こっちから見下してやります
四つ葉のペンダントを握りしめ、アイテムボックスを召喚し、ネメアはそこから柄に炎の模様が書かれた短剣を取り出した。この短剣は、切り口を発火させる効果を持っている。相手が木から生まれた精霊ということで、炎が効果的ではないのかと考えたのだ。
アイテムボックスをしまい、ネメアは短剣を胸の前で構え、腰を低くした。人間の急所は、体の中心に集中している。敵からどんな攻撃が来てもいいように、急所をすぐに守れる体勢をとるのは、冒険者の基本だ。
足元がボコボコと揺れる。来た! ネメアは右横に逸れて、腕を前に付きだし、巨木の精霊の胸を真っ直ぐに捉えて走り出した。精霊との距離は三メートルほど。すぐに辿り着けるはずだ。
しかし、前へ進むたびに地面がボコボコと動いて、それを避けなければならず、なかなか精霊のもとまで近づけない。ネメアが通りすぎた後からは、太い木の根が三本、勢いよく飛び出していた。あれに当たってしまえば、ろくに装備をつけていないため、あばら骨が折れるだろう。
右へ左へネメアが攻撃を避けている隙に、巨木の精霊は呪文を唱え始めた。すると、彼が避けた木の根がゆらゆらと動きだし、彼の背中を狙って伸び始めた。
「ネメアちゃん、目先の事だけじゃなくて、周囲にも気を配りなさい!」
クレタに呼び掛けられ、ネメアは後ろを振り返る。地面から飛び出した十五本もの根が、いっせいに彼めがけて伸びていき、全身に絡み付いた。顔が塞がれて、うまく呼吸できなくなってしまう。
パニックに陥り、ネメアはバタバタと手足を動かした。しかし、その度に根がきつく締め付けてきて、余計に苦しくなる。まずい、このままだと窒息して死んでしまう!!
恐怖と焦りが募る中、自分を追い出したパーティーのメンバーと、タコのような魔物を討伐しに言った時の事を思い出した。あの時、猫の獣人でバーサーカーの『セレーネ』が、魔物の八本の足に絡めとられ、死にかけた。
その時自分は、助けるために短剣を使って、足を切り落とそうとしたが、固すぎて切れなかった。代わりに、魔女の「アテネ」が炎の魔法を使い、引き剥がした。討伐した後、アテネから凄く高圧的な態度で、触手系の攻撃は炎で焼ききらないと対処できないのだと教えてもらった。「この役立たず」という言葉を添えて。
アテネさんは物知りで、表向きでは何でも親切に教えてくれるお姉さんを装っていた。でも裏では、自分の頭の良さを鼻にかけて、いつも俺を見下していた。あぁ、思い出したらイライラする。
今はまだ、俺よりアテネさんの方が、魔法を上手く使えるかもしれない。彼女は魔力のステータスが75もあった。でもいつか、絶対に越えてみせる。そして、こっちから見下してやる!
ネメアは頭の中で呪文を詠唱し、右手に小さな火の玉をつくった。魔法を使うときは、呪文を声に出した方が威力が強くなるものの、頭の中で唱えても使うことはできる。つくりだした火の玉を木の根に押し当てると、少しだけ拘束が緩んだ。
それから二回同じ呪文を唱え、背中と胸の辺りにも火の玉をつくった。焦がす臭いが鼻につくし、熱くて肌がピリピリしてきたが、それはグッと堪える。徐々に隙間が開いて、呼吸もできるようになった。
ネメアが木の根の拘束から逃れられそうな事に、巨木の精霊は気づいておらず、「フンッ」と鼻で笑ったかと思うと、ニヤニヤしながらクレタに話しかけた。
「お主の弟子も、もう終わりじゃの。何の手応えのない、つまらん奴じゃったわい」
「あら、それはどうかしら」
クレタは目を細める。巨木の精霊は鳥肌が立ち、ネメアを締め付けていた木の根の方に顔を向けた。その瞬間、十五本の根は大きな火柱を上げ、肌を赤く焼きながらも、ネメアが生きた状態で飛びだしてきた。




