朝から大変です
騒動が解決した後。火の玉で服を乾かし終えたネメアは、クレタの気遣いで夜の見張りを交代してもらい、自分の部屋へ戻って眠りについた。体が濡れて体温を奪われ、体力が削られていたため、布団に入ると自然と瞼が閉じた。
そのまま五時間が過ぎただろうか。突如として船がぐらりと揺れ、内臓が浮き上がるような感覚に、彼は目を覚ました。何事だろうかと思って、慌ててベッドから飛び起きると、部屋の扉がバァンッと開かれて、クレタが入ってきた。
「クラーケンが現れたわ! 起きたばっかりのところ悪いけど、戦うわよ!」
「えぇっ、クラーケンが!?」
心臓がドキリと跳ね、ネメアはすかさずズボンのポケットから如意棒を取り出した。クレタと共に走って客室を出ると、アール号の前方を、体長13メートルほどの巨大な蛸の魔物、クラーケンが阻んでいた。
甲板にはすでに、四人の船員と船長のルーゴが集まっている。皆、弓矢を手にしていた。二人が駆けつけたのに気が付くと、ルーゴは振り向いた。
「ネメアくんも来てくれたか! お二人さん、オイラ達でクラーケンの気を引くから、その隙に攻撃してくれ」
「分かりました。ネメアちゃん、皆の周りに盾を召喚してあげて。それが終わったら、クラーケンを攻撃しに行ってちょうだい」
ルーゴの話を聞いて素早く指示を伝えると、クレタは甲板を駆け抜けて飛び上がり、クラーケンの頭上へ着地した。彼女が飛び乗ってきたことに驚いて、そいつは8本の足をくねらせる。すると、大きな波が発生して、船がぐらりと揺れた。
「うわぁぁ!」と甲板に残された者達は悲鳴をあげ、バランスを崩してその場に倒れる。横向きに倒れたネメアは、これは大変な戦いになるぞと悟った。クラーケンがこちらを攻撃してくる前に、早く盾を召喚しなければならない。
彼は体を起こして、船員達に向かって手を伸ばし、呪文を唱え始めた。船員達も起き上がって、弓を構えた。
「射てー!!」
ルーゴが号令を上げ、一斉に弓が放たれた。5本の矢は見事にクラーケンへ当たったが、そいつは全く動じること無く、かすり傷程度しか付かなかった。体が大きすぎて、並大抵の攻撃ではダメージが入らないのだ。
それでも気を引くことはできて、そいつの黄色い目が船員達の方へ向いた。黒い横長の瞳孔がギラリと光る。
注意が逸れた隙に、クレタが両手を重ね合わせて、クラーケンの頭に拳を叩きつけた。ズシンと思い衝撃を与えられたそいつは、バタバタと暴れだす。クレタは頭上から飛び降りると、ビチビチうねる触手をピョンピョン飛び移り、甲板へ戻った。
船はまたまた激しく揺れ動いていたが、ネメアと船員達は這いつくばって耐えた。そして、暴れていたクラーケンが鎮まった時、ネメアが呪文を唱え終わったため、四人の船員とルーゴの四方に、盾が召喚された。
一つ目の役目を終えた彼は、船頭に向かって走りながら、「高く伸びろ、如意棒!」と叫び、如意棒を5メートルの長さまで伸ばした。それを床に突いて高く飛び上がると、空中で体をひねって位置を調整し、クラーケンの脚にしがみついた。




