神刀十二仙
「そう。ズバリ、敵は元から造ったりなどしてないのですわ。建造してないのだから、見つかる筈も無し。これが結論、証明終了ですわ♪ オーホホホホホホ♪」
『…………』
高笑する本人以外、全員が閉口した。
もっとも、朔夜の隣で項垂れながら座る竜人の女性、オヴェリア・レピデュスは会議序盤で既に寝落ちしていたが。
「いやぁ、素晴らしい。全くもって斬新な発想、まさしく慧眼、と言った所でしょうね♪」
クツリと嗤う青年の名はディジアン・エヴェストイ。
皮肉屋な彼は、本心から彼女を称賛などしていない。それは付き合いの長い朔夜には周知の事実。知らないベルナディットは気を良くして更に高笑した。
「ベルナディット・バルテルミー!」
高笑を遮る鋭い声音。短髪で怜悧な面差しの森人の青年が、眼鏡を直しながら名指しする。
彼の名はアルブレヒト・ノルグウィスデン。朔夜とは年が近く、神経質な性格は苦手だった。
「? どうしたんですの?」
「発言する際は、もう少し熟慮を重ねるんだな」
「なっ―――」
辛辣な発言に彼女が鼻白む。
「全くもってその通りである」
賛同するのは、双角を生やし精悍な壮年の偉丈夫。ゲルゴギウス・ヴォルツェロフ。ピンと跳ねた口髭をしごく彼は十二仙において古参の部類に入る実力者。
「全く、嘆かわしい限りである。このような愚にも付かぬ放言を耳にするために、吾輩は列席している訳ではないのである」
隆々(りゅうりゅう)な腕を組み、鼻を鳴らす尊大な態度。あからさまな侮蔑にベルナディットが目くじらを立てる。
「なにが放言なもんですか。百年以上も国内外をくまなく探し回って、それでも見つからないなら見方を変えるのが普通でしょうに。
大体、それだけの期間を探してさらに捜索を強要するなんて。代々の隠密衆は無能の集団だったとでも言うつもりですのっ⁉」
「ほう? 聞き捨てならんな」
指を差し糾弾する彼女の怒声に反応したのは藹路瓊玉。たった今、議題の俎上に揚げられた隠密衆を率いる頭首。
「この際だから、俺も言っておく。これ以上有りもしない祭壇を探すくらいなら、すぐさま攻勢に出てさっさとカタを付けるべきだ」
手勢を戻せるしな。ベルナディットの発言を受け、これまで態度を保留にしていた瓊玉が攻勢論に鞍替え。よくやった。朔夜は内心ほくそえむ。
賛同者の出現に得意げに髪をかき上げ胸を反らすベルナディット。それが気に食わないゲルゴギウスは顔を紅潮させながら震える。
「ええい。だから吾輩は嫌だったのだ! 対外的に必要な筆頭と次席以外の序列を廃するなど。だからこんな放言も罷り通るのである。一体、どう責任を取るつもりかっ⁉ 議長殿!」
この会議の議長を務めるのは、十二仙筆頭の将門熊春。白髪が混じる老境に差し掛かった彼は苦笑を浮かべていた。
「そう言ってくれるな、ゲルゴギウス殿。見渡せばわかる通り、当代は若く才気に溢れている者が多い。なればこそ。そういったしがらみを取り払い、自由闊達な議論ができるようにすべきではないか?」
「だが、その結果がこれであるっ」
「ならば、軌道修正を掛けるは、我ら年配の役目ではないだろうか?」
「む………」
顔を紅潮させた偉丈夫が僅かに怯む。その隙を逃さない。
「どうか、ここは一つ。儂の顔を立ててはくれぬか?」
首を傾げ、やんわりと。彼の怒りを受け流す。
「むぐぐ………っ」
さすがの古参者も、この発言には歯噛みするしかない。
現在、十二仙は便宜上必要となる筆頭と次席の役職を残してはいるが基本は上下関係も序列もなく、各々が対等だ。
十歳で朔夜が十二仙に選ばれた辺りから、徐々にそういう流れに熊春が画策していたらしい。
顔を立てろと言われて怯む辺り、熊春は何かしらの根回しをしていたようだ。
「――して。最年長のご老体はどう思われますかな?」
さりげなく話と興味の矛先を他人にズラした。この如才の無さこそ、内外において彼以外の筆頭は有り得ぬと言わしめる手腕。
「ふむ」
顎に蓄えた白髭をしごく禿頭の老人こそ、最年長にして王族の末席を占めるレオポルド・ジラルディエールその人。矍鑠とした小柄な老人の言葉を、誰もが黙して待つ。一人寝ているが。
「ベルナディットの発言、その内容の是非はともかく。要旨には一考の余地があるじゃろうて」
「ちょっと。聞き捨てなりませんわ」
「というと? ご老体」
ベルナディットの反論を無視し、発言を促すのは皮肉屋のディジアン。
「見つからぬのは無いからではなく、持ち運びできるくらいに小型化されている、としたら?
それこそ、傀儡のような。複数体を別々に保管しておく、とかかのう?」
その意見に全員がハッとした(一人除く)。それなら人目に付かずに隠すことが可能かもしれない。あくまでも推測の域を出ないが。
「なら、結論はもう出ましたわね。つまり、わたくしは正しかった。そう言うことですわ!
オーホホ――」
「ちょっと待ってくださいっ!」
彼女の高笑いを遮り、慌てて腰を浮かせたのはペネトレーニュ。自分の献策がふいになったから当然だろう。
「確証がないのに、軽挙妄動は控えるべきでは? それに――」
「ペネトレーニュ」
穏やかな声音で遮るのは議長。
「今回、献策を採用できなかったことは儂としても心苦しい。が、ここは最悪を想定して動くべき時。敵の準備が整っている可能性がある以上、座視するは愚の骨頂。そうは思わんか?」
「…………」
諭された彼女は俯くばかりで何も言わない。朔夜はそれが少し気に掛かった。
ともあれ、詮無き事。攻勢の打診を議長が軍部に持ち掛け、実務の段取りは後日。
「それより、例の『巫女』はどうするんです? 異邦人で冒険者だから、放置ですか?」
渇いた笑いを零すディジアン。皮肉にしては笑えない。
「馬鹿を申せ。みすみす彼奴等の手に渡してやる道理もない。保護が順当であろう」
長身の鬼人女性、ゼルティアナ・タッチェル。背筋を伸ばし、凛然とした佇まいに隙は無い。
「おや、これはお優しい。同僚の死の際は、死んで当然とまで言っていた貴方が」
面倒臭い事になりそうだ。朔夜は内心懸念した。
「戦いで不覚を取っただけなのだから、当然であろう。まさか、根に持っているのか貴様?」
心底分からないといった様子。そんな彼女に対し、ディジアンはピクリと眉を震わせた。
「全くもってその通りである」
賛同したのは、ピンとした自身の髭を指先でしごくゲルゴギウス。
「謀略に踊らされるなど、愚の骨頂。死んで当然である」
フン、と鼻を鳴らし忌々しげに吐き捨てた。これ以上はいけない。話の方向を軌道修正するために、朔夜は一人の生贄を差し出す。
「それで。『巫女』の件だけど。私はオヴェリアが適任だと思う」
声を張り上げ衆目を集めながら、寝落ちしているオヴェリアの肩を揺すった。
「いや、起きてるし。大丈夫」
寝ぼけ眼をこすり、あくびを噛み殺す仕草には説得力の欠片もない。
立ち上がると両手を突き上げ、終わった終わった。と伸びをした。
「ええい。貴様、寝コケるのも大概にせんか! 全くもって不愉快であるっ!」
激昂するのは生真面目なゲルゴギウス。顔に朱を濯ぎ口角から沫を飛ばす。
「朔夜。怒ってるけど、なんかした?」
「知らない」
首を捻る彼女は当事者の自覚がないらしい。
「貴様だ貴様、オヴェリア・レピデュス! どういう覚悟を持って、この場で末席を汚しておるのだ!」
「ちゃんと議論するぞ、的な?」
ぐっと両手を握り締めてから疑義に首を傾げるオヴェリア。緊張感の欠片もない。
「やかましいわ! 誰だ、こんな愚物を十二仙にしたのは⁉ 不愉快である!」
起き抜けの彼女を指差して批難するゲルゴギウス。気持ちは分からんでもないから朔夜は彼女に助け舟を出してやらない。
「それは勿論、ナハティガルナ様でしょうねえ♪」
フフ、と笑みを零すのは波打つ金髪を後ろで纏め白衣を羽織る更年期の女性、ノエリス・アバーテ。齢は四十を過ぎているのというのに外見は未だ若々しく、妙齢と言っても信じてしまいそうな程の美魔女。
そして、未だに強さを貪欲に追い求める十二仙きっての戦闘狂でもあった。
「それは、そう、だが………っ」
正論には抗弁できず、ゲルゴギウスは両拳を握り締め怒りに打ち震えるしかない。
「―――で? 話の内容って、なんだったっけ?」
「…………」
いけしゃあしゃあと。さすがの朔夜もこの態度には閉口せざるを得ない。
「やはり、微睡の中で小舟を漕いでいたご様子♪」
皮肉を口にするのは誰か、確認するまでもない。
「いや、違うから。みんなのためにも今一度、内容の確認。確認は大事」
頭を振る様子に精彩を欠いた様子は微塵もない。本当に図太い性格をしている。




