せっかちは身を亡ぼす
アレス達は砂漠の町に到着すると、さっさと居住区から出ていき、直径15センチほどの穴がまばらに空いている地帯に向かった。そこに到着すると、アレスは仲間に指令を出した。
「よし、ファイヤースネークの巣穴に着いたぞ! 俺とセレーネが前衛で戦って、アテネが後ろから魔法で攻撃、キャンサは回復魔法を……」
キャンサに指示を出そうとして、言いよどみ、アレスは首を横に振った。ヒュドラと戦った時の事を思い出したのだ。
「キャンサ、お前の回復魔法って、ほんとに副作用なしで使えないのかよ」
肩をすくめ、キャンサは素っ気なく答えた。
「無理。それは本当に限られた人しかできないことだよ。副作用が嫌なら、回復薬を使えば?」
回復薬は、回復魔法と同じような効果があり、冒険者にとって欠かせない物だ。しかし、それなりに値段が張る。小瓶一本、銀貨40枚だ。その費用の節約になるので、副作用があっても、普通なら回復魔法を使える者はありがたがられる。ただ、アレス達はずっとネメアをパーティーに入れていたので、そのありがたみを知らなかった。
キャンサの言っていることは最もだったが、新参者に正論を言われたのが気に食わず、アテネが彼女に棘のある言葉を向けた。
「貴方、あの使えないネメアより役立たずじゃない! そのくせ、しゃべり方がスカしてていけ好かないわ。新入りなんだから、もっと頭を下げなさいよ」
「ごめんなさい。じゃあ私、今回は魔法で攻撃するね。回復魔法は使わないようにする」
ペコリと頭を下げて、キャンサはアテネから距離を取った。謝ってはいるものの、少しもひるんでいない彼女の様子に、アテネはさらに怒りを募らせ、歯ぎしりをする。
「も~、なんでも良いから早くファイヤースネークと戦いたい!」
キャンサとアテネの間に険悪なムードが流れる中、じれったそうにセレーネがそういった。白いしっぽはぶんぶんと揺れて、耳は水平に伏せている。
「分かった分かった。じゃあキャンサもアテネと一緒で、後ろから魔法で攻撃してくれ」
適当に指示を出し、アレスは鞘から剣を抜いた。セレーネは舌なめずりをして、目星をつけたファイヤースネークの巣穴まで駆け出す。そこを思いきり蹴り上げると、驚いたファイヤースネークが飛び出してきた。
そいつに引っかき攻撃をしようと、セレーネは爪を伸ばして腕を振るった。しかし、そいつは素早く体を捻って地面へ潜り、ジタバタと暴れた。周囲の穴から、次々と仲間のファイヤースネークが顔を出す。本能的にまずいと感じ、セレーネは一度その場から退散した。
「噓でしょ!? なんであいつら、いっぱい出てくるわけ……?」
冷や汗を垂らしながら零したセレーネの言葉に、キャンサが返答した。
「警戒心が高まってるんだと思う。私達が来る前に、別の冒険者パーティーがやってきて、ファイヤースネークを倒したのかも」
「はぁ!? あたし達よりも先に倒した奴!? 負けてらんない、早くファイヤースネークを二体倒さなきゃ!」
10体のファイヤースネークが姿を現した所に向かって、セレーネは無防備に突っ込んでいった。アレスも長剣を構えて、彼女の後に続いていく。アテネは無数の矢を降らせる呪文を唱え始めた。
彼らのハチャメチャな戦闘スタイルに、キャンサは絶句した。ファイヤースネークは賢い魔物であるため、考えなしに戦って勝てる相手ではない。ヒュドラと戦った時も感じたが、せっかちすぎる。とりあえず、硫酸の炎で大火傷を負うのは確定だ。治療するのが大変だろうなと想像して、頭が痛くなってくる。手助けしなければ大惨事になるだろう。しかし、彼らは痛い目を見て頭を冷やすべきだ。
彼女が冒険者をしているのは、次世代の強い冒険者を育てるためである。何でもかんでも助けていたら、彼らの成長につながらない。そう考えて、彼女は彼らをあまり支援しないことを決めた。




