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殺戮のケモミミヒーラー  作者: 西院玲璽
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秋の例祭

 弁明しないと後が面倒そうだ。内心、やれやれと思いながら口を動かす。


「どうか、落ち着いて聴いて欲しいですにゃあ。オヴェリア様たちに本拠地がはいこう坑と言った際、深く追究されませんでしたにゃあ。恐らく、十二仙の誰かが我らに間者を送り込み、既に場所を割り出している可能性がありますにゃあ」


 つまり、このまま強引に誘拐ゆうかいして本拠地にかくまってもすぐに奪還される。そうなってしまえば、儀式はご破算。今は、より慎重な行動が求められる。


「相手が動いたからといって、こちらも軽率に動くことは感心しませんですにゃあ」

「イイワケヲ、ナラベタテテ。オジケヅイタ、ノカ?」

「そちらこそ。神殿に侵入できたからって、浮かれすぎですにゃあ」


「キサマ…………ッ」

「そもそも。誘拐ゆうかいできたとして、戦艦を振り切って本拠地まで護送する算段はいつ、付けたんですかにゃあ?」

「………………」


 反論しない所を見ると、算段は一応付いているらしい。ただ、ヴァイスに教えたくないようだ。

 それも仕方ない、つい先ほど『黎明破曉れいめいはぎょう』の情報を横流ししたばかりなのだから。


 この状況に置かれて分るのは、ヴァイスはそれほど幹部たちからの信用がない。だから、得られる情報もかなり断片的。


「取り敢えず、教主様は何と言ってますかにゃあ?」

「…………」

「答えられないのは、どうしてですかにゃあ? ご自身の単なる思い付きですかにゃあ?」

「モウ、イイ……」


 それを最後に、声がしなくなる。再び部屋に静寂が訪れた。


(今のは、一体…………?)


 何がしたかったのだろうか。独断の線が濃厚だが、それでも疑問が残る。単に情報が筒抜けになる事を懸念したのか。しかし、それも理由としては苦しい気もした。


「何はともあれ、寝ますかにゃあ」

 何も分からない以上、気を揉んでも仕方がない。眠ることにした。


 襲って来る睡魔すいまに、抵抗する事もせず受け容れた。


○                                 ○


 まだ夜が明け切らない、時刻は黎明れいめい。地平線の奥から日の光が顔を覗かせ、夜色の薄まった空が白み始めていた。

 日の出から日没まで。一日中神楽を舞い続ける。それが今日、メルティナたち舞い手に課せられた使命。

 体力の限界まで踊り明かせるよう研鑽けんさんを重ね、準備に万全を期して来た。


『見眼麗しい『舞姫』が神楽を舞う』


 結局、その宣伝文句は一定の効力を発揮しなかった。延期と殺人事件という不運が重なり、観衆はまばら。集客戦略は失敗に終わった。

 それでも、今日という日に開催できただけでも良しとしなければ。シャルは気持ちを切り替える。


「さて、と。いよいよだね。みんな、緊張してる?」


 琵琶びわを抱えながら祭儀用の白い装束へ袖を通した彼女たちに尋ねる。

 シャルもまた純白の狩衣に紫紺の袴姿、そして白狐の半面という囃子手はやしての正装に身を包んでいた。


「いいえ。寧ろ、楽しみなくらいです♪」

「ええ。そうね」


 かぶりを振ったかと思うと、優艶ゆうえんな微笑をたたえるメルティナ。イェイユがそれに賛同。


「メルティナの言う通りだよ~♪」

「何も問題ないわ」


 アニスとリタラも破顔し、やる気に満ちていた。


「ちゃんと、準備してきましたもんね」

「ええ。後は、それを披露するだけよ」


 リヴェーリアとレティシアも、確かな手応えに自身の程を覗かせる。

 皆、一様に喜色を浮かべて力強く頷いた。


「まあ、もしかしたら中には心無い言葉を浴びせてくる人間も居るかもしれない。でも、僕らのやる事に変わりはない。だからみんな、くれぐれも途中で踊りを止めないように。いいね?」


『はいっ』


 シャルの言葉に溌溂はつらつとした声で応じる。意気軒昂いきけんこう。まさにそんな感じだった。


「それじゃ、行こうか?」


 少年に促されるまま、彼女たちは控室を出て渡り廊下から舞台へと登壇した。

 神殿の中庭にある祭儀用の舞台。四角く区切られた泉から伸びる柱たちが大全体を支え、階段のような観覧席から目線を少し高めに設えてあった。


 盛秋の朝は肌寒い。頬撫ほおなでるそよ風がえとした冷気を運んで来る。

 適度な緊張が心音を早めるが気分は悪くない。寧ろ、今にも躍り出しそうな高揚をはらんでいた。


「天上におわす神々よ―――」


 ヤズフィリオが朗々とした声で祝詞のりとを奏上。凜と背筋を伸ばしてむその様は堂に入っており一言一句正確に、最後の一文まで油断なく読み上げた。

 訪れる静寂。少し間をおいて会釈すると、伏し目がちに神妙な面持ちで舞台から去って行く。


 残されたのはメルティナたち舞い手とシャルを始めとした囃子手はやしてのみ。

 シャルの琵琶びわが弦音を響かせ、神楽が始まる。

 奉納するは、金剛神へ捧ぐほう神楽。


 このアルギアナ大陸を繁栄させた神々は役目を終えて天上に戻った。

 しかし、十二柱の神たちは月ごとに交代して天の座から地上を見守っている、と言い伝えられていた。


 十月に天の座を担うのは金剛神。戦神でもある金剛神への神楽は演舞に武器が用いられ、白刃閃く鮮烈な舞踏が捧げられる。舞いをはやし立てる旋律は雄々(おお)しく、戦いの狂熱を想起させる派手な楽曲が神楽を彩る。


 舞台中央でメルティナはその手で双剣を振るい、清冽な空気を切り裂き躍動した。

 衆目を最も集める中央は、最も優れた舞を披露するメルティナが抜擢された。

 まさに『舞姫』の面目躍如。その二つ名に偽りなし。


 金彩の月。夏の熱気が去った天高くさわやかな蒼穹そうきゅう。鮮やかな紅葉に彩られる木々。

 そして、たわわに実った穂波の黄金原。季節を飾る所から古来より、そう呼ばれている。


 メルティナたちはその季節の護り手である金剛神に、一心不乱に渾身の神楽を捧げる。

 旋律に破綻はなく、演舞も一糸乱れぬ様相。演舞は順調な滑り出しだった。


 いつもお読みいただきありがとうございます。

 ここ最近は本当に仕事が忙しく、執筆に中々時間が取れずに居ます。

 執筆ストックも尽きたので、恐縮ではございますが次の更新は土日までお待ち頂けると幸いです。

 それまで執筆に勤しみますので、悪しからず。

 では、また――――。

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