俺が冒険者になった理由は……
ネメアは耳栓を外し、駆け付けたクレタに感謝を伝えた。
「クレタさん、来てくれたんですね! ありがとうございます!」
「間に合って良かったわ。ネメアちゃん、怪我はない?」
「俺は平気です。でも、この子達は……」
心配そうに顔を歪め、彼は寝ている双子を見やった。回復魔法をかけたので、元気になっているはずなのに、ぐったりと目を閉じたまま起きないのである。
クレタは膝を床に着けて、彼女達の顔に耳を近づけた。気管に水が入ってしまっているのかと思ったが、すぅすぅと、微かに空気が抜けていく音が聞こえる。ただ眠っているだけのようだ。
「大丈夫、この子達は寝ているだけよ。セイレーンの歌声には、催眠効果もあるから」
「はぁ、良かったぁ……」
ネメアはホッと胸を撫で下ろした。一方、クレタは険しい表情を浮かべた。
「ねえネメアちゃん、どうしてこの子達がここにいるのかしら? 私、昼間にこの子達からセイレーンを見せてほしいと言われて断ったのだけれど、ネメアちゃんの元にも来てたわよね」
疑いの目を向けられて、彼はギョッとした。
「もちろん、俺も断りましたよ!」
「あら、疑ってごめんなさいね。それなら、起きたらこの子達を、たっぷりお説教しないと」
怒りを滲ませながらそう言うと。クレタは立ち上がった。
「ネメアちゃん、濡れたままの服を着ていたら風邪をひくわよ」
彼女はネメアに近づき、上着をバサッと脱がせた。いきなり服を脱がされたネメアは、耳まで顔を紅潮させる。
「ちょちょちょ、クレタさん!?」
「私が火の玉を出して上げるから、座ってそれにあたってて」
呪文を唱え、彼女は自分の膝下にサッカーボールほどの大きさの火の玉を召喚した。彼は恥ずかしそうに俯いて、胸を両手で隠しながら、その近くに腰を下ろした。その様子を見てクスッと笑うと、彼女は真珠のピアスを握りしめてアイテムボックスを召喚し、外套を取り出した。
「ほら、これを貸してあげるわ。あの子達も、火の玉の近くに寄せてあげしょう」
「はい、分かりました」
外套を受け取り、彼はそれを上半身に巻き付けた。それから、二人で一人ずつ双子を火の玉に寄せた。
彼女達が起きるまでしばらく時間がかかりそうなので、クレタはネメアにとある質問をすることにした。彼女は彼に会った時から、聞いておきたいことがあったのだ。
「ねえネメアちゃん、貴方はどうして冒険者になったの?」
ネメアと向い合わせで座り、彼女は尋ねた。不意の問いかけに彼は目を見開いたが、ポツリポツリと答え始めた。
「俺の姉さんは、伝説のSランクパーティーのリーダー、オリーブ・ヘリクルスだという話は、しましたよね。でも、オリーブ姉さんは、最強の魔物『テュポン』を倒したのを最後に、姿を消してしまいました…………
俺は、いなくなった姉さんを探すために、冒険者になったんです。噂では、何かの魔物にやられて、死んでしまったと言われていますが、俺は、今もどこかで生きていると、信じています」
一つ一つの言葉を噛み締めるように、彼は答えた。火の玉に照らされている彼の目には、深い悲しみがこもっていた。話を聞いた彼女もまた、悲しくなって眉を下げた。
「きっと会えるわ、ネメアちゃん」
励ましの言葉を送り、彼女は微笑んだ。そして彼に聞こえないよう、ボソリと呟いた。
「貴方が、もっともっと強くなったらね」




