さっそく魔物が出ました
もう港が見えなくなるまで船が進んだ頃。甲板で、見送る人々と手を振っていた乗客達は、客室に向かい始めた。ネメアは、ルーゴから渡された乗客リストとその人々を見比べながら、有事の際、優先して助けてほしいと言われた5名の子供と、足が不自由な1名を探した。
両親と手を繋いでいる三つ編みの女の子、キャッキャッとはしゃいで甲板を駆け回り、母親を困らせている茶髪の男の子、12歳ぐらいのメイクをしたおしゃまな少女、顔のよく似た桃色の髪の双子を見つけた。そして、客室に入ろうとせず、船縁に寄って海を眺めている老夫婦がいた。夫の方が、車椅子に乗っている。
優先して助ける人達の確認を済ませたので、今度は海の方を見た。魔物が来ていないか監視するのだ。今船が進んでいる海域には、『セイレーン』や『フライフィッシュ』、『クラーケン』などの魔物が出没する。勉強期間中に読んだ本の知識が、さっそく役に立ちそうだ。
セイレーンは、一見人間のように見えるが、足が魚の尾びれになっている魔物だ。皆、美しい顔をしていて、見とれている内に歌声で洗脳し、海の中に引きずり込む。金属音などの不快な音が弱点。
フライフィッシュは、群れで行動する、小魚の魔物だ。小さいからと言って油断ならず、高い跳躍力を持っており、船上の人間を攻撃してくる。喉の奥に鋭い刃を持っていて、それが刺されば大怪我してしまう。
クラーケンは、8本の足を持つ巨大な蛸の魔物だ。足で絡み付かれたらひとたまりもないが、炎で焼ききれば拘束を解くことができる。また、雷などの電撃が苦手だ。
クラーケンについては、アレス達のパーティーに入っていた頃、戦ったことがあった。討伐できたものの、あの時自分は足を引っ張ってしまった。今回クラーケンと遭遇したら、焦らず対処法を思いだし、乗客を守れるようにしなければと、ネメアは心の中で固く誓った。
しかし、昼過ぎになっても、魔物は一体として現れなかった。やったことと言えば、甲板に出て海を見に来た乗客と、世間話をしたぐらいだ。傾き始めた日をボーッと眺めながら、ネメアは大きなあくびをする。
その時、遠くの船首の方から、自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「ネメアちゃん、今すぐ甲板にいる人達を客室に避難させて! フライフィッシュの群れが見えたわ!」
クレタの呼びかけを聞いて、ネメアは一気に眠気が吹き飛んだ。甲板を見渡し、まずは優先して避難させる人がいないか確認する。
いた! 12歳ぐらいのメイクをした少女だ! ネメアは真っ先にその少女の元へ駆けていき、事情を話して客室に続く扉へと連れていった。だか、クレタの話を聞いて焦った人々が、扉の前に一斉に集まって、鮨詰め状態になっている。混乱を落ち着かせなければならない。
「皆さん落ち着いてください! フライフィッシュは、俺とクレタさんで必ず追い払います。そして、皆さんに危害が及ばないよう、最善を尽くします。だからまずは、一列に並んで、一人ずつ客室に入ってください」
ネメアは、堂々として落ち着いた声で宥めた。すると、慌てて扉に押し寄せていた乗客達は、不安そうな顔をしながらも、列をつくり始めた。その間に、少女を先に客室へ行かせてやった。




