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旦那さんは無口です

 挨拶が済むと、ネメアとクレタはムパリに家の中へ招かれた。玄関に入ると、石畳の廊下が左右に伸びていて、右側が工房、左側がリビングになっていた。ムパリが、右側の工房に向かって呼びかけた。


「あなた~お客さんが来たわよ~」


 彼女の声が廊下中に響き渡る。すると、ネメア達の死角になっていた場所から、作業着を着た男が現れた。その男は、左目の瞼が赤く腫れて垂れ下がり、鼻の位置は低く、腰は折れ曲がっていて、お世辞にも整った見た目をしているとは言えなかった。むしろ、少し目を反らしてしまいたくなるような醜さだ。彼が横に並び立つと、ムパリは口を開いた。


「ネメアさんに紹介するね。この人はパトス・ケイロン。あたしの旦那さんよ」


 目元をほんのり赤くして、ムパリはパトスの腕にギュッと抱きついた。ネメアは彼女の発言に驚愕した。申し訳ないが、こんな見た目の男がこんな可愛い女の人と結婚できるなんて到底信じられない。彼は口をぽかんと開けて静止しそうになった。だが、挨拶しないのは失礼だと思い、頭を下げた。


「こんにちは。クレタさんの弟子の、ネメア・レオです」


 ネメアが挨拶すると、パトスはこくりと頭を下げた。それだけだった。パトスが何も話さなかったため、その場は水を打ったように静まり返る。ネメアはなんて不愛想な人なんだろうと呆気にとられた。そんな彼の気持ちを察して、ムパリが苦笑しながら弁明した。


「パトスは無口なの。だけど、言葉に出ないだけでとっても優しいのよ。それに、鍛冶の腕前が一流なの」


 ムパリの言葉にクレタが続いた。


「私達が冒険者パーティーを組んでいた頃は、パトスさんに武器や防具を造ってもらっていたのよ。丈夫なのに軽くて、世界一優れていたわ。しかも、私達は皆のために命を懸けて戦ってくれているんだから、お代はいらないってタダでくれたの」


 美人な女性二人に擁護されてまんざらでもないのか、パトスは宙を見上げてポリポリと頭をかいた。ネメアは出会ったばかりで彼の人柄をよく知らないので、「へーそうなんですね」と軽い返事を返すに留めた。


「ずっと玄関で立ち話するのもなんだし、リビングへ行きましょ」


 ムパリが話を切り替え、ネメアとクレタをリビングに通した。リビングの壁の至る所に、立派な剣や斧などの武器が飾られている。柄の装飾は貴族のドレスのように美しく、突然動き出して切り裂かれてしまいそうなほど、刃が鋭く光っている。ネメアは一目見ただけで、飾られている武器が非常に上等な物だと気が付いた。


「わぁぁ、壁の武器、めちゃくちゃ凄いですね。これで戦ったら、どんな魔物も一撃で倒せそう」


 感嘆の声を漏らしたネメアに、ムパリは満面の笑みを浮かべた。


「そうでしょそうでしょ! これ全部パトスが造ったのよ。椅子に座ってじっくり眺めてて。私、お茶とお菓子を持ってくるから」


 大きな木製のテーブルの周りに並べられた椅子二脚を引いて、ネメアとクレタに座るよう促すと、ムパリは廊下に出ていった。二人は勧められた席に着き、パトスはその向かい側にある椅子に腰かけた。


 ネメアは武器の鑑賞を始め、クレタはパトスに話しかけた。


「久しぶりねパトスさん。ムパリが戻ってきたら、この島に来た事情を話そうと思うのだけど、その前に私の個人的なお願いを聞いてもらえないかしら」


 クレタは右耳につけた真珠のピアスを握りしめ、アイテムボックスを自分の横に召喚した。そこから、セイレーンを撃退するために、底を引っ搔いて駄目にしてしまった鍋を取り出した。


「これを直してほしいの」


 鍋を机の上に置くと、パトスはそれを手に取って傷の具合を確かめた。彼は首を縦に振り、彼女の鍋を直すことを承諾してくれた。


「ありがとうパトスさん」


 お礼を聞くと僅かに目を細め、パトスは自分の足元に鍋を置いた。クレタがアイテムボックスを真珠のピアスに封印した時、お盆を持ったムパリが戻ってきた。お盆には人数分のティーカップとクッキーが入った器が乗せられている。ティーカップを配り、クッキーが入った器を真ん中に置くと、彼女はパトスの隣の席に座った。

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