から、滴が一つこぼれる。

 それを皮切りに次々と溢れ、フィーネの手を濡らしていく。そのフィーネの頬をフェローが包む。


『……私の恋はまだ始まったばかりだが、いつか君と同じ気持ちを返せるようになりたい』

『ええ、待っているわ。その頃には、もっと貴方を愛していると思うけど』

『はは……君には敵わないな』


 再び唇が触れる。

 二度目のキスも、やはり涙の味がした。


『──国を出る準備をする。明日からはバレないように振る舞わないと』

『……明日から?』

『今日はずっと一緒にいよう。別に一日くらい居なくなったって誰も困りはしないさ。私は姦悪皇子だからね』


 吹っ切れるように笑うフェローは、あまりにも眩しくて。

 一晩中、数えきれないほどキスをする間も、フィーネはずっと見惚れていた。

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