回復だけじゃ駄目なようです
店を出て歩きながら、クレタはネメアに話しかけた。
「さあ、ファイヤースネークの討伐にいきましょう。……と、言いたいところだけど、その前に一つ、ネメアちゃんに確認したいことがあるわ。貴方、盾を召喚する魔法は使えるの?」
「いいえ、使えません。というか、使ってみた事がありません。攻撃されても回復できるんだから、わざわざ防御する必要はないかなぁと思って。
アレスさん達とパーティーを組んでた時も、アレスさんが『攻撃こそ一番の防御だ』って言ってて、補助系の魔法を使うことはあまりありませんでした」
「駄目よそんなの!!」
突然大きな声で彼女が怒鳴り付け、驚いた彼は足を止めると、一歩後ろに下がった。
「ど、どうしたんですかクレタさん」
「どうしたもこうしたもないわよ! もっと自分の体を大切にしなくちゃ!」
鬼の形相を浮かべ、彼女は彼に迫った。怒った美人の顔は怖い。彼女は身体能力が高いため、なおのこと恐怖を掻き立てられた。彼は冷や汗を浮かべ、縮こまってしまう。
「ご、ご、ご、ごめんなさい…………」
しょんぼりと眉を下げた彼を見て、彼女はハッと我に返った。
「こちらこそ、強く怒鳴っちゃってごめんなさいね。貴方に傷ついてほしくないだけなの。とにかく、回復できるから防御しなくても良いっていう考えは危険よ。頭や首に攻撃が当たれば、すぐに死んでしまうことだってあるんだがら。
私が耐火性のある帽子やカバーをいらないって言ったのは、ファイヤースネークの炎の攻撃を、魔法の盾で防げるからよ。ネメアちゃんが盾を召喚する魔法を使ったことが無いって言うなら、今から使えるようになるまで特訓しましょう。それから、作戦も立てないとね」
それまで怒気を含んでいた彼女の声色が優しくなり、彼はホッと一息吐いた。
「そうですよね。いくら回復できると言っても、死んだら元も子もないですもんね。分かりました、盾を召喚する魔法、使えるようになるまで特訓します」
彼が納得したので、彼女は満足げにうんうん頷いた。二人は居住区を離れ、周りに何もない所で特訓を始めた。
「ネメアちゃん、私が魔法で火の玉を放つから、それを盾で防いでみなさい」
「はい!」
クレタが盾を召喚する魔法の呪文を教えると、ネメアは一発でそれを召喚することに成功した。今度は、瞬時に盾を召喚する練習を始めた。
クレタは頭の中で呪文を唱え、ネメア目掛けて火の玉を飛ばした。彼はそれを見て、慌てて呪文を口にする。
間一髪、彼の目と鼻の先に薄い盾が現れて、火の玉を防ぐことができた。しかし、彼が召喚したそれはあまりにも脆く、ガシャンと音を立てて壊れた。
彼は、バクバクと音を立てる胸に手を当てて、彼女に抗議した。
「ちょっと! いきなり火の玉を放ってくるなんて卑怯です!」
「いいえ、卑怯じゃないわ。本物の魔物は、いつ攻撃を仕掛けてくるのかなんて、教えてくれないわよ。ほら、集中して!」
彼に言葉を返した後、彼女は寸秒でまた火の玉を飛ばした。今度は盾を召喚するのが間に合わず、彼は慌てて横に避ける。だが、息つく間もなく、次々と火の玉が飛んできた。地獄の特訓の始まりだった。




