ズルい奴です
ネメアとクレタがファイヤースネーク討伐の依頼を達成し、ギルドのある町へ戻ってから一週間経った。
その間、ネメアは、魔物の生体について書かれた本を3冊買って読み込み、如意棒を使って戦う練習をした。時には、ギルドで魔物と戦う依頼を受けて、実戦練習も行った。クレタから、武術や魔法の稽古をつけてもらう日もあった。彼は、一週間の勉強期間が、とても充実していたように感じた。
8日後の朝、二人は冒険者ギルドの受け付けに並んで、自分達の番が来るのを待っていた。朝の内に依頼を受けに来る冒険者が多いので、混んでいる。順番待ちの時間を使って、ネメアはクレタに質問した。
「ヘスとかいう胡散臭い係員が、俺達のために良い依頼をキープしてるとか言ってましたよね。それ、クレタさんは受けようと思ってますか?」
「うーん、内容によるわね。あまりネメアちゃんの成長に繋がらなさそうな依頼なら断るわ」
「そうですか。ヘスのキープしてる依頼が、俺の成長に繋がらなさそうなものであることを祈ります。あの人は信用ならないので」
眉をへの字に曲げ、ネメアは訝しげな表情をした。その顔が面白くて、クレタはクスッと笑った。
15分ほどで二人の番が回ってきた。そして、受け付けにいたのは、ちょうど話題に上がっていた男、ヘス・クレピスだった。彼は二人を見るなり、目を細めて口の端を上げた。
「お二方、ようこそお越しくださいました! さっそくですが、以前お会いした時に話した依頼の詳細について、お話ししましょう。
俺がキープしている依頼は、鉄鉱石の採掘場がある離島へ向かう連絡船の、魔物からの護衛です。この依頼は通常、メンバーが4人以上いる冒険者パーティーしか受けられませんが、俺が船長にどうにか話を着けて、2人でもオーケーにしてもらいました。
連絡船と言っても、貨物を乗せた大型の船でなく、人を運ぶ小型のものなので、そんなに気を張らなくても大丈夫ですよ。運が良ければ、魔物に遭遇せずに済みます。
そして報酬は、一人につき金貨3枚! 船は10日後に出航するので、ここから港町までの距離を考えて、今日でこの依頼を締めきろうと思っていたんです。今逃せば、しばらくこの依頼の話は持ち込まれませんよ」
ただの受け付け係とは思えない、やり手の商人のようなヘスの語りに、ネメアは呆気にとられた。そして彼に指を指しながら、クレタに苦情を訴えた。
「呆れた! この人、俺達が依頼を受ける前提で船長さんを言いくるめてますよ!
しかも連絡船の護衛の依頼をキープするって、良くないことですよね? 魔物の討伐依頼ならまだしも、連絡船は出航する日が決まってて、依頼を受けるのが遅れたら、迷惑がかかるのに!」
「ほんとにそうね。これはさすがに、私でも擁護できないわ。でも、この依頼を受けるしかないわよね。私達のせいで、護衛の依頼を受ける冒険者がこなくて、船長さんを困らせてしまっているもの」
クレタは珍しく困り顔になりながら答えた。彼女の返答に、ネメアはぐぬぬと歯ぎしりしながらも、納得するしかなかったので頷いた。ヘスはなんてズルい奴なんだ! と、心の中で悪態をつく。
二人が渋々依頼を受けることを決めたのを見て、ヘスは満足げに頷いた。
「ではお二方は、連絡船護衛の依頼を受けてくださりますね。それで、毎度のことで申し訳ないのですが、俺個人のお願いも聞いていただけませんでしょうか? 報酬を2倍にしますから」
「何が欲しいのかしら?」
係員やお店の人には敬語を使うクレタが、それを崩して尋ねた。彼女は少々イラついていた。
「連絡船が向かう鉄鉱石の採掘場がある島では、たまにライフライトという貴重な宝石が取れるんですよ。できれば欲しいというだけなので、持ってきていただかなくても構いません」
「聞いたことの無い石ね。あまり期待しないでちょうだい」
「はい、もちろんです」
ヘスとの取引は今度も成立してしまい、ネメアとクレタは連絡船の護衛をすることが決まった。




