漂泊の巫女
「シャルディム」
威圧的なゼルティアナに促され、渋々仮面を外す。その顔は今にも泣き出しそうなくらい歪んでいる。灰色の双眸は儚く揺らいでいた。
「もしかして、寂しいんですか?」
「うるさいうるさいっ 当たり前だ、そうに決まってるだろ! ―――――はっ⁉」
シャルディムは『真実』の誓約をナハティガルナと結んでいる以上、嘘が吐けない。
今のは意図せず、本音が出た。
そう、寂しい。せっかく心安らぐ場所を見つけたのに、それを手放さなければならないなんて。シャルは嫌だった。
できることなら行って欲しくない。それでも、彼女が悩んで決めた事ならそれを応援してあげたい気持ちも、嘘じゃない。心境は複雑だった。
「ああ、よかった♪」
「え――――?」
安堵して顔を綻ばせるメルティナ。真意が分からず、疑問が口を衝いて出た。
「私も本音を言えば、寂しいです。好きな人の元を離れるのは」
「メルティナ……」
言葉とは裏腹に、彼女の顔はどこか晴れやかだった。
「だから、私は必ず帰ってきます」
アナタの元へ。頬を赤らめ、輝く笑顔をシャルに向けた。
「…………うん。待ってる」
「はい♪」
希望通りの返答に満足したのか、彼女は破顔した。
「あ、そうだシャル。実は餞別に一つ、私から贈り物があるんですよ♪」
「贈り物?」
朗らかな様子で告げ、首肯するメルティナが目を瞑るように指示。シャルは何の疑いもなくそれに応じた。
そして――
唇同士が、重なった。
「――――っ」
シャルは驚いて目を瞠る。弾力のある薄唇の感触が口全体に広がる。突然のことに目を白黒させるばかりで二の句が継げない。
この瞬間、誰もが息を呑んで二人に視線が釘付けになる。
やがてメルティナから唇を話すと、紅潮しながら潤んだ瞳を伏せていた。
「フフ♪」
「――――っ」
頬を上気させたメルティナが妖艶に微笑む。それを見たシャルは顔を耳まで真っ赤にした。
「あらあら♪」
口に手を当て、悪戯っぽい笑みを浮かべるのはエブリシュカ。
突然のキスに子供たちが二人を囃し立てる。
「それじゃあ、早く行きましょうか♪」
踵を返し、シャルに背を向けるメルティナ。その耳は紅潮していた。
「なんで貴方に仕切られないと――」
「置いてくぞ」
朔夜の嫌味をゼルティアナが遮る。
そうして彼女たちはラジェスタ神殿から遠ざかって行った。その後ろ姿に、皆で口々に別れの言葉を告げる。
「ほら、シャル」
「わっ」
リタラに背中を押され、思わずバランスを崩した。振り返ると、微笑む彼女が頷いた。
分かっている。贈るべき最後の言葉は決まっていた。
「メルティナ!」
振り向いて。そんな気持ちを乗せて彼女の名を叫ぶと思いが通じたのか、足を止めて振り返る。
少しの沈黙の後。満を持して告げる。
「いってらっしゃい!」
彼女を送り出す言葉。そして、彼女が帰る場所を教える言葉。
君の居場所はここにあるのだと。漂泊の巫女である彼女に、ずっと贈りたかった言葉。
「はい♪ 行ってきます!」
とびっきりの笑顔を向けながらの返事。やがて、どちらともなく頷き合う。
二人は互いに背を向け、迷いなく歩き出す。
この先、再び巡り合うと信じて――――
最後までお読みいただきありがとうございました。
来年は本業を頑張らないと人生が詰むので執筆作業は暫くお休みになります。
また、ナンバリングして続きかきたいんですけどね……
因みに次回作は高校生同士のラブコメを執筆する予定。一人称で文体も結構変わると思います。
秋ごろには、何かだせれたらいいなぁ……
偶に手慰みに二次創作や短編を書くかもです。一次の長編は暫くないので悪しからず。




