舐めたら痛い目見ますよ
肺が苦しい、体があちこち痛い。ネメアは目尻に涙が浮かんだ。拘束から逃れられたとはいえ、もうボロボロの状態である。燃え盛る木の根の束から、足を引きずって離れると、回復魔法の呪文を唱えた。
焼きただれた皮膚が、たちまち元通りになった。その代わりに、猛烈な疲労感に襲われ、ネメアは地面に膝をつく。頭がくらくらしてきた。回復魔法を使うとき、大きな怪我を治すと、たくさん体力を消耗してしまうのだ。
巨木の精霊は、ネメアが脱出できた事に唖然としていたが、その後の彼の様子を見て、余裕の笑みを浮かべた。
「小僧、降参した方がいいんじゃないか?」
自分を馬鹿にする声で、ネメアは少しだけ意識を取り戻した。左手で頬を二回叩くと、右手の中にある短剣の柄を強く握りしめ、立ち上がる。
「誰がそんなことするもんか!!」
姿勢を低くして剣を構えると、ネメアは精霊の方に向かって走り出した。また地面から根が飛び出してくる。しかも、先程よりスピードが早い。彼は、今度はそれをよけず、短剣で切り裂きながら前へ突き進んだ。
すると精霊は、彼の行く手だけでなく、通りすぎた後からも根を生やし始めた。素早く呪文を唱え、完全に前しか見ていないネメアを襲わせる。
しかしネメアは、後から来た根を横に避け、素早く後ろを振り返って切り裂いた。根は切断面からボウッと音を立てて燃える。精霊は、彼が奇襲に対応できた事に驚き、思わず攻撃の手を緩めた。
その隙に、ネメアは精霊との距離を一気に詰め、とうとう右腕を切り裂いた。傷口が火を吹いて、精霊は悲鳴を上げる。
「ギャアアア!!」
そのまま火だるま状態になり、精霊は地面を転がった。ネメアは、さすがに焼死させるのは不味いと思い、呪文を唱えて水を出し、消火してやった。
すると、精霊の背中から生えている四本の太い木の根のようなものが、ぱっくりと二つに裂けて、葉のような筋のある、透けた緑色の羽が新たに生えてきた。それと共に、黒く焼けた精霊の体が、強く輝きだした。
ネメアはあまりの眩しさに、ギュッと目を閉じて、腕を瞼の上に当てる。
十秒ぐらいして光が治まり、目を開けてみると、巨木の精霊が別人になっていた。白い肌に若緑色の髪、金色の瞳を持つ美少女が、ゆっくりと体を起こす。そして、背中から生えた四枚の羽を広げて、羽ばたきながら爪先を宙に浮かせた。
「なかなかやるな、小僧。だが、本番はここからじゃ!」
白い歯を見せ、精霊は挑発的な笑みを浮かべた。ネメアは体をぶるりと震わせ、強い絶望感を抱いた。




