美味しかったです
船員達と喜びを分かち合った後。ネメアとクレタは甲板に散らばるフライフィッシュの死骸を、バケツに入れて回収した。ネメアは、回収した死骸は海に還すのかなぁと思っていたが、テストで帆柱に登っていた船員が、バケツを客室に運んだ。
何に使うのか気になり、後をついていってみると、辿り着いたのはキッチンだった。二人の男のシェフが、せっせと料理を作っている。
ネメアは船員に話しかけた。
「あの、そのフライフィッシュは何に使うんですか?」
彼が付いてきている事に気づいていなかった船員は、後ろを振り向いてビクッと肩を跳ねさせた。
「うおっ! なんだ、付いてきてたのか! 知らないのかネメアくん。フライフィッシュは、名前の通りフライにすると旨いんだよ。だからシェフに、食材として提供したんだ」
今度はネメアが驚く番だった。
「えっ!? フライフィッシュのフライって、そっちの方だったんですか!? 俺はてっきり、空を飛ぶからフライフィッシュなのかと……」
「ハッハッハ! まあ、そっちの意味もあるかもしれないが、わしは揚げ物の方だと教わったな。海の男達の間じゃ、揚げ物にすると旨いからフライフィッシュだと言われてるんだよ」
腹を抱えて笑った後、船員は二人のシェフに話しかけた。
「今夜の晩飯に、フライフィッシュのフライを出してくれ。ネメアくんに是非とも食べさせてやりたいんだ」
二人のシェフの内、若い方がこちらを向いて元気よく「分かりやした!」と答え、黙々と食材を切っている年老いた方は、静かに頷いた。ネメアは、船員と二人のシェフに感謝を伝えた。
すっかり日が暮れて、無数の星が瞬き出した頃、夕食の時間が訪れた。護衛の仕事は一旦休憩となり、ネメアが自分に貸し与えられた部屋で待っていると、食事が運ばれてきた。
白いプレートの上に、パンと、ミートソースのペンネと、クラムチャウダーの入った器と、フライフィッシュのフライが乗っている。フライは、喉から生えていた刃が抜かれた状態で、丸ごと一匹使われているようだ。
彼はさっそく、フライフィッシュのフライを頭からかぶりついた。サクッと音がして、噛み締めると、濃厚な旨味をまとった油が口一杯に広がった。それでいて後味はさっぱりしている。身はホクホクと柔らかい。
なるほど、確かにこれは絶品だ。味付けは塩が振りかけられている程度だが、それがちょうどいい加減で、フライフィッシュそのものの味を邪魔していない。あまりの美味しさに、フライをあっという間に平らげてしまった。
他の料理もとても美味しくて、食べ終わった後、ネメアは自らシェフにプレートを返しに行き、「美味しかったです、ご馳走さまでした!」と伝えた。二人のシェフはニコニコと笑ってくれた。
次の日。ネメアはまた船尾に立って、魔物が出没しないか見張っていた。今は午前10時頃で、甲板には海を見たり世間話をしたりしている人が大勢集まっている。彼も時々話しかけられ、昨日のフライフィッシュの襲撃から乗客を守った事を感謝された。
ピンク色の髪の双子が、二人で仲良く手を繋いで、彼の元にやってきた。お揃いの白いワンピースを着ていて可愛らしい。
「「ねえねえお兄さん、お話があるの」」
「どうしたのかな?」
声を揃えて双子に話しかけられたので、ネメアは背を低くして応答した。
「お母様から聞いたのだけど、ここら辺の海で、セイレーンが出るんだって」
「ここは岩場がいっぱいあるから、人間を誘惑しやすいんだって」
「それでね、お兄さんにお願いしたいことがあるの」
「私達のお願い、聞いてほしいの」
「「私達にセイレーンを見せて」」
二人で代わる代わる話し、一番大切な事は声を揃えて伝えてきた。双子のお願いを聞いたネメアは、口をポカンと開けた。




