俺に時間をください
戻ってきたネメアに、店内で待っていたクレタが声をかけた。
「ネメアちゃん、次に使う武器は如意棒で決まりかしら?」
「はい。扱い慣れるまでに少し時間はかかりそうですが、色んな戦い方ができて使い勝手が良さそうなので、これにします」
「分かったわ。エリュマ、次は私の装備をお願い」
「えぇ、今取ってくるわ」
クレタがエリュマの方に顔を向けると、彼女はこくりと頷いた。そして、ネメアの時と違って、どんな物を渡すべきか考える素振りもせず、テキパキと店内を動いて装備を持ってきた。
「これだけあれば充分かしら?」
黒いアームカバーと膝サポーター、距骨バンド、焦げ茶色のグローブを、エリュマはクレタに渡した。どれも装備というには軽装である。しかし、クレタはそれを満足そうに受け取った。
「ありがとう。それじゃあ、代金を払うわね」
購入を決定したクレタに、ネメアは驚いた。自分のつけている装備も軽めのものだが、彼女のものはもっと軽い。彼女は自分より強いとはいえ、さすがにそれでいいのかと疑問に思った。
「クレタさん、それだけで良いんですか? せめて、膝当てとか肘当てとかも買った方がいいんじゃ……」
彼の問いかけに、彼女は首を横に振る。
「いいえ、私はこれで充分よ。私の装備を10年近く見繕ってきたエリュマがこれを渡したんだから、間違いないわ。
エリュマ、どうしてこの装備を持ってきたのか、ネメアちゃんに解説してあげて。ネメアちゃんは機転の利く子だから、司令塔の才能もあると思うの。司令塔の先輩として、その洞察力を分けてあげてちょうだい」
「フフッ、クレタったら大げさね。でも、未来ある冒険者を育てるのは、元冒険者の務め。ネメアさん、私の解説を聞いてくれる?」
「ぜひ、聞かせてください」
ネメアは興味津々にエリュマを見つめた。
「了解よ。クレタの役職はファイターだから、まずこの時点で重い装備は除外したわ。ファイターは、剣士みたいに強いダメージを与えられない代わりに、素早く攻撃できる役職だから、身のこなしを駄目にする装備は着けない方がいいの。
次に、ネメアさんが買った方が良いと言ってた膝当てと肘当てだけど、関節の折り曲げを阻害するから、持ってこなかったわ。さっき言った、身のこなしを駄目にする装備ってことね。それに、クレタに渡した装備は一見軽く見えるけど、ちゃんとした効果があるのよ。
アームカバーは、適度な圧力がかかって筋肉の疲労を解消してくれるし、膝サポーターは、関節の動きを助けたり、無理な動きを防いだりしてくれる。距骨バンドを着ければ、足首に力が入りやすくなるし、重心のバランスが整うわ。グローブは、手を保護してくれる」
解説を聞いたネメアは感心した。
「へぇ~、そんな理由があったんですか。エリュマさんって、洞察力だけじゃなくて、色んな知識を持ってて凄いですね」
「ウフフ、そう言ってもらえて嬉しいわ。ネメアさんがもし司令塔をやってみたいなら、沢山本を読んで、先輩冒険者から積極的にアドバイスをもらって。私はそうやって知識を身に着けたわ。もちろん、実際に魔物と対峙して、経験を積むことも大切よ」
「為になるお話をありがとうございます」
礼を言って、ネメアはペコリと頭を下げた。これからはステータスを上げていくだけでなく、知識を増やすことも重要だなぁと思った。ファイヤースネークのように、特徴を知らなければ苦戦を強いられる魔物もいる。クレタとの修業が終わったら、それをすぐ傍で教えてくれる人はいなくなるだろう。
ネメアは如意棒を、クレタは装備を購入し、エリュマの武器屋を出た後、ネメアはクレタに相談した。
「俺、エリュマさんと話していて、もっと魔物について調べたいと思いました。それと、如意棒の扱いに慣れておきたいです。すぐに魔物の討伐には行かないで、俺に勉強する時間をくれませんか」
「もちろん、構わないわよ」
彼の要求を、彼女は快く受け入れた。それから話は進んでいき、冒険者ギルドがある町の宿屋に1週間宿泊しつつ、彼は勉強することが決まった。




