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高価な物は要りません

 ファイヤースネーク討伐の依頼を受けたネメアとクレタは、そいつが生息する砂漠の町まで赴いた。ギルドのある町から砂漠の町までは、馬車で4日ほどかかる。ほとんどの時間を馬車の席で座って過ごしていた二人は、町に到着すると、大きく背筋を伸ばした。


「くぁ~、ようやく自由に動けるわね」


「そうですね。ていうかここ、めちゃくちゃ暑くないですか? 日光を砂が反射して眩しいですし」


 額に手を当てて、ちょっとした日陰をつくり、ネメアは目蓋を下げた。クレタは彼の意見に同意する。


「確かにそうね。帽子がないと日射病になりそうだわ。お店へ買いにいきましょう」


 二人はファイヤースネークを討伐する前に、日干しレンガでできた家々が建ち並ぶ居住区へと向かった。その中に、『服屋』と書かれた小さな看板が扉に下げられている建物を見つけ、二人は中に入っていった。


 店に入ると、カウンターに立っていた浅黒い肌の女性が前へ出て、用件を尋ねてきた。


「いらっしゃいお客さん。何をお求めだい?」


「日除け帽子を買いにきました」


 クレタが答えると、女性店員は二人の服装を見てパンッと手を叩いた。


「お二人さんは冒険者だね! 何の討伐に来たんだい?」


「ファイヤースネークです」


「ファイヤースネーク!? あんな強い魔物を、たった二人で倒しにいくのかい?」


 女性店員は目を見開いて驚いた。その反応にネメアは苦笑する。彼も、まさかファイヤースネークの討伐に行かされる羽目になるなんて思っていなかった。依頼を提供してきた係員のヘスが、怨めしくて仕方がない。


 慌てた様子で女性店員は店内を見渡し、帽子の並んでいる棚から、赤い炎の刺繍が施された日除け帽子と、足元に身に付けるものが並んでいる棚から、砂避けカバーを二組持ってきた。


「ファイヤースネークの討伐にいくなら、これを買っていきな。値は張るけど、この日除け帽子と砂避けカバーは、火が点いても燃えない魔法がかけられているんだ。全部で金貨一枚になるけど、どうだい?」


 帽子と砂避けカバーのセット二組で、金貨一枚の値段になるのは破格の高さだ。普通のものなら銀貨五枚ですむ。しかし、ネメアは値段の高さに最初こそギョッとしたものの、燃えない装備というのはかなり便利なため、購入してもいいのではないかという考えが頭をよぎった。


 だが、彼が「買います」と宣言する前に、クレタが首を横に振ってしまった。


「お気遣いありがとうございます。でも、私たちは普通のもので十分ですよ」


「え!?」「えぇっ!?」


 女性店員と声を揃えて、ネメアは驚嘆の声を上げた。クレタの仲間であるネメアまで驚いている様子を見て、女性店員はクレタを説得しようとする。


「いやいや、ファイヤースネークの討伐は相当危ないことなんだよ。前に、ろくに装備も揃えず討伐に向かって、死にかけた4人組パーティーだっていたんだから。私は実際にその人達を見たわけじゃないけど、あんまりにもボロボロで可哀想だったって、町の皆が話していたんだ」


 話を聞いて、ネメアはドキリとした。今の話は、アレスパーティーに所属していた頃の自分の事かもしれない。まさか、砂漠の町中で噂になっているとは思わなかった。恥ずかしくて顔から火が出そうだ。


 ネメアが羞恥心を感じていることなど露知らず、女性店員は話を続ける。


「それで、パーティーメンバーの中の回復魔法を使える男が、ずっと仲間に回復魔法をかけてやっていたから、一命を取り留めたんだってね。その男がいなかったら、今頃あの世行きだっただろうに。だからお姉さん、この装備を買っていった方がいいよ」


 続きを聞いて、ネメアはやはり自分の事を言っているのだと確信した。


 あの時、自分の体力も限界だったけど、仲間を死なせてはいけないという必死の思いで、回復魔法をかけ続けた。俺のおかげでアレスさん達が救われたと伝わっているなんて、不思議な気分だ。役立たずと言われて追放されたのに。


 ネメアは首を傾げ、それから「フフッ」と笑った。修行をする前の自分は本当に役立たずだったと思っていたけれど、意外とそうではないと気づけたからだ。客観的に見たら、十分パーティーの役に立てていたのだ。


 自信が湧いてきた。高い装備を買わなくても、俺とクレタさんならファイヤースネークを討伐できる。それに、火山での修行で回復魔法を強化することができたのだから、火に当たっても平気だろう。


「店員さん、やっぱり俺も、普通の日除け帽子と砂避けカバーがあれば大丈夫です」


 ネメアがそう宣言すると、店員はまたまた困惑した表情になり、クレタは彼に視線を向けた。


「あら、ネメアちゃんがわたしの意見に賛成してくれるなんて珍しいわね。どういう心境の変化かしら?」

 

「俺とクレタさんは、副作用無しで回復魔法を使えますし、俺は遠距離から使うこともできるようになりました。だから、ファイヤースネークに火を吹き付けられても、大丈夫だろうと思ったんです」


「ウフフ、私も同じことを思っていたわ」


 二人の意見が一致した。燃えない装備を売ろうとしていた店員は、こうなってしまえば引き留められないだろうと思い、眉根を寄せて溜め息を吐いた。


「はぁ、分かったよ。私は止めたからね。後で色々言わないでおくれよ」


「もちろんです」


 ネメアは大きく頷いた。


 普通の日除け帽子と、砂避けカバーを買い、その場で身に付けて、二人は店を出ていった。女性店員は、最後まで浮かない顔をしていた。



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