驚かさないでください!
それから、クレタとムパリは積もる話に花を咲かせた。クレタは、ネメアと過ごした日々の事を語り、ムパリはパトスとの幸せな結婚生活について語った。二人の男達は、自分の事を楽し気に話す彼女達の様子に、終始無言で照れるしかなかった。
二時間後。皿の上に乗っていたクッキーと、全員分のティーカップが空になり、ムパリが話を切り上げた。
「さて、そろそろクレタ達に泊まってもらう部屋を案内しようかな。付いてきて」
席から立ち上がり、彼女はネメアとクレタを客室へ連れていった。部屋の中はとても広く、左右の壁に沿って十台ものベッドが並べられている。それぞれのベッドの横にはサイドテーブルが置かれていた。
「この部屋は普段、パトスの鍛冶の技術を学びに来た職人さんが泊ってるんだけど、今のところそういう人が来る予定はないし、二人で広々使っていいよ。好きなベッドを選んで」
「わぁすごい! どこにしようかな~」
ネメアはさっそく、どこのベッドを使おうか選定し、右の壁のど真ん中にあるベッドに腰を下ろした。
「じゃあ俺、ここにします。真ん中って特別な感じがするんですよね、えへへ」
「ネメアちゃんがそこにするなら、私は向かい側の真ん中のベッドにしようかしら」
便乗して、クレタは左の壁のど真ん中にあるベッドに腰を下ろした。二人の様子に、ムパリはクフクフと笑った。
「フフフ、二人とも大胆だね。船の護衛の依頼で疲れてるだろうし、ゆっくり休んでて。あたしは夕飯の支度をするから」
手を振って、ムパリは客室から出ていった。彼女の厚意に甘えて、二人は靴を脱ぐとベッドに横たわった。ネメアはすぐに目を閉じて眠ってしまったが、クレタはヘスの事が気にかかり、もやもやして眠気がやってこなかった。
以前、彼にファイヤースネークの脱皮した皮を持ってきてほしいと頼まれた時、それを薬屋に売るのかと聞いたところ、何かを隠すように口ごもった。ファイヤースネークの脱皮した皮は秘薬の材料になると言っていたが、そんな話は一度も聞いたことがない。
あの時は単にお金目当てだろうと思っていたが、それ以上の目的があるように思えてきた。アンドロメダ島からいつもの冒険者ギルドがある町に戻ったら、何を目論んでいるのか、彼を問い詰める必要がある。彼女は深い溜息を吐いた。
ネメアが目を覚ますと、客室は真っ暗になっていた。空が夕闇に飲まれたようだ。近くに人気を感じて横を向くと、大きな黒い塊がもぞりと動いた。
「おはようネメアちゃん、夕食の準備が整ったそうよ」
「ギャー!!」
自分の目と鼻の先にクレタの顔があり、驚いた彼は思わずベッドから飛び上がった。全身に鳥肌が立ってしまう。
「心臓に悪いですよクレタさん!! 何もそんなに近くで話しかけなくてもいいじゃないですか!!」
「ウフフ、ごめんなさいね。つい驚かせたくなっちゃって」
「もう! クレタさんってば本当に俺のことからかうのが好きですよね」
口をへの字に曲げながら、彼は靴を履いてベッドから退いた。彼女と共に客室を出ると、廊下に空腹を誘う良い香りが漂っていた。
「うわぁ、美味しそうな匂いがします」
「ムパリの手料理は絶品よ。さ、冷めないうちにリビングへ行きましょ」
彼女の言葉を聞いて、どんな料理が並べられているのだろうかとワクワクしながら、彼はリビングに入っていった。




