ハグされました
先週はリアルが忙しかったため投稿できませんでした。楽しみにしていた方はごめんなさい。
一日の内で最も気温が高くなる時間帯になり、サンサンと陽が照りだした。海の地平線から黄金色の光が、地上に向かって伸びている。
報酬を受け取って冒険者ギルドから出た後、クレタがネメアに話しかけた。
「これから私の元仲間の家まで行くわよ。あの子が住んでる所までちょっと遠いけど、徒歩で行きましょう」
「分かりました。どのくらいかかりますか?」
「走れば30分くらいかしら。私が先頭を走るから、後を付いてきて」
「えぇ!? 走るんですか?」
「これも修行の一環よ」
そう言って、クレタはネメアから背を向けると、さっそく走り出してしまった。ネメアは慌てて彼女を追いかける。
彼女はとても足が速いため、すぐに5メートルも差が開いてしまった。だが、彼は置いていかれないよう必死で走ったため、それ以上差が開くこともなかった。彼女の背中を追いながら、自分も随分速く走れるようになったなぁと、自己肯定感が上がった。
しばらく走り続けて、息も絶え絶えになってきた頃。木造の平屋の家が建ち並ぶ住宅街に出た。開け放たれた窓や戸から、熱風が吹き付けている。前を走っていたクレタはそこで足を止め、後ろを振り返った。
「着いたわよ。ここに私の元仲間が暮らしているの」
「ゼェハァ、ゼェ、ゼェ……良かった、付いてこれた……ふぅー」
ネメアは膝に手をつき、深く息を吐いた。心臓がバクバクと脈打ち、血液が激しい川の流れのように、全身を循環している。
彼が息を整えると、今度は歩いてクレタの元仲間の家を目指した。ここら一帯は、金属製品を造る鍛冶屋の家が多いようで、高くて子気味の良い金属を叩く音が次々と聞こえてくる。街の奥に進むにつれ、その音はどんどん大きくなっていった。
やがて住宅街の最奥までやってくると、周りの家屋と比べて一際大きな平屋が現れた。クレタはその家の扉を10回ノックした。ノックの回数が多いように感じて、ネメアは彼女に問いかけた。
「どうしてそんなに扉を叩いたんですか? 二、三回ノックすれば、気づいてもらえるんじゃないですか?」
「私が訪ねた時専用のノックなの」
彼女が疑問に答えた直後、家の中からバタバタと廊下を走る音が聞こえてきて、ガラッと扉が開かれた。
「クレタ!!」
オレンジ色の髪を低い位置でお団子結びにし、鮮やかな黄色のエプロンを着た女性が、クレタに抱きついた。クレタは大きく目を見開いたが、その後クスッと笑ってハグを返した。
「久しぶりね、ムパリ」
「もー! 久しぶりすぎだよ! あたし、ずっとずっとクレタに会いたかったんだから!」
「ウフフ、ごめんなさいね」
抱擁をやめ、ムパリはクレタに尋ねた。
「わざわざこんな離島まで来てくれたってことは、何か事情があるんだよね?」
「そうよ。詳しいことは後で話そうと思うんだけど、まずはこの子を紹介させて。私の弟子よ」
クレタは自分の一歩後ろにいたネメアの背中を押した。彼はペコリと頭を下げて自己紹介した。
「ネメア・レオです。クレタさんにはとてもお世話になっています」
「クレタのお弟子さん!? ネメアさんっていうのね。あたしはムパリ・ケイロン。よろしくね」
ムパリはネメアに向かってニッコリと笑うと、彼をギュッと抱き締めた。砂糖菓子のような甘い香りが、フワリと鼻をくすぐる。彼の顔はリンゴのように真っ赤に染まった。この人はクレタさん以上にパーソナルスペースが狭いのかもしれないと彼は思った。




