表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/57

11・天使と皇子は愛を知る(前)

『フィーネ?』

『……』

『どうした? なぜ降りてこない』


 フィーネの大好きな彼。心地よい声。

 でも今は会いたくないし、聞きたくもない。


『フィーネ』

『…………放っておいて』


 彼が悪いわけではない。フィーネが何も分かろうとしなかっただけ。

 想い続けていれば必ず叶うと、勝手に思い上がっていただけ。


『放っておける訳ないだろう? 一体何が──』

『婚約者がいるって、どうして教えてくれなかったの?』

『…………見ていたのか』


 ほんの好奇心だった。彼が帰った後、こっそり城までついていったのは。

 馬車から降りたフェローは仮面を外していて、フィーネが見惚れる間もなく、一人の女性が駆け寄った。


”殿下!”

”──やあ、愛しのテヌート。迎えに来てくれたのか”

”婚約者ですもの、当然ですわ”


 貴族はしがらみがたくさんあり、政略結婚が多いことは聞いていた。ただの婚約者なら、ここまでショックを受けなかった。

 フェローの彼女を見る瞳は、明らかに違った。ずっと見ていたから嫌でも分かってしまった。


 フィーネは姉妹の真ん中で、いつも放っておかれていた。

 姉も妹も大好きだったけれど、自分だけを愛してくれる人が欲しくて大地へ降りた。


 初めて彼に会った時、この人だと思った。愛情に飢えた、愛情深い人。

 彼をたくさん愛してあげたい。彼にたくさん愛されたい。そう強く願った。

 それなのに。


『……言ってくれたら、諦めたのに。半年も……無駄にしたわ』


 諦めたくない。この半年と少しの間で、もっと好きになってしまった。

 嘘なんて吐きたくないのに、それでも真実を知ってしまった今、彼に好意を告げても困らせるだけだ。


 涙が溢れる。泣いたのは幼い頃以来だろうか。もしかしたら初めてかもしれない。

 沈黙が続いた後、フェローがポツリと呟いた。


『──すまない』

『、っ』

『君に知られる事が怖かった。不義理だったのは認める。だが──私を諦める事だけは許さない』


 そう言うなり、彼はモクレンの木を登り始めたかと思えば、フィーネが呆けている間にすぐ隣までやって来た。

 我に返って慌てて逃げ出そうにも、強い力で抱き寄せられてしまう。今までそんな風に触れてきたことなどなかったくせに。


『は、離して!』

『逃がさない』

『私の事なんて好きじゃないくせに!』

『好きだよ。たった今自覚した』

『…………え?』


 抵抗を忘れて顔を上げれば、フェローと目が合う。

 仮面を外した彼の瞳は、昨日よりもずっと蕩けているように見えた。


『──好きだ、フィーネ。どうか俺を選んでくれ、愛おしい人』


 彼の唇が重なる。

 初めてのキスは、涙の味がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ