5話 「鳥籠の少女」
「なぁ、構えたはいいけどさ。騒ぎにしたくないんだけど…」
「あなたが指輪を手にした時から、既に周りは騒がしくなってるわ」
「じゃあ、これやるよ!他のやつらに取られたくないんだろ!?」
「そんな暇ないわ」
「その通り」
並び立つ片割れの女が返答すると、抱えていた鳥籠を優しく撫でた後、何かを呟き地面へ落とした。
―――ガシャン
能力だろう。2人の間を分断するように何かが空間を分つ。
―――
――
―
先ほどまでは広い路地裏の突き当りだった。
しかし、シルヴィアが今いるこの場所は広い牢獄のような場所だった。
「みんなもっと驚くのよ?」
「あなた5等級ね」
「外れ。あたしは4等級。ついこの間上がったの」
女は面妖に笑う。ヒラヒラとした羽のような服が視線を誘う。
なにより目の下の隈が不気味さを一層際立てた。
「寝不足かしら」
「心配しないで、直に治るから」
シルヴィアは辺りを見回す。
格子の隙間から外が見える、しかし、光が十分届いてないのか薄暗かった。
ボロボロの服を着た誰かが見える。見覚えのある景色は先ほどまでいた、あの路地裏。時折、格子の隙間からほんのりと風が入る。
「いい能力ね」
「実際便利よ、暗殺・拉致・監禁…。悪党にはうってつけじゃない?」
「あなた冒険者でしょ」
「違いがある?」
「…」
依頼のため、というのは建前だ。
冒険者は時折、金のために同業を襲う。人を襲って金を奪う悪党と違うとすれば、
皆が皆、そうではないこと。そして『職』として存在すること。
なにより、都がそれを黙認していること
「そんなに便利なら、私だけこの空間へ送ればいいじゃない」
「無理。この籠の中にはあたしも居なきゃいけないの。入れる人は先着1名様限定。第一、それができたらこんな仕事してないって」
「これから戦う相手に随分答えてくれるのね」
「だって、そんなに重要じゃないし」
そういうと、女は懐から小さな球体を取り出すと、地面へ思い切り叩きつけた。
一体どうやって小さな球に、あのサイズの物が収まったのかはわからない。
子供ほどの大きさで、不気味に笑う天使像が3体浮かびあがる。
どれも彫像のように精巧に彫られていた。
金属で出来た天使像が暗い部屋で鈍く光り、何者かに操られるように漂う。
「知ってる?最近の工房はこんな武器まで作るの。魅力的じゃない?」
武器を扱うものに能力の有無は関係ない。
さらなる敵と戦う者、戦闘に向かない能力を持った者。能力自体を持たない者。
そういった者たちのために、工房は力を提供する。
力関係を等しくするのに武器はもっとも効果的だった。
「そう…」
シルヴィアは右手を左肩へもっていくと、そのまま大きく払う。
―――吹き荒れる暴風
―――細切れになる天使像たち
―――呆気にとられる女
圧倒的という言葉以外何も感じさせない一瞬の出来事。
これまでの女の努力をすべて無かったことにした。
風が止めば辺りには何も残らなかった。
「私の代わりに工房に言ってくれる?玩具ではなく、武器を作れと」
「…あはっ!さすが1等級はレベルが違うね…」
女の呆気は感心に変わっていた。
「知ってて挑んだの?」
「当然でしょ?それに、私が何を知っていようが、やれるやれないってのは無いの」
「そうみたいね…」
女はここまでの出来事など予想の範疇だと言わんばかりだった。
「あたしの仕事は別にあんたに勝とうとか、殺そうとか、そんなんじゃないの。ただここに閉じ込める。それだけよ」
そう言うと、その場で体育座りをして顔を下げた。
「まるで決死隊ね」
「大半の連中はそうよ、危険の無い依頼は金にならないもの。そして、そんな依頼に身を投じるあたしの命も安い。殺すだけ無駄よ」
「ここから出られるなら値打ちがいくらだろうと殺すわよ」
「そう…。今日生きても、明日はどうか分からない。やってもいいけど、どうせ無駄よ」
動じない彼女を見て、シルヴィアも考える。
(苦痛を与えてみようかしら)
「取引をしましょう」
「はっ!そんな回りくどいことしなくても、捻りつぶせるでしょ」
「ここから出る正確な方法を言いなさい。答えないなら、これから貴方を嬲るわ。答えたら、欲しい物を上げる」
「欲しい物ね…、考えるだけで3日は掛かるけどいい?」
シルヴィアは両手を吹き矢のようにし、ふっと軽く吹く。
「いっ!?…たぁぁ……」
身悶える彼女の靴に五寸釘ほどの穴が開いた。そこから徐々に赤い血が流れ出る。
蔑む表情を見せながら、繰り返す。
「もう一度聞くわ、欲しいものは?」
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