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どうしてそんなことを?

 アイという子供の事が気になりすぎて、ネメアは集中して魔法の練習ができなくなってしまった。自主勉強を続けるのは諦めてムパリの家に戻り、クレタとムパリをリビングに呼んで、アイからの伝言を伝えた。


 彼女達は最初、通りすがりの変わった子供に言われた冗談だと思って苦笑していたが、「アイちゃん」という名前を出した途端、顔色が一気に変わった。クレタが珍しく眉を下げている。


「アイちゃんがわざわざ警告してくるなんて、相当厄介な魔物なんでしょうね、そのお化けクジラって奴」


 ムパリは彼女の懸念に同調した。


「きっとそうだよね。しかもお化けクジラなんて魔物、聞いたことがないよ。新しく産み出された魔物ってことかな?」


「相手の弱点や、どんな攻撃をしてくるのか分からない状態で戦うのは、骨が折れるわね」


 二人の話を聞いていたネメアの頭の中は、不安と疑問が渦を巻いた。熟練の冒険者であるクレタさんやムパリさんですら知らない魔物とは、いったいどういう事だろう? 会話の中に気になる言葉が出てきたので、彼はすかさず訊いてみた。


「あの、新しく産み出された魔物って、どういう事ですか?」


 彼の質問にクレタが答えた。


「これを聞いたらショックを受けるかもしれないけど、実は魔物は、精霊達によって産み出されたものなの」


「えっ!? どうしてそんなことをするんですか!?」


 衝撃の事実を知ってしまい、ネメアは頭が真っ白になった。今まで出会ってきた巨木の精霊や火口湖の精霊は、好戦的ではあるが人間に害を成すような者には見えなかったのに。


 呆然としている彼に、ムパリは優しく声をかけて宥めた。


「落ち着いてネメアさん。精霊達が魔物を産み出したのには、きちんと理由があるんだよ」


「理由? 精霊達には、人間を虐殺するような生き物を産み出して良い理由があるんですか?」


 困惑の次は、怒りの感情がネメアの中に湧いてきた。彼は辛い過去の出来事を思い出して、歯を食い縛る。彼の様子を見て、クレタは同情するように静かに頷いた。


「やっぱり、そう思ってしまうわよね。私もこの事を最初に知った時、腸が煮えくり返りそうだった。でも、最後まで話を聞いて。精霊は世界の調和を保つために生まれてきた存在だから、人間の見方ばかりするわけにはいかないの。


 人間は、生き残るのに必死な自然界の生き物と比べて、賢く、強く、そして強欲だから、新たな土地や過剰に豊かな生活を求めて、自然を破壊しつくし、戦争を起こしてしまう。それを抑制するために、精霊は魔物を産み出したり、災害を起こしたりするの」


「そんな! 全ての人間が悪だとでもいうんですか!?」


「いいえ、全ての人間が悪という訳ではないわ。だけど知性がある限り、悪になる可能性はある」


「でも…………」


 ネメアは言葉を詰まらせた。俯き、唇を舐めて、何とか反論を捻り出そうとする。だが、ここでクレタに反論できたところで、精霊達に魔物を産み出すことをやめさせられる訳ではない。悔しさを募らせつつ、冷静さを取り戻すよう自分に言い聞かせた。


 今自分に出来ることは、魔物を産み出すなと精霊に説得することではなく、2日後にやってくるお化けクジラを討伐して、アンドロメダ島の人々を守ることだ。


 長い息を吐いて気持ちを落ち着かせると、ネメアはクレタとムパリに決意を語った。


「俺、お化けクジラが襲来するまでに、たくさん特訓を積んで強くなります。一人でも多くの人を守りたいです」


 残酷な真実を知ってうちひしがれていた彼が、すぐに立て直して決意を固めた様に、クレタとムパリは感心した。


 その後、ネメアは熱心に特訓に打ち込み、クレタとムパリも誠意を込めて指導を行った。そして、パトスにもお化けクジラの話が伝えられ、彼は工房に籠って何かを造り始めた。それが完成したのは、ちょうど2日後のことだった。

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