4話 「初対面だけど協力しました」
「え?女?」
白銀と言えばいいのだろうか。艶やかな髪は腰まで届く。
俺とは違い、恐れを知らない柔らかな面差しは美しく、どこか冷たい。
なにより、まっすぐなその青い瞳がこちらの隙を許さない。
(話が通じそうな相手だが…、正直勝てそうだ。あの長い髪は戦闘で邪魔だろ。勝つまでいかなくても、逃げる位はできそうだな)
荒事とは無縁そうな華奢な体が、そう感じさせる。
(問題は能力だ…。対格差のある相手に物怖じせず堂々としているのは優位だと思っているからだ)
「1回だけ聞くわ、質問はせず正直に答えて。その指輪をどこで手に入れたの?」
「はぁ…、誰だよお前は」
彼女は下から上へと払うように手を振り上げる。
――パキッ
刹那、ダッシュの左後ろの壁に等身大の亀裂が入る。
「はははっ…、お見事…」
「あなたは警告を無視した、もう一度聞くわ。その指輪をどこで手に入れたの?」
「あぁ、これか?これはそうだ。9区に大きな宝石店があるだろ。これは都の女性を輝かせるための、あのマストアイテムだよ!宝石っていうのは昔から愛されてきたんだけど、その店の歴史は長くて長くて。なんと約300年前から存在している老舗だっていうから思い切って…」
ダッシュは思いつく出まかせを長々と喋り続ける…
――パキバキッ
今度は右後ろの壁に先ほどよりも大きな亀裂が入る。
「要点だけを喋りなさい」
(なにか見えるが目で追えない上に発動の予備動作も短い。だが2回まで許して警告した。危害を加えるつもりはないのか…?)
「…拾ったんだ」
「どこで、どうやって?」
「スラム街だよ、9区の。ここに来る前に男が倒れてたからそいつからとった」
「…」
彼女はじっとダッシュを見つめて考える。
「いいわ」
「何が?」
「信じてあげる」
「フゥー、そうか…。で、あんた1人?」
「仮にそうだとしても、バカな真似はやめることね」
彼女は警戒を解いた。だが、こちらの緊張は解けなかった。
懸念事項はこの女だけではない。
確かに視線は複数あった。指輪が重要であれば標的よりも多い人数でくるはずだ。それでも彼女が1人なのは先ほどの2撃をみれば納得する。
となれば・・・・
「多分、俺よりもバカな真似をする奴が来るかも…。ほらな…」
ガラの悪い男が4人。うち1人は大柄で、こちらに来るや否や彼女に話しかけてきた。
「嬢ちゃん悪いね、緊急なんでな。割り込ませてもらうよ」
「あなたは?」
「言ったろ、緊急なんだ」
男は彼女を覗き込むと、そう吐き捨てた。
(あぁ…、話が通じなさそうな相手だ)
このまま勝手に潰しあってくれると助かるが、そうもいかない。
騒ぎになって人目に付けば、俺が何者かバレる危険性がある。
(こんな時、あっと言わす能力があればいいんだけどな、仕方ない)
「おっさんもこの指輪目当て?」
キラリと光る指輪をこれ見よがしに見せつける。
「…あぁ、寄越しな」
「もちろん!喜んで。じゃぁ、よく見て…!ちゃんと受け取ってくれ…よっ!!」
「っ!このクソ野郎!!!!」
思いっきり遠くまで投げてやると、悪態をついた彼らは急いで軌跡を追いかけていった。
―――
――
―
「………」
「そんな目で俺を見るなよ」
「呆れた……、人をおちょくるのがあなたの趣味なの?」
「まさか、あんなにバカだなんて俺だって思わなかったよ」
「私だって、あんなのが同業者なんて信じたくないわ」
「礼ぐらい言ったらどうだ」
「どこで石なんか拾ったの?」
ダッシュは壁に入った大きな亀裂に親指をさす。辺りに散らばる壁の破片たち
「俺はこの壁とは無関係、弁償しないからな」
「本物は?」
「たくっ、長袖を着といて良かったよ」
袖からは輝く指輪がコロッと出てくる。
「あんたといい、あいつらといい、この指輪の何がそんなに重要なんだ?そりゃ綺麗だし高価だとは思うけどさ」
「それは君には関係ないことだ」
返答は意外にも新たな第三者からだった。
男女が2人、行く手を阻むように並び立つ。
「あれはお仲間?」
「いいえ、違うわ」
一言返すと、彼女は戦闘態勢に入る。
「はぁ、指輪ってのはどうしていつも呪われてんだよ…」
「彼ら、さっきの間抜けよりは手強いわ。あなた戦えるわよね?」
「…多分」
「負けてもいいけど、指輪は取られないように」
「………」
「そんな目で私をみないで」
ダッシュもまた、彼女に合わせるように構えた。
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