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殺戮のケモミミヒーラー  作者: 西院玲璽
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事態の収拾

 体勢を立て直したメルティナは弓使いに双剣を構えて対峙。恐らく、彼がシェムヘド。

 シャルと因縁のある相手。にしても疑問が残る。目撃者すらもことごとく殺して来たシャルが討ち漏らすなんてあり得るのだろうか。


「メルティナ!」


 狼狽ろうばいしたシャルが前に出張る。


「そこをどけ、『血霧(ブラッドヘイズ)』。俺が相手にしたいのはお前じゃなくて、毒婦だ」


 確かに理に適っている。神職であるシャルと冒険者が殺し合うのはご法度だが、冒険者同士の私闘は禁止されていない。あちらは恐らく、事情を知っている。


「双方、武器を収めなさい。組合(ギルド)職員の権限で、この場の戦闘行為を一切禁止します!」


 殺し終えたカチュアが声を張り上げて制止を促した。


「何を無粋な――」

「やめろ、ヴィンセント。ちゃんと舞台は整えてやる」


 殺気を放つ弓使いが大爪の武闘家を掣肘せいちゅう。それを受けて武闘家も口をつぐんだ。


「そこまでだ」

 

 大気を震わせて轟く、低く野太い声。辺りを見渡すと、冒険者区画の方から初老の男が姿を見せた。

 全身を黒鉄の鎧に包み、頭頂から犬耳を生やし、白髪交じりの髪を短く刈り上げる男の名はバウゼン。


 彼こそ、この町の冒険者組合(ギルド)の長、ギルドマスター。

 板金鎧を鳴らしながらシャルに歩み寄り、憮然ぶぜんとして肩をすくめるバウゼン。


「なあ、シャルディム。ちょっといいか?」


 詳細しょうさいは神殿で。シャルとバウゼン、二人の間で話がまとまる。

 シャルたちはプレッツィオとラーニャ、カチュアにメルティナを残して神殿へと引き返して行った。



 神殿に戻って来るシャルたちは途中、冒険者組合(ギルド)の酒場で二人ほど合流した。

 ヤズフィリオの計らいで応接室にバウゼン以下、冒険者たちが列席して話が進められた。

 さすがに血生臭いエブリシュカは風呂に通された。


「まずは、経緯けいいから話そう」


 話を切り出すバウゼン。しかし、それを手で制すシャル。仮面を外していたので苦々しい表情が露になっていた。そう、最初から結論も着地点も分かり切っていた。


「あのさぁ。僕んトコは、問題児を優先的に預かる託児所たくじしょじゃないんだけど?」


 それを聞いて、狂ったように笑う黒い短髪をした森人の男。


「アハハッ 託児所たくじしょって。どんな評価っスか? オレら。 ハハハ!」


 テーブルを叩き、ゲラゲラと腹を抱えて大笑する薄手の黒衣姿の森人エルフはナガル。

 森人エルフらしく整った目鼻立ちの青年は翼を広げた蝙蝠(こうもり)の仮面を被り『真黎の魔弾』という異名で呼ばれ、長身の背丈を超す狙撃銃を扱う暗殺者アサシン


 問題はその性格。ナガルは他にも二丁の拳銃を携行しており、その引き金がとにかく軽い。

 彼の不興を買ったら即座に銃殺される。彼曰いわく、全ては面倒事を避けるため。もっとも、それが原因で争いが起きた事例は枚挙に暇がない。それ故、誰も近付きたがらなかった。


「いい加減、黙れ。テメェの笑い声はしゃくさわんだよ」


 苛立ちを露わにした低い声。窮屈そうにソファに腰掛けた大柄で屈強な有角人の男はとび色の外套がいとうを羽織り、下から覗く無骨な鎧と一体化した機械仕掛けの右腕が人目を惹いた。


蹂躙じゅうりんの剛腕』ザウラルド。無骨な右の鉄腕とは対照的に、肩から布で吊り下げる左腕は包帯に覆われせ細っていた。


「サーセン」


 彼がにらみを利かせると、即座に居住まいを正し両手を口に宛てて押し黙るナガル。

 ザウラルドがその名を轟かせたのは五年前。

 大陸全土の冒険者組合(ギルド)を束ねる『冒険者協会』の主導による大規模な綱紀粛正。その際に反旗を翻した冒険者たちの一人。


『協会』で指名手配された彼は懸賞金目当ての冒険者たちを悉く返り討ちにした。

 その暴威は人間離れしており、だからこそ『蹂躙じゅうりん』の二つ名が付けられた。


「そういえば。『銀麗』の名をかたっていた輩が居ると、言ってましたねぇ」


 顎に手を当て、思い出したように呟く。


「ああ。話によるとどうやら最近、そういうのが各地で散見されるらしい……」


 通称『二つ名騙がたり』と呼ばれるそれは、近年登録した冒険者が主にやっているのだとか。


「ちょっ ブフォッ ハハ、マジっすか? 『銀麗』をかたるって。ハハハッ」


 再び狂ったように笑うナガル。シャルも気持ちは分からなくもない。


「女の敵って、自ら表明しているようなものですからねぇ」


 ちゃんと意味を解っているのか。嘲笑に口角を吊り上げるクロア。

 笑い出す二人とは反対に、ザウラルドの眉間みけんに刻まれたしわが更に深くなる。たまらずといった様子で眼前のテーブルを軽く叩く。それだけで木製の天板が少し凹んだ。


「テメェら、いい加減にしろよ。オレをおちょくってんのか?」

「それは自意識過剰じゃないですかねぇ」

「あ?」


 苦々しい苦言に反駁はんばくするクロア。怒りの視線でにらみ付け、それをとがめるザウラルド。


「別にいいじゃないですか、誰がどこで笑おうと。特段、アナタの事を嘲笑している訳でもないですし」

 

 だから自意識過剰と言った。それに対しザウラルドは立ち上がり、挑みかかるように顔を近付けながら反論する。


「なら、オレが何に怒りを感じようとオレの勝手だよな? 場所も弁えずゲラゲラと。他人の迷惑も考えらんねえのか?」

「私を短慮たんりょというのなら、何かにつけて不機嫌になるアナタも同じでは?」


 柔和な笑みを貼り付けたまま首を捻った。


「………ほぅ?」


 殺気を放つ二人が視線を交え火花を散らす。

 限界だった。これ以上は拳銃に手を掛けたナガルが発砲しかねない。こんな下らないことで子供たちを怖がらせたくはなかった。


 シャルは立ち上がり、魔力を解放して精霊化(アストライズ)を果たす。少年が徐々に青年の姿に変じていくのを、初見の二人は目を剥いて凝視した。


「いい加減にしろよ、お前ら」


 怒気をはらんだ声が重苦しく響く。三人を睥睨して掣肘。それだけで二人の殺気が霧散した。


「そろそろ話を始めたいんだがな……」


 あきれ顔で頭をくバウゼン。


「そうだね。さっさと始めようか」


 それを受け賛同し促すと、改めてソファに腰掛ける。もっとも、シャルこそが腰を折った張本人なのだが。

 では、改めて。それを枕詞まくらことばに口火を切る。


 話の内容はこうだ。

 ザウラルドが酒場で朝食を食べていると、突然ヴィンセントが絡んで来た。

 それを仲裁すべくナガルが二人に向け発砲。それからは戦いが始まり、様相は周囲の冒険者たちを巻き込んでの三つ巴。


 収拾が付かなくなりかけた時、突如として貧民街の方で現出した巨大な魔力反応。

 ヴィンセントがその反応に興味を見せ、二人の元を退散。ヴィンセントの顛末は、シャルもよく知っている。


「――――という訳で。これ以上コイツらが他の冒険者と下手に諍いを起こさないよう、監視をお願いしたい」


 頼む。両膝に手を着き、頭を下げるバウゼン。


「……………」


 シャルは、胡乱うろんげな視線でそれを眺める。思えば、クロアやエブリシュカの時もこうして押し付けられた。

 ああ、またか。諦観ていかんにも似た感慨が胸に去来した。


血霧(ブラッドヘイズ)』の悪名が広がらないよう心を砕いてもらっている手前、断りにくい。物凄く嫌だが。

 改めて三人の顔を見渡す。


 銀狐の半面の下で不敵に笑う『銀麗』。

 両手で口を抑え、必死に笑いを堪える『真黎』。

 不貞腐ふてくされたように眉間に皺を寄せる『剛腕』。そしてこの場には居ない『火竜の魔女』。


 錚々(そうそう)たる顔ぶれ。実力は在野で最強の竜級ドラゴンランク。引退前のシャルと同格。恐らくは実力も。性格は随分とアレだが。

 職員で他に適役はいないのか。と考えたが、居ないから自分にお鉢が回って来るのだ。

 聴くだけ無駄なので口をつぐむ。


(――――まあ。頼られてるって、ことだよね………?)


 かつて冒険者の中でも最悪の殺戮者さつりくしゃ、『血霧(ブラッドヘイズ)』である自分を。

 無理筋かも知れないが前向きに捉えれば、そんなに悪いことでもない―――かも知れない。


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