精霊にも馬鹿にされました
朝になり、軽く朝食を取ると、二人は薬草を求めて再び歩き始めた。クレタは寝ていなかったというのに、昨日と変わらず鼻歌を歌っている。ネメアはそんな彼女をみて、さすが全ステータスマックスなだけはあるなぁと感心した。
ネメアのふくらはぎはパンパンで、地面に足を踏み込むごとに、ビリビリとした痛みが走った。筋肉痛になったのだろう。顔をしかめたが、追放された時の事を思いだし、自分を奮い立たせた。馬鹿にされたままでいる訳にはいかない!
二、三時間歩き続けると、急に空から光が差し込んでいる、あまり木の生えていない場所に出た。そこでクレタは足を止め、ネメアに話しかける。
「目的の場所についたわ。この先に、沢山薬草が生えているのよ」
それを聞いて、ネメアはパッと顔を輝かせた。
「うわぁ良かった!! 俺、このままずっと薬草が見つからなくて、森から出られなかったらどうしようかって、ずっと不安でしたよ。行き先がきちんとあったんですね!」
「えぇそうよ。なんの考えもなしに適当な森に入って、適当に薬草採取しようとしてたんじゃないわ。まあ私は、ネメアちゃんと、ずっと森で二人きりって言うのも、なかなか魅力的だと思うけど」
ネメアは背筋が凍りついた。
「何言ってるんですか。さすがにそれは冗談きついです」
ドン引きしているネメアを見て、「からかいすぎちゃったかしら」と、クレタは苦笑した。
二人は光の差し込む奥へと進んでいく。すると、雲を突き抜けそうなほど高く、横幅が五メートルぐらいある巨木が現れた。その後ろに、紫色の花をつけた黄色い葉の薬草が、辺り一面に咲いている。ネメアは思わず駆け出して、さっそく薬草を摘みにいった。
しかし、巨木より先にいこうとすると、手足がカチカチに固まって、動かなくなってしまった。ネメアは首を傾げ、無理やり足を動かそうとする。だが、謎の力で弾き飛ばされて、尻餅をついた。
何が起こったか分からず、困惑した表情でネメアが前方を見ると、巨木が突然光りだし、人の姿へと変わった。痩せた土地のような髪の色、枯れ木のように細い手足、尖った耳をもつ、何者かが現れる。背中からは、太い根のようなものが四本生えていた。
「お主、何者じゃ。この先にある薬草を、何のために使おうとしている?」
巨木から現れた者は、しわがれた老婆の声で、ネメアに尋ねた。彼は戸惑い、声を失う。代わりに、クレタがその者の前に進み出て答えた。
「久しぶりね、巨木の精霊さん。この子は私の弟子よ。全ステータスをマックスにする修行のために、ここへ来たの。いざとなった時のために薬草を分けてもらいたいんだけど、いいかしら?」
精霊とは、強い魔力のこもった自然の物質が、意思を持つことによって生まれる生命体だ。人間よりも遥かに長生きし、膨大な量の魔力を持っている。また、人間に手を差しのべたり、災いを引き起こしたりして、世界の調和を保っている。
滅多にお目にかかれず、選ばれた者しか、精霊に会うことはできないと言われているため、ネメアは唖然とした。これが、噂に聞く精霊なのか。
巨木の精霊はクレタの方に視線を向けて、歩み寄った。
「あぁクレタ、お主の頼みなら構わんぞ。ただ、そこの弱そうな小僧に、薬草をくれてやるのは無理じゃの」
「弱そう」という言葉にカチンときて、我に帰ったネメアは勢いよく立ち上がった。
「言ってくれますね。俺だって、それなりに戦えるんですよ」
「ほほう。それじゃ小僧、わしと勝負するか? 勝てば、いくらでも薬草を渡してやるぞい」
「えぇ、挑むところです」
ネメアと巨木の精霊は目を合わせ、火花を散らす。クレタは二人のもとから離れ、戦いの様子を見守ることにした。




