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殺戮のケモミミヒーラー  作者: 西院玲璽
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因縁の相手

 顔が青ざめ、驚嘆しながら妖刀と斬り結んだ。


(馬鹿な……っ)


 メルティナが剣を振るう度に閃光が視界を焼くのにも拘わらず、妖刀の凶刃は攻撃の手を緩めない。憑依という一種の催眠状態が本能を逸脱した剣舞を可能にしていた。

 相変わらず燃え盛る妖刀での剣撃は殺気と妖気を孕み凄絶を極める。


 辛うじて受け上がしてはいるが、その度に心胆が凍えた。それが舞いへの没入感を磨減まげんさせる。必死に闘志を奮い立たせなければ死ぬ。その危機感と恐怖が戦闘を継続させる原動力。


 この間、メルティナが身を焦がす灼熱しゃくねつに苛まれる事はない。シャルが巫女装束に施した術式はかなり強力で特殊なようで、灼熱などの継続的で小さな攻撃は少し経てば防御するようになっている。


耀よう神楽・四の舞 遊糸》


 神楽は所作の一つ一つが呪詛じゅそ的意味を持ち、一定の拍子で連続させると術式が組み上がる。

 眩惑げんわくの光が止むと、今度はメルティナの幻影が複数出現。双剣を手に舞い踊りながら側面より攻撃。虚像といえど、収斂しゅうれんされた光条の刀身は本物。

 が、クロアはそれらを掻い潜りながらメルティナ本人とも剣劇を演じた。


(やはり、強い―――――!)


 その凄絶せいぜつ太刀筋たちすじ体捌たいさばきに戦慄を覚える。これ程の技量を持つ人間は余りお目に掛った事がない。達人。その狂気的な在り様はともかく、そう認識せざるを得ない。


(負けない――――っ)


 紫炎をまとう妖刀に対抗心を燃やして剣戟けんげきを演じ続ける。

《アニマ》を収斂しゅうれんし刀身に収束。時間の経過と共に密度が高まり、一撃が次第に威力を増していった。攻勢に出る。受け流すしかなかった斬撃を、逸らして反撃に加速した。


「っ⁉」


 僅かな驚愕。メルティナの一太刀ひとたちが、クロアの斬撃と拮抗。続く二の太刀を鍔迫つばぜり合いで迎撃された。鍔迫つばぜり合いを解き、刀身を相手のふところに滑り込ませ連続の刺突。間合いを空け、上体を仰け反り倒してかわされた。


 足払いの斬撃をその場で跳躍し旋回。妖刀の返す太刀たちと遠心力で加速した横薙ぎが交叉、妖炎がぜて吹き飛ばされた。


「~~~っ」


 屋根に刃を突き立て掛ける制動。剣舞が途切れた。しかし収束した光の《アニマ》は健在。

 眩い光輝が刀身を包み、半ば実体化し刃部が肥大化していた。

 舞えば舞う程向上する威力と高い継戦能力。これが巡礼者の、神楽の優位性。


「いやぁ、素晴らしい。ここまでの実力を持つ人間はそうそうお目に掛れませんからねぇ」


 喜悦きえつに口端を吊り上げるクロア。素直な称賛に送られる拍手。だというのに、メルティナは全く嬉しくない。


「ありがとう、ございます」


 だが、それはそれ。称賛には一応の感謝を示しておく。

 クロアとは錬武館で何度か模擬戦もぎせんを重ねたが、未だ底が見えない。それが喜べない理由。

 昨日の友は今日の敵。そんな言葉が真実めく程殺伐とした冒険者稼業。


 故に、実力者ほどその優れた能力を隠したがる。手の内を晒して弱点を突かれる訳にはいかない。それをした人間から殺されていく。

 クロアの実力は間違いなく達人のソレ。だからこそ、は確かめたいことが一つあった。


「……一つ、質問なのですが」

「ええ。何でしょう?」

「かつて、貴方は自身で立ち上げた血盟(クラン)(クラン)を自らの手で壊滅させた、との噂なんですが……」


 それも、とてもむごたらしい方法で。

『銀麗』の猟奇殺人は有名な話だ。自分で作り女性が圧倒的に多いハーレムクラン。

その女性たちの四肢を斬り落とし、死ぬまで犯し続けた。それで人員が居なくなり、血盟(クラン)が一晩で消滅した。


 その凄惨せいさん醜悪しゅうあく極まる所業から方々で恨みを買い、女性冒険者たちの間では「銀麗は女の敵」という共通認識が生まれた。

 以来、彼は血盟(クラン)を立ち上げることも、所属する事もしていないらしい。


「ああ、その事ですか……」


 銀狐の半面の下で苦笑し、肩をすくめるクロア。真相の是非は如何ほどか。メルティナは固唾かたずんで次の言葉を待つ。


「ええ。紛うことなく、事実ですよ。アレは、私が私であるためにも必要な儀式でしたからねぇ。お陰で心が清々しましたよ。ククク……」


 やがて天を仰ぎ、狂ったように声を上げて笑うクロア。そこには罪悪感など微塵もない。

 この男はシャルとは違う。殺戮者だからといって同じ所など、一つとしてない。


「さあ、続きをやりましょうか。更に苛烈に、もっと私と愛を―――」


 言い終らぬ裡に背後へ一刀。紫炎の爆発が奇襲を迎撃。脱出したクロアがメルティナの方へと飛び退いて来た。

 黒煙が晴れると、向かいの家屋の屋根に男が立っていた。


 整った顔立ちと目元に掛かる黒い癖毛の髪。その両腕には刀剣と見紛う程の大爪が三本、手甲からそれぞれ生えていた。


「どうやら、アンタは『銀麗』本人で間違いないようだな。よかった、ツイてるぜぇ………!」


 獰猛どうもうに光る双眸そうぼうでクロアを見据えると獣のように低く構え、肘を張り両腕に力をみなぎらせる。

 き出しの敵愾心てきがいしん。大爪に込められた魔力がわずかに殺気を漏出させていた。


「やれやれ。全く、無粋の極みですねぇ」


 クロアもまた獰猛どうもうな笑みを浮かべながら妖刀を正面に構え、刀身に紫炎を燃え盛らせる。

 膨れ上がり、周囲を圧する魔力と殺気。やがて、どちらともなく駆け出し空中で刃を交叉こうささせた。男が四肢を絡み付かせようとするのを弾き飛ばして阻止。爆炎を轟かせて男を追随ついずい


 吹き飛ばされた先の屋上で態勢を整え、蹴りで反撃。次いで大爪の斬撃、更にその場で踏み込み放つ衝撃。縫い留められたクロアは攻撃しざまに跳躍した男の上空からの連撃に応戦。膝の外旋内旋を使い巧みに体を捌いていた。


 足が自由になると相手の射程外に脱出。屋上を飛び宙に身を投げ出す。大太刀の遠心力で宙返りし追撃を躱しざまに斬り付ける。轟く爆炎。迸る灼熱が大気を焦がす。塵埃じんあいに紛れる相手を、まるで補足しているかの如く迷わず追随ついずい


 斬閃に埃の紗幕しゃまくが斬り裂かれてクロアの姿が見え、撃ち合う白刃同士が拮抗し火花を散らした。鍔迫り合いで互いが攻撃を封殺。そこに闖入ちんにゅうする一枚の呪符。


オン


 赫焉とした爆発が燃え盛った。この場で呪符を操るとしたら一人しか居ない。メルティナが後ろを振り返ると、少年の腕が背中に回された。


「メルティナ………っ」


 湿っぽい痛切な声音。お腹の辺りに抱き付く少年を見下ろすと肩を震わせ、今にも泣き出しそうだ。


「シャル……?」

「ケガはない? どこか、痛い所とか……大丈夫っ⁉」


 赤鬼の半面の下で半べそを掻くシャルが尋ねる。明らかに狼狽しており、普段の落ち着いた雰

囲気は欠片も感じられなかった。

 そんな少年を、メルティナはそっと優しく抱き締める。


「大丈夫ですよ、シャル。私は今、どこも痛い所なんてないですから」


 諭すように耳元でささやいた。


「うん………」


 どこか甘えたような声色。肩の力が抜け、顔を埋めるシャル。正直、角が当たって痛い。


「ごめんなさい……」


 しょんぼりと肩を落とし謝罪する獣人の少年。白銀の尻尾が力なく垂れ下がっているのが哀愁を誘いつつもどこか愛らしい。思わず白い仮面の下で目尻を緩めた。

 先程の男がシャルの背後から急襲。跳躍して宙返りし双剣で大爪を受け止めた。


 しかし、あふれる殺気を全身に漲らせる男は止まらない。前蹴りで突き飛ばされた。それを受け止めたのは、精霊化(アストライズ)して青年の姿になったシャル。


「もう、大丈夫だから」


 優しく抱き締めると、穏やかな声音でメルティナをゆっくりと床に落ち着かせる。


「お前が『血霧(ブラッドヘイズ)』だな?」


 獣のように身を低くし、殺意で爛々(らんらん)と光る双眸そうぼうで二人に殺気を飛ばす。


「お前も僕の事を知ってるようだな」

「ああ。シェムヘドがお前を殺したくて、殺した過ぎてオレに声を掛けて来たからな」

「………居るのか?」


 出されたその名に、シャルは目に見えて動揺した。


「シャル……?」


 精彩を欠いた少年は声の方へ、立ち上がったメルティナに視線を移す。

 突如、尻尾を跳ね上げ和毛を逆立てた。メルティナも後方に殺気と魔力の高まりを感じ振り返る。


「待―――」


 遠くに確認できるのは、背丈以上の剛弓を構えるオレンジ髪の優男。眼前に放たれた一矢が白い仮面の防御障壁と激突、火花が散った。一瞬の停滞の後、矢は障壁を貫きメルティナに迫る。

 後方に第二射を確認。腰を落としながら素早く一射目を叩き斬り、続く二射目をかわそうとするも顔面目掛けて追随ついずい。斬り上げて弾き返した。


今日も三回投稿にチャレンジ!

次は12時

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