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危ないよ

 セイレーンは魔物であるが、その見た目の美しさから、一目見てみたいと思う者は多い。海の中を泳ぐ姿は、怪しさの中に可憐さがあって、とても魅惑的なのだ。


 しかし、近づけば海の底へ引きずり込まれてしまう可能性がある。知能も高く、中には武器や魔法を使って戦ってくる奴もいるため、まともにやり合わない方が良い。


 双子がキラキラと期待した目でこちらを見上げてくるので、頼みを断るのは少々心苦しかったが、彼女達の身の安全を守るため、ネメアはきっぱりと断ることにした。


「ごめんね、もしセイレーンが現れたとしても、見せてあげることはできないんだ。セイレーンは見た目は綺麗かもしれないけど、人を海に引きずり込んで食べちゃう、とっても怖い魔物なんだよ」


「「えー!!」」


 ネメアが断ると、双子は声を揃えてうなだれた。


「嫌だ嫌だ! 絶対セイレーン見たいもん!」


「歌声を聞かなきゃ平気でしょ? 耳を塞いでるから見せてよ!」


「駄目だよ。俺が冒険者だからと言って、君達を絶対に守ってあげられる訳じゃないんだ。ほら、お母さんの元へ行きな。子供達だけで行動するのは危ないよ」


 諦めず迫ってきた双子を、彼は宥めた。彼女達は同時に肩を落とすと、とぼとぼ母親の元へ向かった。だがその最中、二人は周りの人に聞こえない小さな声で、こそこそ話をした。


「お兄さんにも断られちゃったね。この船に乗るのは五回目だけど、護衛の人達って、いつもセイレーンを見せてくれないね」


「きっと、セイレーンがあんまりにも綺麗だから、その事を他の人に知られたくないんだよ。護衛の人達ってズルイ!」


「じゃあさ、護衛の人達がいない間に、こっそり岩場を見に行ってみようよ」


 片方の女の子が提案した。もう片方の女の子は首を傾げる。


「それってどういうこと?」


「夜は護衛の人達が、代わり番こで寝にいくの。客室の扉は閉まってるけど、交代する時だけ扉が開く。その隙に甲板へ出れば良いと思うの。今回は護衛の人が二人しかいないから、気づかれないはずだよ」


「なるほど!」


 秘密の作戦を立て、二人はクスクスと笑った。夜がくるのが待ち遠しくなった。


 そして、日が落ちて月が登り、夜が訪れた。皆、静かに寝静まっている中、双子は母親と一緒に寝ているベッドからするりと抜け出して、客室の扉の影に隠れた。廊下は真っ暗でほとんど何も見えず、体が小さな彼女達に気づくことは難しいだろう。


 ネメアが部屋から出てきた。甲板にいるクレタと見張りを交代するのだ。彼が扉を開けた瞬間、双子は音もなく外へと飛び出して、彼に見つからないようサッと物陰に身を潜めた。見事に作戦が成功し、双子は顔を見合わせてにっこりと笑った。


 外は月の光に照らされているが、それでも深い闇に包まれていて、セイレーンの姿をはっきりと見ることはできないだろう。双子は魔法を使えるため、頭の中でも呪文を唱え、小さな光の球を産み出した。少しだけ視界が明るくなった。


 決して音を立てぬよう、摺り足で船の縁まで歩き、手すりを掴んで上によじ登る。周りは広い岩場で囲まれていた。セイレーンが人間を誘惑するには、うってつけの場所だ。


 しばらく待っていると、ポチャンと音がして、翡翠色に煌めく鱗が見えた。双子はハッと息を呑む。


 ちょうど二人の目の前にある岩場に、サファイアのように美しい青色の髪を持った、この世の者とは思えないほど美しいセイレーンが乗り上げた。

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