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殺戮のケモミミヒーラー  作者: 西院玲璽
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反目の冒険者たち

 無言の食堂に、緊迫した空気が流れる。シャルはハラハラしながら双子と魔女の成り行きを見守った。


「いや、だってホラ。エブリシュカって」

「他の人と違って、ラーニャだけ毛嫌いしてるのです」


 そう。エブリシュカはラーニャとだけ折合いが悪い。それは初対面の頃から。


「はっ 別にぃ。たかがヘビ如き、そんなのでこのアタシが―――」

「「あっ ヘビっ」」

「きゃああっ!」


 二人が慌ててテーブルから離れた。

 それを受けて悲鳴を上げ、椅子を倒して跳びすさるエブリシュカ。


「ウ・ソ―♪」

「大成功、なのです♪」


 悪戯を完遂させた二人は喜色満面にハイタッチで手を叩き合う。


「アンタらねぇ………っ」


 こめかみに青筋を立てて顔をしかめるエブリシュカ。背中の魔法陣から赤竜を二頭召喚する。

 他方、呆れたリタラは口をつぐんでいた。


「やっぱヘビ苦手なんじゃん♪」

「弱点発見、なのです♪」


 笑って指を差すソルベージュと、口を隠して笑うレドベージュ。共にお腹を抱える二人。

 当初の緊迫した空気はどこへやら。ただの痴話喧嘩ちわげんかになりつつある。


「ち、違うんだからっ 別に、ヘビなんか。きき嫌いじゃないんだからあっ!」


 羞恥しゅうちで顔を真っ赤にして叫んでも、説得力の欠片もない。食堂内がどっと笑いに包まれた。

 その中でも、特にゲラゲラ笑うのがナガル。


「ギャハハハハッ あーおかし。自分だってヘビ――」


 放たれる火球。シャルは取り出した呪符を素早く派し結界を展開。相殺され爆煙が広がる。

 煙の中からナガルが高く跳躍し、屋根の梁に足を掛けて拳銃を構えた。それに対抗してエブリシュカもまた、赤竜の顎で火球を燃やす。

 二人が発砲する寸前、シャルは紙縒こより状にした小さな爆炎符を二人に投げ付け、


オン


 起爆。威力の抑えられた二つの爆発が食堂内で轟いた。それから、《似姿(デコイ)》を二人の元へと歩かせると、銃の発砲と赤竜の咬撃こうげきで消失した。

 虚像にだまされた事に気付いた二人は、殺意のこもった目でシャルを見詰める。


「どういうつもりよ?」

「どっちの味方っスか?」

「別に。仲裁をしただけだよ」


 赤竜が二頭から三頭に増えていた。先程よりも敵意が倍増しているのを感じた。


「どこがっスか? 今の、オレじゃなきゃ死んでましたよ?」

「そもそも。お互い発砲しなければ、あんな事にはならなかったじゃないか」


 つまり、二人が悪い。お互いに場所も弁えず殺そうとしたから、爆炎符を寄越してやった。


いさかいを起こさなければ、わざわざ爆発に巻き込んだりはしないよ?」


 それくらいの分別は、シャルにもあった。

 だが、それはシャルの勝手な言い分。二人が殺し合うのにかこつけて殺そうとするのは普通、仲裁とは言わない。もっとも、シャルもそこまで本気で殺そうとしていないからこその淡白な態度なのだが。


「「…………」」


 その理不尽とも言える釈明に二人は閉口した。戦慄する顔はシャルへの恐怖がにじんでいた。


「エブリシュカ」


 リタラが改めてその名を呼ぶ。


「………なによ」


 エブリシュカは不貞腐ふてくされた顔で口をとがらせた。


「やめてね?」

「~~~、チッ わかったわよ。性欲満たしたきゃ、男娼でも何でも雇えばいいんでしょっ⁉」


 赤竜を使役して身体を宙に浮かび上がらせると、去り際にそれだけ言い残していった。

 その様子にほっと胸をで下ろすリタラ。その様子を見届けた周りの人間たちも人心地着き、解散の流れとなってシャルも食堂を後にした。


(さてと。今日は家庭教師か)


 シャルは今年になってから、領主の娘への家庭教師を任されていた。

 資金繰りの面においても領主とは懇意にしておきたいので、願ったり叶ったりではある。

 その前に、鍛錬場で少し身体を動かそう。そう思い立ち、寮を出た。


 神殿は祈祷きとう儀式ぎしき専門の施設なので、他の設備は寮に併設されていた。

 芝生が茂る中庭の一角。二人の男が殴り合っていた。


(うわぁ。またやってるよ、あの二人……)


 渋面じゅうめんを浮かべながら一瞥いちべつしたシャル。その視線の先にいたのは、クロアとザウラルド。


「はっ そろそろ威力が落ちて来たんじゃないですかねえ!」

「ほざけぇ、色男ォッッ!」

「筋肉ダルマァァアア!」


 全身から立ち昇る程の闘気とうきみなぎらせ、互いに獰猛どうもうに笑いながら。拳をぶつけ合う二人。

 彼らは互いに反りが合わないらしく、合流の翌日から毎日のようによく喧嘩けんかしていた。


 朝から晩まで。飽きもせず、お互い譲ることなく、ひたすら相手を殴り続けている。

 そんな二人だから、他の人間は近付こうともしない。ナガルも含め、彼らは常に孤立していた。浮いていると言ってもいい。


(にしても……)


 凄いと思うのはクロアの方。仮面を被っているからとはいえ、あの鎧と一体化した義手の拳を耐え続けているのは素直に感心する。普通なら一撃食らっただけで昏倒こんとうしそうなものだが。

 拳の突き出し方を見る限り、どうやら彼は武闘家を履修済みらしかった。

 意地を張り合い振り上げた拳を降ろさない彼らを尻目に、シャルは鍛錬場の扉をくぐった。


  〇                               〇


 その日の晩。ナガルは冒険者組合(ギルド)の酒場に来ていた。


「いやぁ、ホント聞いてくださいっスよ、ウチの大将がさぁ。もう、ねえ……」


 カウンター席に腰掛け、酒を片手に隣の年若い冒険者に愚痴ぐちこぼす。

 彼は二人目。因みに最初の一人は既にナガルの凶弾きょうだんに倒れてこの世に居ない。

 その様子を知っている若い冒険者は、彼が吐き出す不平不満に蒼然とした顔で恐る恐る首を縦に振る事しかできないでいた。

 ぐびぐびとのどを鳴らして舌を湿らせ、ここぞとばかりに愚痴ぐちをぶちまけるナガル。


「いや、ホントね? 命がいくつあっても足りないんスよ。生きた心地がしないのなんのって……」


 ナガルは神殿内で誰とも話さない分、ベラベラと喋り続ける。片手には拳銃が握られているので、若い冒険者は迂闊うかつに席を立つこともできなかった。


「なんで居んだよ」


 ナガルが振り返ると、そこには顔を腫らしたザウラルド。どうやら魔術で治癒してもらえなかったらしい。その間抜けな顔に思わず噴き出した。


「ぶはっ 旦那だんな。なんスか、その顔。ハハハハッ!」


 カウンターを叩き、腹を抱えて大笑した。

 いい物が見れた。クロアも中々いい仕事をしてくれる。ナガルは一人、ほくそ笑む。


「うるせぇ。笑い過ぎなんだよ」


 ドスをかせてにらみ付けるザウラルド。


「ハハッ サーセン♪」


 鼻を鳴らした大男はナガルを一瞥いちべつし、カウンターで酒の注文をした。


「………にしても。なんでそんなに毎日毎日殴り合ってんスか?」


 それがナガルにとって不可解だった。


「テメェには関係ねえよ」

「まあまあ。二人だけの秘密にしときますから♪」

「気持ち悪いんだよ」                                                                         

 その言葉を聞いた瞬間、無意識に引き金を引いていた。


「テメェ………っ」


 義手の右腕で防いだザウラルドがこめかみに青筋を立て、怒りが全身から立ち昇る。


「ひいぃぃぃっ」


 年若い冒険者はらず逃げ出した。去り行く背中にヘッドショット。これで二人目。

 ナガルは元々、とある犯罪組織に狙撃手として育てられた。親は知らない。物心着いた時から、いやそれ以前から身内でもない大人たちに囲まれ戦闘訓練に明け暮れていた。


 そうして研鑽けんさんを重ねた日々の賜物か、至近距離ならほとんど意識しなくても撃つ事ができた。

 やがて組織が壊滅すると冒険者へと転身。卓抜たくばつした狙撃そげきスキルや銃の扱いに長けたナガルは暗殺者(アサシン)となって実力を発揮し続けていた。


 ただ、拳銃の引き金を引く指が余りにも軽い。いつも無意識に、気が付いたら引いていた。

 だが、それは余り気にしていない。他人の神経を逆撫さかなでする人間と折合いなんて付く筈がないし、人間関係でストレスは溜めたくない。


 それに冒険者は実力至上主義なので、力を示していれば不逞ふていな輩も迂闊うかつに近付かない。

 だから、そこまで問題にしていなかった。


「まったく。穏やかじゃないね」


 あきれ混じりの声は少年、シャルディムだった。純白の狩衣かりぎぬに赤鬼の半面が良くえる。


「何しに来た?」


 警戒を露わに尋ねるザウラルド。


「ちょっと仕事の依頼を、ね」


 大したことじゃない。肩をすくめ、相手に緊張の緩和を促す。しかし、ザウラルドは警戒を解く事無く言葉を額面通りに受け取らない。距離を隔てた二人。酒場は静まり返り、次第に両者の間に緊張が高まっていく。


(今なら、殺れるか………?)


 さすがにナガルも気分次第でいつ殺されるか分からないような相手について行きたいとは思わない。ザウラルドに意識を集中させている今、手っ取り早く殺しておくべきではないか?

 そんな結論に達した。


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