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お姉さんの回復魔法は特別です

 決着が着いたと思ったのに、まだ戦わなくてはならないのか。もう限界だ、これ以上は動けない。


 小さく口を開き、ネメアは「降参」の一言を発しようとした。そんな彼をよそに、巨木の精霊は胸のまえで手の平を合わせ、木の根が複雑に絡みあってつくられた、棍棒を産み出した。


 精霊は両手で棍棒の先端を握りしめ、肩に担ぐ。そしてネメアに近づくと、彼の頭上で大きく振りかぶった。


 棍棒が、頭に軽く触れる。間一髪、ネメアはしゃがんで攻撃を避けたが、疲労を溜め込んだ足は体重を支えきれず、ぐらりと横向きに倒れてしまう。誰が見ても、これ以上彼が戦えないことは明らかだ。


 しかし無情にも、精霊はまた棍棒を構え、今度はネメアの踵に振り下ろそうとした。その時、誰かが上空から降ってきて、彼と精霊の間にドシンと着地した。クレタが助走をつけて飛び上がり、ここまでやってきたのだ。


「待ちなさい、この子はもうボロボロよ。貴方達精霊はいくらでも生き返れるでしょうけど、私達人間は無理なのよ。回復するまで、少し待ってくれないかしら」


「むぅ、仕方がないの」


 やる気満々だった精霊は、不服そうにしながらも棍棒を下ろした。クレタはネメアの方を向き、彼に馬乗りになる。


「よく頑張ったじゃない。巨木の精霊の、仮の姿を倒すなんて」


 クレタはネメアをギュッと抱きしめた。彼女の豊満な胸が、彼の腕に押し付けられる。彼は、心臓の鼓動が高鳴っていくのを感じた。


「く、クレタさん!?」


「大丈夫、変なことをするんじゃないわ。回復魔法をかけてあげるの」


 ネメアの耳元で、クレタは呪文を唱えた。背中がゾクゾクして、普通の回復魔法より効果があるように思える。疲れが一気に洗い流され、体が元気になった。


「クレタさん、ありがとうございます」


「どういたしまして」


 クレタはネメアから離れ、そのまま戦いの場から遠ざかった。ネメアは短剣を握りしめながら立ち上がり、巨木の精霊と向かい合う。


「かかってこい、小僧」


 精霊は棍棒を担いだ。ネメアは背中を丸めながら前に一歩踏み込み、短剣を振り上げる。精霊は棍棒を顔の前に出して攻撃を防いだ。剣の切っ先が、棍棒に軽く刺さる。


 たちまち、棍棒に火がついた。しかし、精霊がそれを素早く横に振ったため、小さな火種は消えてしまう。攻撃をかき消した精霊に対して、ネメアは一歩下がって距離を取った。


 普通に攻めても、棍棒で受け止められてしまう。何か、機転を利かせなければいけない。


 どう仕掛けるべきか悩んでいると、先に精霊の攻撃が飛んできた。先ほどまでとは違い、縦方向からではなく横方向から棍棒が飛んでくる。避けきれず、ネメアは腹に重い一撃を受けた。


 痛みと衝撃でよろめき、倒れそうになってしまう。ネメアは顔をしかめながら腰を落とし、体制を崩さないよう堪えた。骨は折れていなかったので、一安心する。


 また、横方向の攻撃が来た。今度は後ろに飛び下がってそれを避ける。その時、ネメアは良い作戦を思い付いた。右手だけで短剣の柄をもち、左手を空いた状態にして、精霊に立ち向かっていく。


 ネメアが近づくと、精霊は棍棒を縦に構えて振り下ろした。それを、彼は左手で受け止める。ボキッと音を立てて、指の骨が折れてしまった。それと同時に、棍棒が軽く火を上げた。精霊に迫りながら、彼は頭の中でも呪文を唱えていたのだ。


 歯を食い縛り、骨が折れた痛みを我慢しながら、ネメアは右手のナイフで棍棒を切り裂く。大きく傷をつけることができ、高く大きな火を吹いた。使い物にならなくなったそれを、精霊は地面に投げ捨てる。


 その隙に、ネメアはナイフを両手で握りしめ、精霊の左胸に突きつけた。

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