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殺戮のケモミミヒーラー  作者: 西院玲璽
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夜の会合

 漸く会えた。早速声を掛けると、シャルの方を向き鷹揚おうように接して来る。


「おや? これは、シャルディム君。具合はもう、大丈夫なのですか?」

「そんなことよりも。神楽奉納は是非ともすべきだと思います」


 シャルは壮年の神職に詰め寄り、決然と言い放った。


「これじゃ、何のためにメルティナたちに協力してもらって準備して来たか、分かりません」


 チラリと彼女の方を見れば、意を決した顔で首肯しゅこうし、


「私からも、お願いします」


 メルティナが頭を下げた。これで断りにくい筈だ。計画通り。彼女の誠意を受けてヤズフィリオが渋面を浮かべた。


「しかし、情勢が――」

「情勢が不安定だからこそ、浮足立たずいつも通りを心掛けるべきだと思います」


 相手が難色を示すのは織り込み済み。だからこそ反論して逃げ道を塞ぐ。


 「殺人現場で神楽かぐら、というのも――」

 「では、新しく舞台を新設するのですか? そのお金は、どこから?」


 シャルは不思議そうに首を傾げて見せた。飛竜討伐をしているとはいえ、まだそこまで金銭面が充実しているとは言いがたい。

 彼もその事が解っているのか、目を泳がせるばかりで答えに窮していた。

 やがて項垂れるように肩を落とし、


「いいでしょう。ただ、募集した演者には報酬を渡して返した手前、人員の募集は期待できないでしょう。それは客足も然り。それでも――」


「「お願いします。やらせてください!」」


 シャルとメルティナ。二人がフンスと鼻息を荒げ、迫真の表情で距離を詰める。


「…………わかり、ました」


 気圧され仰け反ったヤズフィリオが、喉から言葉を絞り出した。


「「ありがとうございます!」」


 二人はがばっと勢いよく感謝に頭を下げた。


「やったね♪」

「はい。やりました♪」


 破顔して互いの手を取り、喜びを分かち合う。二人、嬉しそうに小躍りする様子を見ていたヤズフィリオは肩をすくめて相好そうごうを崩した。


「よし。こうしちゃ居られない。早速準備に取り掛かろう」

「はいっ」


 神殿の長に一礼してからその場を後にすると、準備のために駈け出した。

 巷間こうかんの動揺もあってか、神殿内の人気は疎らで、二人が走っていても誰かにぶつかることはない。


 錬武館に行く途中、二頭の赤竜と共に浮遊して移動するエブリシュカに遭った。あれだけ強力な絶技イクシードを使って魔力切れを起こした後だというのに、本人は至って元気そうだった。


「こんにちは♪ エブリシュカ」


 優艶ゆうえんな微笑を浮かべて挨拶あいさつするメルティナ。上気している頬が少しつやっぽい。


「ええ。そんなに慌てて、どうかしたの?」


 不思議そうな顔で首を捻るエブリシュカ。


「はい、実はですね。明日、中止していた今月の例祭ができるようになりました♪」


 メルティナはまぶしい笑顔を弾けさせる。例祭に合わせて衣装を新調し、入念に準備してきた彼女のことだ。かける情熱も人一倍強く、開催できる喜びも一入なのだろう。

 見ているシャルまで嬉しくなり、白銀の尻尾を嬉々として揺らした。


「ってか。起きたのね、このクソガキ」

「悪いかよ……」


 見下ろしながら厭味いやみったらしい物言いに、シャルの中の反抗心が頭をもたげる。

 赤竜の魔女はその様子に鼻を鳴らすと、空中で両肘を抱き生足をさらしながら組んで踏ん反り返った。


「悪いに決まってるでしょ。大魔法グランキャスト喰らった時とか、正直生きた心地がしなかったわよ?」

「うっ――――」


 そういわれるとシャルは立場がない。アガーシュラは、シャル自身の手で鎮圧しなければならなかった。なのに、神殿の竜級冒険者総出で漸く治まった。途中で気絶していたこともあり、シャルには身の置き所が無かった。


「何か言う事、あるんじゃない?」

「…………」

「ねえ、あるわよねぇ?」

「…………、御免なさい」


 耳を垂れ下げ、毛並みの美しい白銀の尻尾をしおれさせながらエブリシュカに謝罪した。


「ええ、本当に。死ぬかと思ったわ」

「すいませんでした……」


 平身低頭。ひたすら謝罪に徹する。


「次は、無いわよ?」


 肝にめいじておきます。シャルがそう言うと、満足したのか踵を返してどこかへ行った。


「はあ…………」


 せっかく意気揚々と明日の準備をしようと思っていたのに。出鼻をくじかれ、シャルは落ち込んだ。

 そんな少年を、琥珀髪こはくがみの乙女は微笑みながら優しく撫でた。


「さあ。早くしないと、日が暮れてしまいますよ?」

「…………うん、そうだね」


 彼女の言う通りだ。よし、と気を取り直したシャルは寮の方へと再び駆け出した。メルティナと共に。

 身内だけのささやかな例祭は、明日の開催を目指して準備が始められた。


 昼を過ぎてから総出での開催準備。守護職の男手もあって夕方までには目途が付き、宵闇が深まる頃には終了した。

 準備が完了し、風呂で汗を洗い流した後で夕食を摂った。

 シャルが食べ終えるタイミングを見計らって、


「オヴェリアが、アンタに話したい事があるって」


 エブリシュカからの申し入れ。それ受け、寮の応接室でヴァイスを含めた竜級冒険者たちが一堂に会す。その中に、ビルギットの姿もあった。


「どうして、私も駆り出されなきゃならないの?」


 眼帯の少女は憮然(ぶぜんn)とした表情で疑義をていする。


「当たり前でしょ? 復讐ふくしゅうに加担してたんだから。 連行されたいの?」

「…………っ」


 ヴァイスによればあの後。冒険者組合ギルドには事の仔細を話したらしい。

 そして、彼女の身柄は神殿で預かることになったのだとか。面倒事を嫌うバウゼンなら、やりかねない。シャルはひとまず納得した。


 それから軍にも状況の説明を求められたが、復讐ふくしゅうの件や超獣ゴライアス現出に関する詳細は伏せておいた。主に、ヴァイスやクロアの判断で。シャルは目を覚ましていなかった。


 返す言葉もなく、ただ苦々しい表情を浮かべるビルギット。

 彼女が加担したシェムヘドが全ての原因なので肩身が狭い。

 部屋が静まり返ったのを見計らい、エブリシュカはスマホでオヴェリアとの通話を開始した。


『ヤッホー。こんばんは』

「どうも」


 相変わらず表情が読みにくい竜人ドラグナーの女性が画面に映る。ちょうど風呂上がりらしく、彼女の濡れた髪と上気した頬がつやめかしい。

 一方シャルはというと、風呂上がりで火照った頬のメルティナに請われて彼女の太ももに腰掛けていた。


『シャルディムか?』

「は――――?」


 思わず身を乗り出して凝視する。何の前触れもなく、いきなり長身の鬼人女性、ゼルティアナの顔が映り込んで来たので驚きを隠せない。


『お姉ちゃんもいるよ♪』


 更にピースサインをする銀髪の獣人、朔夜さくやまで。どういう事かというと、


『今、戦艦フォルネウスでそっちに向かってる』

『二日後には着けるから、待っててね♪』


 眉をひそめるオヴェリアの話に割り込む朔夜さくやは、屈託くったくない笑みを浮かべ手を振っていた。


「どういう状況、ですか……?」

『シュカ。説明よろ~』

「チッ ったく、しょうがないわねえ……」


 オヴェリアから水を向けられ舌打ちするエブリシュカ。心底面倒臭そうに溜め息を吐いた。


「要は『暁の巫女』であるメルティナを保護するために、超特急で来るのよ」


 十二仙であるあの三人が。それは護衛戦力としては破格だった。


「暁の、巫女…………?」


 聞き慣れない言葉にメルティナ本人が疑問符を浮かべる。それはシャルも同じだった。


「はい。じゃあ、あとはそこの白猫が説明しなさい。幹部なんでしょ?」

「は?」

「承りましたにゃあ♪」


 目を細めてにっこりと。相好を崩して手を挙げるヴァイス。


『そうそう。ヴァイスはわたしたちの敵である異教徒組織『黎明破曉れいめいはぎょう』の幹部らしい』


 オヴェリアからまさかの爆弾発言。戦艦の方でも二人が絶句し、驚愕の表情を浮かべていた。

 常世神アヴァターあがめる神殿には、明確な禁忌が存在する。その一つが、常世神アヴァター現人神エイリアス、若しくはその源流となった大神以外の存在を神として崇拝してはならない。


 そういった背信行為に走る連中を異教徒と呼び、十二仙はことごとく壊滅させてきた。

 ここにエブリシュカを密偵という形で送り込んでいるのも、国内有数の規模を持つ龍脈を『黎明破曉れいめいはぎょう』に悪用させないよう、監視するためでもあった。


 そしてヴァイスが説明する。『暁の巫女』というのは、『黎明破曉れいめいはぎょう』の祭神、陽光神イリアコリアスを降臨させるための人柱ひとばしら。つまりは生贄いけにえ。今回、それに該当する人物がメルティナ。


「冗談じゃない……っ」


 シャルは怒気をはらんだ言葉を吐き、義憤ぎふんに顔をしかめる。

 生贄なんてそんな真似まね、絶対にさせない。シャルは固く決意した。


『ヴァイス。アナタは、テオおじいさまを裏切るの?』


 相手を鋭く射抜く苛烈な視線。朔夜さくやがそれを画面越しに白猫の獣人に対して向ける。


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