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4.5話 「見られていました」

 話は少し遡る。丁度、ダッシュが亡骸と交渉している時であろう。


 2等級事務所(クラン)、『スタディオン』

 9区に存在するこの事務所は都の中心に近い。その中で、女性2人が落ち着かないように話している。今まさに、早期解決すべき問題に追われていたのだ。


「ロミ、指輪はまだ見つからないの?」


 スタディオンに所属する1等級の冒険者シルヴィアには、急を要する任務があった。事務所に送られた1つの依頼。それは、


『アーティファクトの確保』

 公開された情報は少ない。ただ、指輪に酷似した依頼品は、現在多くの冒険者が探しているということ。ただタイミング悪く、この事務所で手の空いた者は少なかった。


「ネズミやハエの目には、なーんにも映ってないです…。なんだってスラム街はどこも似たような風景なの!」


 ロミと呼ばれた彼女は、濡れた布を目に押し当てながら、愚図るように喚いた。

 頬には能力者を表すマークが描かれている。

『大きな黒い瞳に映る、抱き合う2人の人間』


「急いで。8区の事務所が手当たり次第に人を雇っては、この9区に送り込んでいる。先を越される訳にはいかない」


 そう、9区は今混乱している。

 『アーティファクト』……都を都たらしめる遺物

 

 アーティファクトには力がある。人が能力を持つように、時折、物にもそれが宿る。

 そして、この手の依頼は大きな利権が絡んでいるため皆がこぞって狙っている。

 

「これ以上傍受する視界を増やしたら、私の目が潰れます!!」


 この2等級事務所の中でもロミは新入り。能力者の中でも多くはない探知や察知に特化した貴重な能力者。この事務所でも監視や捜索に尽力している彼女はとても重要なポジションについている。

 いい能力を持った人間が幸せだとは限らない。好奇な目で見られ、常に他人と比較され続け重圧がのしかかる。

 なかには途中で折れてしまう人もいる。

 そんな人達がいる中でも、ロミは比較的明るい。


「なら人間の視界だけを傍受しなさい」


「やってますけど、見えるのはゴミとか死体とかばっかり!あんな指輪、見ればすぐにわかるのに…、キャァーーー!この人、立ちションしてる!!!!!!最悪!!」


 まぁ……うるさいのがたまに傷だけど


「貴方の能力も難儀なものね…」


 シルヴィアは両耳を塞ぎながら呆れるように言う。


「シルヴィアさんは、もっと私を労わってくださいよー」


「労うのはこれが片付いた後よ」


「そもそも、なんで私たちだけでこの依頼をやるんですか?」


「1区と中央区に異形が出たの。他の人はみんな、そっちへ出払ってるわ」


「それってあの『泣き叫ぶ揺り籠』のことですか?」


「今はこの仕事に集中しなさい」


「こんな光景を見せられているんですよ?喋ってなきゃやってられませんよ!見るならもっと綺麗な景色とか、心温まる可愛い動物とかが良かった…。この人だって死体なんかマジマジ見て、一体何して……あっ…あった…。見つけた!」


 先ほどの賑やかな雰囲気から一転、事務所の空気が変わった。


「場所は?」


「これは、多分……スラムと内地の境目です。丁度、門のあたり…。あぁ!この人、自分のポケットに入れようとしてる!!駄目ですよ!窃盗ですよ!返してください!!」


「外見は分かる?」


「待ってください…!ごみ、ネズミネズミ、ハエ、ウジ、酔っ払いに吐しゃ物……居た!黒い仮面にぼろっちい服、破れた外套。両手に手袋。背が少し高い。おそらく男性です!あぁ…、門を潜りそうです…!」


 ロミの語気が急かすように徐々に早口になっていく。


「すぐに向かうわ」


「私も行きます!」


 そう言うと、彼女は押し当てた布を外し、充血した目をかっと見開いた。


「貴方の仕事はここまで、ここからは私の仕事よ」


「大勢の冒険者が狙ってるんですよ?中には2等級の人だって、一体何が起こるかっ」


「だとしても、あなたが来たところで状況は変わらない」


「確かに私の能力は戦闘向きじゃありませんけど、戦うくらいできますよ!」


「事務所を無人にはできない。それに今のあなたには休息が必要よ。気持ちはありがたいけれど、今は指示に従って」


「……分かりました」


 不服そうな顔をしながらも、ロミは渋々承諾した。


「心配ないわ。新入りのあなたでも、私の能力は知っているでしょ?」

「当たり前ですよ!シルヴィアさんに憧れて、私はここまで来たんですから…」


 私は知っている。彼女の胸元にあるそのマークは、

『裂くような烈風と一枚の青い花びらに乗るイタチ』


 シルヴィアさんの能力は風。

 いや、旋風やかまいたちといったほうが近い。

 非常に危険で強力な……



「シルヴィアさん、気を付けてください」


 ロミは少し心配そうに、赤い目で彼女を見送る。


「えぇ…留守は任せたわ」

最後までお読みいただきありがとうございます。


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