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殺戮のケモミミヒーラー  作者: 西院玲璽
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神弓の矢

 アデラールは魔法人形ゴーレムの腕を二本、こちらに向けると砲弾の如き速度で射出。肘先ひじさきから拳まで、身の丈程のそれは肘の後方から赫灼と燃える炎を吐き出して騎竜に迫った。


「貴様はこの場を離脱しろ」


 困惑する竜騎兵の返事を待たずにゼルティアナは鞍上あんじょうから飛び降りた。

神鷹陣しんようじん》を展開するには大量の風の《アニマ》を必要とする。それを応用すれば、ゼルティアナは飛行すら可能だった。


 虚空に立ち、弓をつがえ狙い定めて矢を放つ。数百本分の威力を込めた一矢は、大炎をまとった巨拳を弾いた。しかし、破壊には至らない。もう一つの巨拳が燃え盛りながら迫る。同時に残りの二本腕も円軌道でゼルティアナに向かっていた。


破軍弓はぐんきゅう 鴛鴦えんおう》。二本の矢を一纏めにしての射撃。真っ直ぐ二重螺旋らせんを描いて正面の巨拳へと向かう。

 矢と拳、二つが激突し爆発。間髪入れず煙の中に飛び込んで残り二つの拳をかわした。


 白煙の紗幕しゃまくの中で弦を引き絞り、弓矢をつがえる。《破軍弓 時雨しぐれ》。数百の矢を一塊にして放った。それも一度ではなく、七度も。

 通天無尽つうてんむじんは自動追尾なので狙い定める必要はない。魔力が込められ、威力が跳ね上がった数百の矢が敵に殺到。鋭利なやじりが風を切り裂き肉薄した。


大炎塊だいえんかい 繭玉けんぎょく》。アデラールは膨れ上がった劫火ごうかを魔法人形全体に展開し、守りに徹した。

《破軍弓 銀篠ぎんしょう》。百本もの弓矢を一斉に発射。先程よりも数が少ない分、威力は向上していた。

 四本腕を戻しておいた相手は一斉砲火。再び爆炎が閃き、灼熱が蒼穹を焼いた。


(ふむ。やはり手強いな……)


 ゼルティアナは冷静沈着に状況を俯瞰する。

 相手は炎を操る傀儡師パペットマスター。権能は恐らく炎に関する能力。攻撃手段は拳と炎。


「もう少し、威力を上げるとするか……」


 しかし、これ以上威力を上げるとするならば通天無尽の能力が制限される。それは、ゼルティアナにとって賭けでもあった。


「致し方あるまい」


 ここで負けては元も子もない。意を決して弓を引き――――


「――――ッ!?」


 濛々(もうもう)と立ち込める塵埃じんあいの幕が晴れると、そこには人形が一欠片も残っていなかった。

 直上。膨大な魔力の高まりを感じたゼルティアナは反射的にその場から全速離脱した。


 猛烈な速度で落下していくのは、赫灼と燃え盛る大炎を纏った上半身だけの巨人。四本腕であることから、先程の魔法人形だと推察できた。

 しかし、アデラール本人の姿が無いことが気掛かりだった。辺りを見渡してもそれらしい人影はない。


「《大炎塊 烈火燦れっかさん》だ。さあ、『神弓』よ。お互い、たまわりりし権能を存分に振るい合おうではないか! ハハハハハハハッ!」


 笑い声を上げて迫る。敵の周囲で揺らめく陽炎が大気を焦がした。近接格闘に砲撃。意外と隙が無い。

 しかし――――


「ああ、そうだ。お前みたいな敵を、ずっと心待ちにしていたぞ‼」


 ゼルティアナもまた、殺気を漲らせた凄絶な笑顔で嗤った。


(やはり、私は変わらんなぁ……)


 普段、正義や道徳を説いていても。一度戦闘の狂気に染まってしまえば相手を殺す事しか考えられなくなる。善悪の問答など、無粋の極みとしか思えない。

 同じ戦闘狂のノエリスだが、彼女は神刀で強化した自身へ課す際限のない鍛錬たんれんの成果を実証するために必要としているだけで、戦闘そのものに悦楽を見出すゼルティアナとは一線を画していた。


 正義を主張できるのは、あくまで勝者だけ。信念を貫きたければ、勝つしかない。

 飛んで来る拳撃を躱す宙返り。その反動を利用し、腕を伸展させ弦を限界まで引き絞る。

 全力射撃フルチャージショット。身体に弦を添わせないので狙いが安定しない。だが、弓術に通暁している英雄には関係ない。そのために鍛錬に明け暮れていた。


《破軍弓 飛瀑ひばく》。百を超える矢が神気を纏い、風を切り裂いて相手に殺到。四本腕で防御を固めると、赫灼かくしゃくと燃える大炎で襲い来る矢をことごとく焼き尽くす。


 すかさずゼルティアナは腰元の倉庫鞄から矢を取り出した。《貫通ピアージング》の術式が施された、竜の鋼殻製の矢。それを渾身こんしんの力で引き絞る。

《破軍弓 二死 『貫』の極 光陰嚆矢こういんこうし》。


 弓に三死あり。

 中らざれば死。貫かざれば死。矢が久しからずば即ち死。

 命中精度を表す『ちゅう』、威力を説く『かん』、持久性や連射性を指す『きゅう』。


 それらの中で連射性も、命中率も度外視した渾身の一矢いっし

 魔力と神気で極限まで威力を高められたそれは、相手を見据え満を持して放たれた。

 尖鋭せんえいやじりで音の壁を穿うがち、一瞬のうちに敵に到達。


 螺旋らせんで大気を引き裂き貫通した矢は腕を交叉させた相手の絶対防御の構えを貫通。腕を通過すると同時に胴体の鎧も、背中すら突き破って蒼穹そうきゅうの果てへと消えていった。


 更に。音の壁に開いた穿孔せんこうに風が急激に流入して颶風ぐふうとなり、矢の軌道を追いかける形で猛々しく咆哮ほうこうを轟かせながらアデラールを襲った。

 風が爆ぜ、燃え盛る鎧は殆どの炎を掻き消されて弾き飛ばされた。


 弾き飛ばされた後でも、アデラールの命は尽きてはいない。その証拠に、鎧からまだ赫灼とした炎が揺らめいていた。

 これにはゼルティアナも目を白黒させて驚嘆する。が、同時に湧き上がる喜悦で顔を歪ませた。


「いいぞ、アデラール。そのまま死なずに居ろ。私の技芸のすいを、味わい尽くすまではなっ!」


 ほとばしる殺意に爛々(らんらん)と瞳を輝かせ、腕の可動限界まで弦を引き絞り鋼殻製の矢を構える。

《破軍弓 二死 『中』の極 千条流星》。千を超える矢を現出させ、半壊したアデラールの鎧に殺到させた。曳光えいこうする矢はことごとく命中して燃えぜ、爆炎の閃光が敵を呑み込んで空をく。


 衝撃と熱波が迸り、蒼穹が光で一時的に漂白された。

 やがて光が消失すると、アデラールが居た場所には塵一つ残されてはいなかった。


「やれやれ。もう少し歯応えが欲しかった所だな……」


 ゼルティアナは期待外れに落胆し、憮然ぶぜんと呟く。

 残敵に目を向けようとすると、乗り捨てたはず竜機兵ドラグーンが戻って来た。

 律儀な事だ。ありがたくその背に乗せてもらうと、未だに戦艦フォルネウスを追い回している万雷ばんらいに向けて弓をつがえた。


  〇                                     〇


 怪鳥ヤズーが戦艦フォルネウスに降り立ち、ウスターシュたちは船内へと侵入を果たした。それを受けて、艦内にオヴェリアの指示が響く。


『艦内に敵が侵入。数は三名。籠城戦ろうじょうせんのため、守備隊は直ちに艦橋前に集合し防衛線を張れ。繰り返す――』


 ウスターシュたちは一路、艦橋を目指した。敵が一堂に会してくれるなら好都合。

 彼の持つ権能である『反照はんしょう』は、あらゆるものを跳ね返す不破の盾。先程の主砲も、この権能で反射した。

 絶対防御の結界は自動で展開され、彼の前に立ちはだかる万難を全て排して来た。


「ねえ、この状況、ボクが居る意味ってある?」


 重厚な金属音を響かせ先頭を走るウスターシュの背後で疑問を呈するのはノエル。彼は『陰晹いんえき』の権能で姿を隠しているので視認はできない。故に、オヴェリアたちも気付いてない。先程のアナウンスがそれを如実に表している。


「そう言うな、ノエル。貴殿の権能は有効であることは既に実証済み。ならば、オヴェリア暗殺のためにもその能力は不可欠だ」


 青髪をなびかせ、太刀をく鬼人族の青年はコウジュ。彼の持つ権能は『昊天こうてん』。全てを明らかにする陽の光。


「まあ。それは、そうかも、だけど……」


 ボソボソと呟くノエル。コウジュの賛辞が満更でもなさそうだ。


「コウジュの言う通りだ。この任務はノエル、お前が肝心だ」


 賛同するのはシャムザ。


「しょうがないなあ……」


 その呟きには喜色が混じる。彼はおだてに弱かった。チョロい。

 グウェナトルを除けば、この場ではシャムザが最年長。だが物腰の柔らかい彼は長幼の序を他人に強いることはなく、誰に対しても分け隔てなく気さくに接してくれる。


 ウスターシュとしてもその方がやりやすい。

 見た所、風穴を開けた場所は居住区らしい。その証拠に、通路の幅も高さもそれほどない。

 やがて四人は三叉路に出た。迷っている時間が惜しい。コウジュを名指しした


「心得た」


 かざした左手に魔力を込めて聖印を起動。左手の先、虚空に小さな光球が出現した。

 コウジュが左手を天井に突き上げると、光球が頭上へと移動。回転しながら明滅を繰り返した。


「ふむ。このまま真っ直ぐ進み、曲がり角を曲がれば階段がある」


 それを下って最下層まで行けば、長い直線の突き当りに艦橋へと辿り着く。それが解れば再び駆け出す。

 全てを解き明かすの光。これこそが『昊天こうてん』の真骨頂。お陰で迷わなくて済んだ。


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