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殺戮のケモミミヒーラー  作者: 西院玲璽
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オヴェリアの依頼

 オヴェリアの神刀は戦艦。その戦艦との外部通信用の連絡端末。通称『スマホ』。

 神殿や戦艦を介して長大な距離での念話を可能とする物らしい。


「お二人は知り合いだったんですか?」


 親しげな様子からクロアが尋ねる。


『うん、そう。わたしが冒険者だった頃にね』


 オヴェリアが十二仙に選ばれるべく、修行の旅に出たという話はシャルも聞いた事がある。


「にしても。なんで密偵なんか……」


 シャルが疑義を呈する。

 ここイシャードは戦略上、それ程重要な拠点でもない筈。派遣する意味が分からない。


『まあ、確かに戦略上はね。でも、神殿を中心にその一帯は、聖都の鎮守府並みの規模の大きな『龍脈』が走ってるから、大規模な儀式をするのにうってつけなの』


『龍脈』とは地下深くに存在する魔力と《アニマ》の奔流。つまりは強大な力そのもの。

 大規模な儀式は大量の魔力と《アニマ》が必要になるので、魔術師たちがそういう土地に目星をつけて祭儀場さいぎじょう敷設ふせつ、術式を展開し、執り行うという話は守護職内でも情報共有されている。


「そうなんですか?」


 だが、大規模な『龍脈』が走っているという話は神殿内でも聞いた事がない。初耳だった。


『軍事機密だからね。三年前に私が調べたから、間違いないよ』

「なんだってまた、そんなことを?」


 する必要があったのか。疑問が残る。


「そんな事より。本題を進めてちょうだい」


 エブリシュカが本題、依頼いらいの内容について話を切り出す。


『今言った通り、そこは割と重要拠点だから、守護のために一人でも多くの有能な人材に居て欲しい』


 何かあった時に備えて。そのために障害となる要素は全て排除しておきたい、というのがオヴェリアの意見。

 どうやら、エブリシュカが早々に退室したのは実質的な復讐ふくしゅうの企てを報告するため、だったようだ。


『敵の戦力はどの程度把握してる?』

「そうっスねえ……」


 ヴィンセントとシェムヘド。鎧の男は恐らく剣闘士グラディエーターに回復役が二人。魔法職の女が一人にあと、斥候の暗殺者(アサシン)が一人。

 ナガルは取り敢えず、事務所で見たことのあるメンバーを列挙した。


『間違いなく他にもいると思う』

「っスよねぇ……」


 オヴェリアの懸念に腕を組んで頷くナガル。それは間違いないだろう、シャルも同意した。


『最低でもレイド単位で十人以上、最悪二十人は――』

「ちょっと待て」


 オヴェリアの話を遮ったのはザウラルド。眉間みけんしわを寄せ怪訝けげんな表情を浮かべている。


「そこのクソガキに、そこまでしてやる価値と義理が、どこにあるんだよ?」


 以前、シャルが殺そうとしたことを根に持っているのか、彼は依頼に対し明らかに乗り気ではない様子だった。

 そこに疑義を挟むのはオヴェリア。


『じゃあ、アナタはなんでそこに居るの?』

「別に。俺の意志じゃない」


 連れて来られただけ。鼻を鳴らし、不機嫌を隠そうともしない。


『ああ、そう。そうやって被害者意識拗こじらせて、不貞腐ふてくされてるだけのヤツに任せる依頼いらいなんてない。やる気が無いなら出てってくれる?』

「そうさせてもらうぜ」

 

 重い腰を上げると、ドアの方へ足を向けるザウラルド。


『バッカみたい。助ける価値っていうけど。じゃあ、アナタの冒険者としての価値って何?

それを誰に証明したの? 被害者意識でイヤイヤこなした年季以外で』


 思いのほか、オヴェリアは辛辣しんらつだった。


「………どうして、知ってる?」


 年季。それは『大粛清だいしゅくせい』の後に抵抗勢力の構成員たちに協会が課した奉仕活動全般。

 反逆を免罪する代わりに、協会職員として三年間従事する行為を指した。


『そのしみったれた被害者面を見れば、イヤでも分かる。それと。尋ね返す辺り、ロクに人助けもしてないのが丸わかり。ホント、何のために冒険者続けてるの?』


「お前に何が分かる⁉」


 声を荒げるザウラルド。不機嫌な顔をしていても、ここまで怒りを露にするのは珍しかった。

 そんな彼とは対照的に、オヴェリアは飄々(ひょうひょう)とした態度を崩さない。


『何も分からないし、心の底からどうでもいい。あと、ハッキリ言ってわたしも暇じゃない。あと五分で話纏まとめたいから、関係ないヤツはさっさと失せろ』


 怒りの熱はなく、淡白で冷酷な拒絶。その言葉を聞き、有角の偉丈夫いじょうふは足早に出て行った。

 部屋の中には重苦しい沈黙が流れる。


『はい。じゃあ、これまでの話をまずはまとめる』


 依頼主であるオヴェリアが話を主導する。

 ラジェスタ神殿には大きな龍脈が走っており、周辺地域には有事に備えて実力者を配しておきたい。


 そこで目下、障害になるであろうシェムヘド、以下パーティーの面々をつぶす必要がある。

 ただ、相手は恐らく戦力を隠しているだろうから調査する必要があった。


「それじゃ、調査はアタシの出番ね♪ だって、密偵だし♪」

「んじゃあ、手分けして探しますか」


 嬉々として名乗り出るエブリシュカは頼もしい。賛同するナガルも乗り気なようで一安心。


組合(ギルド)の方は、わたしが手を回しておくから』


 潜伏場所と八割方の戦力把握ができ次第、市街戦で決着を付ける。効果範囲の広い強力な術式など、魔法職に十全の実力を発揮させないために。


『まあ、だいたいこんな感じでいいと思う。あと、なにか質問は?』


 真っ先にナガルが挙手し、オヴェリアが発言を許可する。


「報酬って、どうなるんスか?」


 依頼いらいなのだから、知りたいと思うのは当然。

 そして、今回の暗殺は相場の基準がない。それもその筈。賞金首でもない相手を冒険者に殺させる依頼は個人的な依頼のため、情報は常に秘匿されている。


『エブリシュカには前払いしてるからいいとして。アナタは何が欲しい? お金?』

「まあ、そうっスねえ………二十万ピルクとか?」


 ナガルは顎に手を当て虚空を見詰めながら首を捻った。予想される人数も人数だし、妥当な所だろうとシャルは心の中で結論付けた。


『わかった。三十万ピルク出すから、確実に仕留めて』


 即断即決。その返答にナガルが目をみはる。


「ハハッ いやぁ、金払いがいい人は好きっスよ♪ 今後ともご贔屓に。アハハ!」

『はい。じゃあ他には?』

「あのっ」


 不安げな表情で声を絞り出すのはメルティナ。


「その……本当に、いいんでしょうか?」

『大丈夫。わたしは以前、十二仙に就任した直後に協会と契約を交わしたお陰で、組合(ギルド)を介さなくても依頼出せるから』


 不正受注には当たらない。


「そうではなくて、ですね……」


 彼らを殺してしまっても良いのか。心優しい彼女には、躊躇ためらいがあるようだ。

 それは仕方がない。殺人を犯したことがない人間が、それをどうしようもなく忌避きひするのは寧ろ当然と言えた。


『仕方ない。そもそも殺そうとしてるのはあっち。同情の余地なんて、最初からない』

「そう、ですか……」


 正論。それを聞いたメルティナの表情は晴れない。


「うん、そう」


 オヴェリアは明け透けに、ハッキリと首肯する。

 それに。


大体復讐ふくしゅうとか、ハッキリ言って馬鹿の極み。冒険者やってたら誰かが殺しに来るなんて当たり前だし、わたしも仲間を殺された。でもそれは当人や仲間の実力不足が原因だし、弱いのが悪い。結局は自己責任。それを他人に逆恨みだなんて、筋違いもいい所』


 付ける薬がない。オヴェリアは無慈悲にも断ずる。


「アンタって。結構、性格悪いわよねぇ……」


 あきれ交じりにエブリシュカがめ息を漏らした。


『十二仙に性格の良さなんて、求める方がどうかしてる。わたしを選んだのはナハティガルナ様の都合であって、わたしじゃない。聖上せいじょうから性格について言及された覚えもないし、十二仙に高潔な人格を期待する方がお門違い。全員、ロクデナシしか居ない』


 怒りの表情も見せる事無く、淡々と答える。因みに聖上せいじょうとは、常世神(アヴァター)に対する尊称。


「…………」


 あくまでも個人の主観での話。だからシャルは何も言わない。

 他に話す事もなくなったので、通信が切られた。暗転し、物言わなくなった神器じんぎがテーブルに取り残された。無言の応接室を、沈黙が覆う。


「で? 例祭って五日後だっけ?」

「そうだよ」


 シャルとしても、それまでには片付けておきたい。敵が虎視眈々(こしたんたん)と殺す機会を狙っている街で日々を過ごすなんて、冗談じゃない。


「じゃあ、さっそく行動しなくちゃね♪」

「そっスね」

「…………ふむ」


 立ち上がった二人は部屋を後にした。クロアも無言で退室していく。

 俯くメルティナの顔はずっと浮かないままだった。


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