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殺戮のケモミミヒーラー  作者: 西院玲璽
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超獣殲滅作戦

 一斉に跳躍して次々と朔夜たちに迫る。轟雷と桜吹雪、そして矢。触手での防御も虚しく、それらに焼かれた個体は五体を四散させて地に堕ちた。

 再生の間に三人はルシフェルたちの前に並び立つ。その際、


「儂もここまで来るのに神気解放で体力の消耗が激しい。あまり時間は掛けられんわい」


 離宮からイシャードまでは大分距離がある。レオポルドがそう言うのも無理はない。

 何度目かも分からない復活を終えたルシフェルが翅を震わせ、術式破壊の不協和音を奏でる。


(ア、レ――――?)


 脳を揺さぶられた直後、朔夜の視界がグラリと揺れた。気が付くと、地に伏して地面に五体を投げ出していた。朔夜。二人の呼び掛ける声が遠くで響く。

 身体が痺れて、上手く動かせない。起き上がるどころか、力を入れるのもままならない。


(まさか、毒……?)


 他に考えようがない。だが、いつの間に。そんな疑問が頭に沸く。


(あ―――)


 一つだけ思い当たる節はある。散々浴びて来た粘性のある体液。それが遅効性の神経毒を含んでおり、肌から浸潤して朔夜の身体を蝕んだ。そう考えるのが普通。


(マズい……っ)


 自分が毒に倒れたせいで連携が乱れた。不測の事態に負担を強いられている二人も、程なくして限界を迎えるだろう。

 詰んだ。心からそう思った。

 ぼんやりとした視界を埋め尽くす、無数の触手。

 朔夜の身体に触れようとした瞬間、炎に巻かれた。


(え――――?)


 一瞬、何が起きたのか分からなかった。ルシフェルたちが炎の海に焼かれて苦悶くもんの叫びを上げたかと思うと、透き通る藤色の四角い帳がそれらを包み込み、脳を揺らす不協和音が消えた。

 藤色の結界なんて、今まで見たことが無い。なら、一体誰が―――?


幼雛すうようでし地母神の御手よ、薄命なる灯火に至上の福音を与え給え。《祝福ブレッシング》」


 淡い緑の燐光に包まれ、それが止んだかと思うと朔夜の不調は全快していた。急いで状態を起こすと、後ろから九尾の青年が近付いて来る。

 間違いない、シャルディムだ。しかし、その手には見た事のない飾太刀が握られていた。


 〇                                  〇


 間に合ってよかった。朔夜の無事にシャルディムは胸を撫で下ろす。改めてナハティガルナよりたまわった飾太刀に視線を落とした。


「ありがとう」


 飾太刀の神刀『無銘むめい』。能力は不破の結界。『神殺し』の対となる能力。

 大きさや個数に際限はなく、それらを常に自在に操ることができる。


『やはり師弟だけあって、似るものだな』


 蒼碧そうへきの瞳を細めて微笑む女神。彼女の言葉が素直に嬉しかった。


『貴様に興味があるから、主の呼びかけに応じたのではない。かつての戦友ともがどんな弟子を育てたのか。ほんの少し、興味が湧いただけだ』


 なんともありがたい言葉。そうして『礙巌がいがん』のル・カルコルがシャルの神刀になった。

 シャルディムとナハティガルナ、そしてル・カルコル。三位一体の神気解放は自前の簡易型よりも精神が高揚して集中力が増し、感覚がより研ぎ澄まされていた。


「シャルっ」


 起き上がった朔夜が駆けて来る。彼女は途中で空に浮かぶ《火竜皇后エキドナ》の存在に気が付いて驚いていた。


「シャルティムかっ⁉」

「ほぅ……」


 ゼルティアナとレオポルド。二人が来たことで事情を説明する。

 ナハティガルナによってシャルは一時的に神刀を賜った。

更に、死んでいたエブリシュカへは術式によらない魂魄融合を果たしてここに居る。


「それで、状況を教えてくれますか?」


 封印しているルシフェルは現在、結界に攻撃を加えているが障壁はビクともしていない。

 神刀による結界は盤石だ。これなら補修を機に擦る心配もない。打開策の協議に時間が割ける。そう思っていた。

大魔法グランキャスト 激震ワイル慟哭ディソナンス》。

 結界内で荒れ狂う炎の海から逃れた個体が翅で奏で合う狂騒。神気を纏う不破の結界が振動した。


「は――――?」


 驚愕に目をくシャルディム。戦慄し胃の腑が底冷えした。


「ああ、クソッ」


 ナハティガルナに頼んで直してもらい、結界で保護した倉庫鞄から同じく修復済みの小太刀と飾太刀を取り出し絶技イクシード真紅スカーレット断崖クリフ》を結界の外側に展開。神刀の結界と融合させる。それは形状変化の応用によって実現し、震動が止んだ。


 真紅の結界の中。ルシフェルの抵抗に対し、エブリシュカの火竜が豪火球を砲射して赫灼と炎上する火の海に敵を沈めていた。

 これで時間が少しは稼げる。シャルディムは手早く状況把握に注力した。


 まず、相手の再生能力には朔夜の『神殺し』が効かない。

 それに、辺りが闇に包まれると敵はそれに同化して本体への攻撃どころではなくなる。

 翼とはねが付き、六本足なだけあって機動性が高く、それ以外にも体表の触手と尻尾の触腕が分厚い壁となって立ちはだかる。


 そして近付いても粘液は神経毒で、浸潤すると身体の自由が利かない。加えて『竜の咆哮』で身体の自由を奪って来るので近付くのもままならなかった。

 聞けば聞くほど厄介な相手であることが分かる。

 一通り聴いたシャルディム。しかし、自身の作戦を阻害する要因は余り無かったように思う。

 これなら大丈夫。シャルは自分で立案した作戦を開示した。


「成程。それは盲点だったな」


 感心に頷くのはゼルティアナ。この作戦は、彼女が居ることで初めて実現できると言っても過言ではない。


「他に妙案がある訳でもないからのぅ」


 白い顎髭をしごくレオポルドも同意した。


「わかった。わたしは、シャルの作戦を信じる」


 シャルを蒼碧の瞳で見詰める朔夜は力強く頷いた。


「よし。じゃあ、やろう!」

『応っ!』


 作戦開始。まずは《祝福ブレッシング》による全員の体力回復。次いで、結界内に閉じ込めたルシフェルたちの消滅。術式破壊の不協和音が聞こえないため、存分に術式を展開できた。


《百花繚乱の太刀 桜火一閃おうかいっせん

《破軍弓 銀篠ぎんしょう

弩雷閃どらいせん 天瞬てんしゅん

 シャルの結界は内向き。対象を結界内に閉じ込める仕様のため、外側からの攻撃はいくらでも通る。


 燃え盛る桜色の斬閃、敵を刺し貫く無数の矢、眩耀げんようの雷によって『嘆きの光陰』の軍勢が蒸発。さすがの威力に神気をはらんだ鉄壁の障壁も決壊した。

 ここまでが第一段階。


「今だっ ルシフェルの魂魄に狙いを絞って!」


 次の第二段階で討滅を完遂する。シャルは固く決意し、ゼルティアナに指示を出した。


「心得ている」


 ゼルティアナが射形を崩して大弓の弦を限界一杯まで引き絞り、渾身の力で射撃。

 対象の数は二十七。朔夜によって神殺しの効果を付帯された矢がそれぞれ、虚空に浮かぶも見えない『何か』に突き刺さって宙に浮く。シャルはそれを結界で閉じ込める。倉庫鞄から矢と同数の呪符を取り出した。


「暗黒神の帆袖ほしゅよ。今わの際、輪廻りんねの導きより解き放ち、冥加みょうがを与え給え。《霊柩コフィン》」


 符術で形作る長方形の透明な結界。穿うがたれた矢が光の泡沫ほうまつとなって消えた後、掌に収まるほどの淡く光る球体だけがそこに閉じ込められた。

 更に、《霊柩コフィン》を神刀の結界と融合させる。障壁の色は藤色。


 魂を保存する結界。これはシャルの師匠であるテオドロス独自の術式。

 恐らくは、息子を死なせてしまった自責の念と後悔の賜物。

 大切な人間を、二度と喪わないために。魂魄融合をしてでも助けようとする師の執念が垣間見えた。


 結界を操作し、皆から遠く離れたシャルの元へと移動。これで本体の再生はどうなるか。少し様子を見た。

 結果、蒸発した場所で身体が再生開始。それを再び不破の結界で全個体を一纏めに閉じ込める。《要塞フォートレス》の術式と融合させて。


 エブリシュカ。その名を呼ぶと、火竜の君は赫灼かくしゃくと燃え盛る豪火球を頭上に形成。

《赫焉の(メテオ)光星クリムゾン》。半人半竜の巨躯を弓なりにしならせ投擲とうてき。再生した傍から焼尽した。


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