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第1話 精霊王

じっくりと進めたいと思います。


最後まで付き合っていただけると幸いです。

「フィガロには精霊様がついとる。」

 

  父、ナーブはいつもにこやかな顔でそう言う。


  「…でも、お父さん。精霊なんて見えないよ…。」


  「あっはは!心配せんでいい!

 お前は俺の自慢の息子だ!きっと…俺を超える精霊使いとなるさ。」


  父は精霊使いだった。

 

  精霊使いとは精霊召喚契約の儀にて精霊を召喚し、契約をする。精霊召喚契約の儀は10歳で行う。契約をした精霊は契約した精霊使いに召喚され命令に従う。精霊には属性がありそれぞれ相性などもある。炎、水、自然、光、闇などの属性を代表に細かな属性なども存在する。


  父は昔、契約したA級精霊と共に数々の偉業を成した。全精霊使いの憧れの人物『精霊王』であった。精霊王とは国王から頂く称号である。精霊王の称号を持つ精霊使いは民からの信頼も厚く、その名を知らぬ者はいないほどの英雄のことである。


  その息子のフィガロの精霊召喚契約の儀にてフィガロの父は言葉を無くす。


  「…大変申しにくいのですが、フィガロ様に精霊が…」


  フィガロがいくら召喚をしようとも、精霊がその呼び掛けに答えることは無かったのだ。


  「…フィガロ…。」


  父は全身の血が抜かれた様に青ざめ、膝から崩れ落ちた。それはフィガロを哀れに思う故である。


  「…お父さん。僕は…」

 

  「心配するな!フィガロ!父さんが絶対にお前を見捨てることは無い!母さんの分まで俺がお前を守るからな!」


  父は翌日から俺に稽古をつけた。精霊使いにはなれなくても、剣士なら、魔法使いなら…と、俺に適正のある職業を探すためである。


  「遅いぞフィガロ。だが、段々動きが良くなってるぞ!」


  「本当!お父さん!」


  「あぁ!流石精霊王の息子だ!」


  「…うん。」


  「す、すまねぇ。」


  「いや、いいんだ…。俺に精霊使いの才能が無いのがいけないんだ。お父さんは精霊王だし、死んだお母さんだって立派な精霊使いだったのに…。」

 

  「フィガロ。気にするな。お前が何を目指そうと、何になろうと、俺はそれを尊重するし誇りに思う。自分になりたいようになれ!」


  「…ありがとう。お父さん!…でも俺は…。ううん!なんでもない!続きをしよ!」


  お父さん。

  お父さんは「俺が父さんのような精霊王になるんだ!」って小さい頃から言っているのは父さんのせいだと思っているでしょ?でもね…本当は俺…本当に…精霊王になりたかったんだ…。


  夜、尿意に目が覚めた。

  1階に下りた時、父の悲痛な本音が聞こえてきた。


  「…フィガロには何の適正もない…。何故!何故だ!あの子があまりに不憫ではないかッ!」


  心の奥底に大きな暗闇が広がり、次第にそれは俺を呑み込んだ。


  「…ごめん。父さん。俺のせいで父さんが苦しむなんて…。」


  それから5年間俺は父と稽古をしていた。身長は父と同じまで伸び、毎日の鍛錬により筋肉も付いていた。時折、父の元仲間だったという騎士と賢者と修行をしては彼らの技術を伝授してもらっていた。


  「お前も1人前になったな。…昔はお前には何が適正なのかと悩んだものだが…今では、どれを選ぶのだろうかと悩むほどだ。」


  父は嬉しそうに鼻を鳴らした。


  「父さん。俺は魔剣士になるよ。」


  「そうか。」


  父はどこか悲しそうな嬉しそうな複雑な表情をして答えた。


  その夜悲劇が起きた。


  魔物の軍勢が俺の住む町に襲いかかってきた。

  気付いた時には辺りは火の海となり血肉の焦げた臭いが充満していた。人々の悲鳴と魔物達の鳴き声が共鳴し不吉なハーモニーを繰り広げている。


  「フィガロ…。お前は地下室に鍵をかけ身を隠していなさい。」


  「父さんは!?」


  「…恐らく奴らの狙いは俺だ。」


  「なんでよ!父さん何かしたのかよ!」


  「精霊王だからだ。」


  「お前だけはこの身に代えても守る。安心しろ。明日になればまた明るい日々が待っている。」


  「やだよ…。父さん!父さん!」


  地下室に閉じ込められ、遠ざかる父の足音が消えるまで俺は叫び続けた。


 ーー昨夜の悲劇とは打って変わって、小鳥たちのか弱い鳴き声と木々の間を通り抜ける風音が聞こえる。まるで昨日のことは全て幻であったかのように。


  しかし地下室を出て現実を突きつけられた。

  家の前では父が見るに堪えない無惨な姿で息絶えていた。


  「…嘘だろ。なぁ!目ぇ覚ましてよ!父さん!」


  (フィ…ガロ)


  「ッ!!?」


  (お前を置いて死んでいくこんな父をどうか許して欲しい。)


  霊となった父が語りかける。


  「父さん!……俺、やっぱり…精霊使いになるよ!」


  (そうか。お前は俺の自慢の息子だ。きっと精霊王になれるさ。…じゃあな、愛してるぞ。…フィ…ガロ…。)


  光の粒子となり空に吸い込まれるように消えていった父に誓った。


 ーー精霊王になる。と。ーー

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